Y's Square:病院感染、院内感染対策学術情報 > 感染対策学術情報 > 消毒薬テキスト(Y’s Text) > IV 対象微生物による消毒薬の選択 > 5)四類・五類感染症
Y’s Text
IV 対象微生物による消毒薬の選択

8 感染症法の類別における微生物

5)四類・五類感染症

四類感染症は2003年法改正に伴い、動物由来感染症の中から政令により指定されており、媒介動物の輸入規制や消毒、ねずみ等の駆除等の措置が行われる。五類感染症は2003年法改正前の「旧四類感染症」に相当し、国が感染症発生動向調査を行い、その結果を公開していくことにより発生・拡大を防止する感染症で、省令で指定されている。五類感染症は、感染症を診断したすべての医師が7日以内に都道府県知事等に届ける全数把握の対象と、指定届出機関の管理者が週単位あるいは月単位で都道府県知事等に届ける定点把握の対象に分けられる。以下これらについて原因病原体の種類別に述べる。

(1)プリオン

(1)クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)(五類、全数把握)

病原体:異常型プリオン
感染対策: 標準予防策(脳、脊髄、眼組織に特別な注意が必要)
消毒法: プリオンの不活性化には特別な処理法が必要。表Ⅳ-17~表Ⅳ-19を参照

IV-7 プリオンを参照】

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(2)ウイルス

(1)E型肝炎(四類)267)

病原体: E型肝炎ウイルス(Hepatitis E virus: HEV)-ヘペウイルス科、ヘペウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない
感染対策: 標準予防策、失禁がある場合などは接触予防策を追加
消毒法: エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法

多くの場合不顕性感染である。潜伏期はおおむね30~40日で、発症すると黄疸、倦怠感、肝腫大、食欲不振を呈する。慢性化しないが、劇症肝炎に発展することがあり、特に妊娠第三期の妊婦においては重篤化する確率が高い。10代~30代に発症例が多くみられる。発展途上国において、飲料水汚染による大規模な集団感染が発生しているが、様々な動物からもHEV様ウイルスが検出されている。日本でもブタからHEVが検出されている。主な感染経路は飲料水を介した糞便-経口感染であるが、感染症例の糞便中に排泄されたHEVが病院内での直接・間接接触により伝播する可能性がある。ただしその頻度はHAVより低いといわれている。

(2)ウエストナイル熱(四類)268~271)

病原体: ウエストナイルウイルス(West Nile virus)-フラビウイルス科フラビウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: 血中ウイルスを対象とする方法

トリを自然宿主とし蚊をベクターとしてヒトへ伝播する。アフリカ、中近東、西アジア、ヨーロッパで発生しているが、1999年より米国でも発生が見られるようになった。発症すると急性熱性疾患となり、多くの場合数日で解熱し自然治癒するが、高齢者などにおいて脳炎をもたらし死因となることがある。輸血による感染、子宮内母子感染、感染動物解剖中の針刺し切創感染が報告されており、臓器移植、母乳による伝播の疑いも報告されている。通常の感染経路は蚊に刺されることであるが、感染症例の血液、体液に注意する。

(3) A型肝炎(四類)272、273)

病原体: A型肝炎ウイルス(Hepatitis A virus: HAV)-ピコルナウイルス科ヘパトウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない
感染対策: 標準予防策、失禁がある場合などは接触予防策を追加
消毒法: エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法

潜伏期間は平均30日程度で、食欲不振、悪心、嘔吐、不快感、発熱、頭痛、腹痛などの前駆症状の後、黄疸を発症し、疲労感が継続する。ほとんどの場合特別な治療なしに数十日で自然治癒するが、劇症肝炎に発展することもある。成人において比較的重い症状を呈する確率が高い。主な感染経路は糞便-経口感染で、血液感染も成立する。主に魚介類、生野菜、井戸水、排水などを介して伝播するが、環境において長時間感染性を保つため、感染症例の糞便中に排泄されたHAVが病院内での直接・間接接触により伝播することがある。また輸血、注射針の共用によるウイルス血症もある。少数ながら霊長類からヒトへの感染も報告されている。

(4)黄熱(四類)

病原体: 黄熱ウイルス(Yellow fever virus)-フラビウイルス科フラビウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: 血中ウイルスを対象とする方法

サル(森林型)またはヒト(都市型)を自然宿主とし、ネッタイシマカをベクターとしてヒトへ伝播する。アフリカと南米で発生している。一過性の熱性疾患の場合もあるが、黄疸、腎不全、出血傾向をもたらして死因となることもある。通常の感染経路は蚊に刺されることであるが、感染症例の血液、体液に注意する。

(5)オムスク出血熱(四類)274、275)

病原体: オムスク出血性ウイルス(Omsk hemorrhagic fever virus)-フラビウイルス科フラビウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

1943~1945年にシベリアのオムスク地方にていくつかの流行が認められ、1947年に感染患者の血液から初めてウイルスが分離された。オムスク地方以外にもシベリア南部のノボシビルスクやシベリア東部のクルガンおよびチュメンの森林や湿地帯にて流行している。感染経路はウイルスを保有するダニを介してヒトへ伝播するが、近年ヒト感染のほとんどが自然宿主であるマスクラット(Ondatra zibethica)に直接接触することで伝播していると報告されている。

(6)キャサヌル森林病(四類)276)

病原体: キャサヌル森林病ウイルス(Kyasanur Forest disease virus)-フラビウイルス科フラビウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

1957年のインドのカルナタカ地方のシモガにあるキャサヌル森林にて捕獲されたサルにおいて初めて確認された。ネズミなどのげっ歯類や鳥などが自然宿主として知られており、ヒトへの感染はダニが媒介する。ヒト-ヒト感染は現在のところ報告がない。

(7)狂犬病(四類)

病原体: 狂犬病ウイルス(Rabies virus)-ラブドウイルス科リッサウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策、場合により接触予防策を追加
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

典型的には感染したイヌ、ネコの咬創によりヒトへ伝播するが、吸血コウモリ、キツネ、オオカミなど野生肉食動物が媒介動物で、狂犬病ウイルスはそれらの唾液に含まれる。症状は咬創周囲の知覚異常、疼痛、不安感、頭痛、反射性痙攣、嚥下困難、恐水症、昏睡、呼吸困難で致命的となる。現在日本には感染動物がほとんど存在しないと言われ、しかも飼い犬にはワクチン接種が義務付けられている。ただし、輸入動物による感染の可能性が存在する。感染症例には標準予防策を基本とするが、接触予防策の追加も考慮する277)

(8)サル痘(四類)278~280)

病原体: サル痘ウイルス(Monkeypox virus)-ポックスウイルス科コードポックスウイルス亜科オルトポックスウイルス属、DNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策、接触予防策および飛沫予防策、場合により空気予防策を追加
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

サルなど霊長類に発生するが、1970年コンゴでヒトの感染例が発見され、1996~1997年に同じくコンゴでヒトの大規模な集団発生があった。2003年には米国でガーナからの輸入動物に由来するヒトの集団感染が発生した。発熱、頭痛、背痛、倦怠感などを生じ、痘そうと同様に丘疹や膿疱などを形成する。アフリカにおいて致死率は1~10%と報告されており、痘そうよりは低い。ヒトからヒトへの伝播は痘そうよりも緩慢で、感染症例との接触や飛沫によって伝播すると思われるが、空気感染の可能性も否定されていない。したがって、感染症例には接触予防策および飛沫予防策を行い、場合により空気予防策を追加する。

(9) ジカウイルス感染症(四類)281、282)

病原体: ジカウイルス(Genus Zika virus)-フラビウイルス科フラビウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

ジカウイルスは、ネッタイシマカやヒトスジシマカなどのヤブカ属が媒介してヒトへ伝播する。2015年5月以降、ブラジルをはじめとする中南米地域において多数の患者が報告され、媒介蚊であるヒトスジシマカが国内各地に生息しているため今後国内で感染者が出る可能性もある状況などから、ジカウイルス感染症が2016年2月に四類感染症に指定された283)。一般的に2~12日(多くは2~7日)の潜伏期の後、軽度の発熱、発疹、結膜炎、筋痛や関節痛、倦怠感、頭痛などが現れる。通常、これらの症状は軽く、2~7日続いて治まる。感染者のうち、発症するのは約20%とされる。予防策としては、蚊にさされないように長袖・長ズボンを着用し、忌避剤の使用などを行う。妊娠中のジカウイルス感染と小頭症との関連が指摘されており、妊婦や妊娠予定の女性は感染に注意が必要である。また、ギラン・バレー症候群との関連性についても調査が行われている。

(10)重症熱性血小板減少症候群(病原体がフレボウイルス属SFTSウイルスであるものに限る。)(四類)

病原体:SFTS(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)ウイルス-ブニヤウイルス科フレボウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策:標準予防策および接触予防策
消毒法:エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

臨床症状は6日~2週間の潜伏期の後、発熱、倦怠感、食欲低下、消化器症状(腹痛、嘔吐、下痢等)、リンパ節腫脹、出血症状がみられ、臨床検査では共通して血小板減少、白血球減少等が認められる284~286)。感染経路は、マダニによる媒介のほか287)、中国では血液を介したヒト-ヒト間による接触感染例も報告されている288~290)。マダニは森林、山等の野外に生息するため、森林、山等では長袖、長ズボンを着用し肌が露出しないようにし、家畜にもマダニが寄生することから家畜に接する際にも同様に注意する。医療機関においては標準予防策のほか、接触予防策を追加した対策を実施する291)

(11)腎症候性出血熱、ハンタウイルス肺症候群(四類)292)

病原体:ハンタウイルス(Genus Hantavirus)-ブニヤウイルス科ハンタウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策:標準予防策
消毒法:血中ウイルスを対象とする方法

腎症候性出血熱は日本・中国を含む東アジア、ロシア、東欧、北欧で発生し古くから知られており、発熱、低血圧性ショック、腎疾患、出血傾向を症状とする。ハンタウイルス肺症候群は1993年以降北米、南米から報告されており、発熱、筋肉痛、肺浮腫、呼吸困難を症状とし死亡率が高い。ハンタウイルスはドブネズミなど野ネズミを自然宿主とするウイルスで、ネズミの尿、糞便を含む塵埃の吸入、またはネズミの咬創による唾液の侵入によりヒトへ感染する。ヒトからヒトの感染はないとされているが、急性期の血液や尿からウイルスが分離されるため、感染症例の血液、分泌物、排泄物に注意を払う。

(12)西部ウマ脳炎(四類)293)

病原体: 西部ウマ脳炎ウイルス(Western equine encephalitis virus)-トガウイルス科アルファウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

自然宿主は鳥であり、蚊がベクターとなってウマなどの哺乳動物へ感染するが、散発的にヒトも感染する動物由来感染症。アメリカ西部を中心にカナダ西部からアルゼンチンまでの西半球で認められている。流行地では蚊が発生する時期や時間には外出を避け、外出する場合の服装は長袖・長ズボンが好ましい。

(13)ダニ媒介脳炎(四類)294)

病原体: ダニ媒介脳炎ウイルス(Tick-borne encephalitis virus)-フラビウイルス科フラビウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

ダニ媒介脳炎ウイルスはいくつかのサブタイプに分類されるが、主なものに中央ヨーロッパダニ媒介脳炎を引き起こす中央ヨーロッパダニ媒介脳炎ウイルスおよびロシア春夏脳炎を引き起こすロシア春夏脳炎ウイルスがある。中央ヨーロッパダニ媒介脳炎は中央・東・北ヨーロッパおよびロシア、バルト海沿岸諸国で流行している。またロシア春夏脳炎はロシア極東地域を中心に流行するが、日本国内では1993年に北海道で感染者を認めた報告もある295)。ヒトへの感染はウイルスを保有するダニに刺咬される事によって生じる。またヤギの生乳を介して感染した報告もある。

(14)チクングニア熱(四類)

病原体: チクングニアウイルス(Chikungunya virus)-トガウイルス科アルファウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

ネッタイシマカやヒトスジシマカなど蚊をベクターとしてヒトへ伝播する。アフリカやアジアなどを中心に散発的に流行がみられ、レユニオン島では人口の約34%が罹患する大流行が報告されている296)。潜伏期間は3~12日(通常3~7日)で、主な症状は発熱、関節痛、発疹などが高頻度に見られる。重症例では神経症状(脳症)、劇症肝炎が報告されている297)。予防対策としては、蚊にさされないように皮膚の露出を避け、長袖、長ズボンを着用し、忌避剤の使用などを行う。感染症例に対しては、血液や体液の汚染リスクがある場合にはガウン、マスク、ゴーグルなどの個人防護具を装着する298)

(15)デング熱(四類)

病原体: デングウイルス(Dengue virus)-フラビウイルス科フラビウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: 血中ウイルスを対象とする方法

ヒトを自然宿主としネッタイシマカなど蚊をベクターとしてヒトへ伝播する。熱帯、亜熱帯地域に広く分布する。不顕性感染の場合もあり、発症しても一過性の発熱、発疹など熱性疾患(デング熱)に留まることが多いが、出血傾向を伴うデング出血熱、ないしデングショック症候群をもたらして死因となることもある。2014年に国内感染例が発生したことから、海外の流行地域からの帰国者だけでなく、海外渡航歴がない者についても、デング熱を疑う必要性が生じている。予防対策としては、蚊にさされないように皮膚の露出を避け、長袖、長ズボンを着用し、忌避剤の使用などを行う。感染症例に対しては、血液や体液の汚染リスクがある場合にはガウン、マスク、ゴーグルなどの個人防護具を装着する298)

(16)東部ウマ脳炎(四類)293~299)

病原体:東部ウマ脳炎ウイルス(Eastern equine encephalitis virus) – トガウイルス科アルファウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

自然宿主は鳥であり、蚊がベクターとなってウマなどの哺乳動物へ感染するが、散発的にヒトも感染する動物由来感染症。主にカナダ東部やアメリカ東部で流行が見られるが、キューバなどのカリブ諸国や南米においても感染の報告がある。流行地では蚊が発生する時期や時間には外出を避け、外出する場合の服装は長袖・長ズボンが好ましい。感染患者の血液や髄液からウイルスが分離されることがあるので、血液・体液に汚染される可能性がある場合には手袋、マスク、ゴーグルなどの個人防護具を装着する。

(17)鳥インフルエンザ(鳥インフルエンザH5N1を除く)(四類)300、301)

病原体: 鳥インフルエンザウイルス(avian influenza virus、Genus Influenzavirus Aの一部)-オルトミクソウイルス科インフルエンザウイルスA属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策および飛沫予防策、場合により接触予防策を追加
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

基本的には鳥の(エビアン:avian)インフルエンザウイルスA型のうち、病原性の高いものによるトリの感染症であり、通常ヒトには感染しないが、まれにヒトにも感染する。

鳥インフルエンザウイルスが、ブタなどを介した遺伝子交雑によりヒトへの感染性を高めて大流行をもたらす可能性が危惧されている。1996年英国で、ヒトの結膜炎症例からA(H7N7)型が検出された。2003年オランダ周辺で家禽にA(H7N7)型感染が流行し、養禽従事者とその家庭で結膜炎が集団発生した。その際ヒトからヒトへの伝播も発生し、またインフルエンザ様症状から重症肺炎になった死亡例も報告された。1997年香港で呼吸器不全によって死亡した3歳の幼児からA(H5N1)型が検出され、さらに死亡者6人を含む18人にA(H5N1)型ウイルス感染が確認された。1999年には同じ香港でA(H9N2)型のエビアンインフルエンザウイルスが2人の小児に感染した。鳥インフルエンザウイルスの感染症例には、通常のインフルエンザと同様、飛沫予防策を行い、結膜炎症状がある場合などには接触予防策を追加する。

なお、鳥インフルエンザ(H5N1)は2008年5月、鳥インフルエンザ(H7N9)は2015年1月より二類感染症に指定されている。

(18)ニパウイルス感染症(四類)302)

病原体: ニパウイルス(Nipah virus)-パラミクソウイルス科パラミクソウイルス亜科へニパウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

1998年マレーシアで報告された。ニパウイルスはオオコウモリを自然宿主とし、ブタを経由してヒトに感染する。発熱、頭痛、眩暈、嘔吐を症状とし、脳炎に至って高い死亡率をもたらす。感染したブタの尿、唾液、咽頭・肺分泌物を吸い込んだブタに伝播し、また養豚作業者などに伝播することがある。ヒトからヒトへの伝播はごくまれと言われている。

(19)日本脳炎(四類)

病原体: 日本脳炎ウイルス(Japanese encephalitis virus)-フラビウイルス科フラビウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: 血中ウイルスを対象とする方法

ブタ、ウマ、ウシを自然宿主としコガタアカイエカをベクターとしてヒトへ伝播する。ワクチン接種が普及した後の日本ではあまり見られないが、東アジア、南アジアで流行を続けている。多くが無症候に終わるが、突然の高熱、頭痛、嘔吐から脳炎を発症した場合にはしばしば死因となり、また後遺症として知能・運動障害をもたらすことが多い。通常の感染経路は蚊に刺されることであるが、感染症例の血液、体液に注意する。

(20)Bウイルス病(四類)

病原体: Bウイルス(Macacine herpesvirus 1、あるいはB-virus)-ヘルペスウイルス科アルファヘルペスウイルス亜科シンプレックスウイルス属、DNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策、場合により接触予防策を追加
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

Bウイルスはマカカ属などのサルを宿主とし、咬創によってヒトへ感染し、致命的な脳炎を起こす。サルの分泌液や培養細胞との接触による皮膚・粘膜からの伝播も成立する。感染症例には標準予防策を基本とするが、咬創部位、唾液、結膜からウイルスが検出されることもあるため、場合により接触予防策を追加する277)

(21)ベネズエラウマ脳炎(四類)303)

病原体: ベネズエラウマ脳炎ウイルス(Venezuelan equine encephalitis virus)-
トガウイルス科アルファウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

自然界ではコットンラットやアメリカトゲネズミなどのげっ歯類と蚊の間で感染環が維持されており、蚊が媒介となってウマやヒトへ感染するため、他のウマ脳炎同様、蚊対策を行う。また感染患者の血液や髄液からウイルスが分離されることがあるので、血液・体液に汚染される可能性がある場合には手袋、マスク、ゴーグルなどの個人防護具を装着する。

(22)ヘンドラウイルス感染症(四類)304~306)

病原体: ヘンドラウイルス(Hendra virus)-パラミクソウイルス科パラミクソウイルス亜科ヘニパウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

1994年にオーストラリアのブリスベン近郊にあるウマ調教施設においてヒト2名およびウマ18頭が肺炎などの呼吸器疾患を呈し、そのうちヒト1名、ウマ14頭が死亡した。当初、死亡したヒトおよびウマから分離されたウイルスがパラミクソウイルス科のモービリウイルス属のウイルスに類似していることからウマモービリウイルスと命名された。しかしその後、既存のパラミクソウイルス科に分類される属のウイルスとは異なる性質をもつことから分類の見直しが行われ、2002年に新たな属であるヘニパウイルス属が作られ、ヘンドラウイルスとニパウイルスが本属に分類された。

自然宿主はオオコウモリで、オーストラリア東海岸からパプアニューギニアに生息するオオコウモリの9%がウイルス陽性反応を示した報告がある。感染したオオコウモリの死骸や糞便・尿などの排泄物によって牧草や飼料が汚染され、それをウマが摂取することで感染する。ヒトへは感染しているウマに接触することや呼吸器分泌物の接触・吸入により伝播する。

(23)リッサウイルス感染症(四類)307)

病原体: 狂犬病関連リッサウイルス(European bat lyssavirus 1、2、 Australian bat lyssavirus、Lagos bat virus、Duvenhage virus、Mokola virusなど)-ラブドウイルス科リッサウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策、場合により接触予防策を追加
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

European bat lyssavirus 1、2はヨーロッパの食虫コウモリ、 Australian bat lyssavirusはオーストラリアのオオコウモリ(flying foxes、fruit bats)など食果実コウモリと食虫コウモリ、 Lagos bat virusはアフリカの食果実コウモリ、Duvenhage virusはアフリカの食虫コウモリ、Mokola virusはアフリカのトガリネズミなどが媒介動物である。これら狂犬病関連リッサウイルスは狂犬病と類似の症状をもたらす。感染症例には標準予防策を基本とするが、接触予防策の追加も考慮する。

(24)リフトバレー熱(四類)308、309)

病原体: リフトバレー熱ウイルス(Rift Vally fever virus)-ブニヤウイルス科フレボウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

自然宿主はヒツジ、ヤギなどの反芻動物で、ヒトへの感染は蚊が媒介する。時に感染動物の血液、体液、組織への接触やエアロゾルによって伝播する可能性もあり、またごく稀に感染動物の生乳を介して伝播することもある。主にアフリカで大雨や洪水時などの蚊が大量発生しやすい状況で流行しているが、2000年には中東での流行も見られている。

(25)ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く)(五類、全数把握)

病原体: B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus: HBV)-ヘパドナウイルス科オルソヘパドナウイルス属、DNA型ウイルス、エンベロープを有する。C型肝炎ウイルス(Hepatitis C virus: HCV)-フラビウイルス科ヘパシウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する。その他の肝炎ウイルス
感染対策: 標準予防策
消毒法: 血中ウイルスを対象とする方法

IV-5-1)-(1) B型肝炎ウイルス および IV-5-1)-(2) C型肝炎ウイルス を参照】

(26)急性脳炎(ウエストナイル脳炎、西部ウマ脳炎、ダニ媒介脳炎、東部ウマ脳炎、日本脳炎、ベネズエラウマ脳炎及びリフトバレー熱を除く)(五類、全数把握)

病原体: 単純ヘルペスウイルス、麻しんウイルス、ムンプスウイルス、インフルエンザウイルス(以上エンベロープを有する)、エンテロウイルス71型(エンベロープを有しない)、その他のウイルス、細菌、真菌、マイコプラズマ、原虫による急性脳炎も五類、全数把握である。
感染対策: 標準予防策、微生物の種類により感染経路別予防策を追加
消毒法: 微生物の種類により選択

急性脳炎の多くがウイルスによるものである。小児に多く発生する。発熱、頭痛、嘔吐、痙攣、意識障害、神経症状などが見られ、致命的であることも多い。

(27)後天性免疫不全症候群(五類、全数把握)

病原体: ヒト免疫不全ウイルス(Human immunodeficiency virus 1、2:HIV)-レトロウイルス科オルソレトロウイルス亜科レンチウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: 血中ウイルスを対象とする方法

IV-5-1)-(3)ヒト免疫不全ウイルス 】

(28)水痘(入院例に限る。)(五類、全数把握)、水痘(五類、定点把握)310、311)

病原体: 水痘-帯状疱疹ウイルス(Human herpesvirus 3、あるいはVaricella-zoster virus)-ヘルペスウイルス科アルファヘルペスウイルス亜科ワリセロウイルス属、DNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策:標準予防策、接触予防策および空気予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

主に小児の時に初感染して水痘(水ぼうそう)を発症し、治癒後神経節に潜伏感染する。その後加齢や免疫力低下などの要因により回帰感染して帯状疱疹を発症する。免疫低下が著しい場合、ウイルス血症、肺炎にいたることもある。ウイルスは気道分泌物や水疱内容物に含まれ、感染性が強く、発症者から他のヒトへ接触伝播し、また病院内における空気感染も報告されている。水痘症例には接触予防策を行い、さらに空気予防策またはそれに準じた対策を行う。少なくとも白血病患者、移植患者、HIV感染者、妊婦、新生児が発症患者と同室しないよう注意を払う。帯状疱疹症例には標準予防策を基本とする。 多くの人に小児期の感染歴があるが、感染歴やワクチン接種歴(任意接種)のない医療従事者は、自ら水痘に罹患することのみならず自らが感染源となることを避けるため、原則として感染症例を担当しないようにする。

(29)先天性風しん症候群(五類、全数把握)、風しん(五類、全数把握)310、312)

病原体: 風しんウイルス(Rubella virus)-トガウイルス科ルビウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策および飛沫予防策、場合により接触予防策を追加
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

風しんは発熱、発疹、リンパ節腫脹を主な症状とする感染症であり、流行は春から初夏にかけて多くみられる。妊婦が感染すると胎盤で増殖して胎児に感染し、白内障、心疾患、難聴などの先天性風しん症候群をもたらす場合がある。2013年に国内で大規模なアウトブレイクが発生した際、その患者の多くは成人で、男性の20~40代、女性の20代での症例が多かったことが報告された。風しん報告数の増加に伴い先天性風しん症候群の報告数も増加し、2013年のアウトブレイク時には過去最多の32例となった313、314)。風しん及び先天性風しん症候群は発症後に特異的な治療法はなく、ワクチン接種による予防が重要となる315、316)

風しんの感染経路は飛沫感染のため、標準予防策と飛沫予防策を遵守する。先天性風しん症候群の症例からは、一定期間風しんウイルスが検出されることから飛沫感染ならびに接触感染の予防を考慮して対応する。感染症例が妊婦や免疫機能が低下している患者と接触しないよう配慮する。免疫のない医療従事者は、水痘や麻しんと同様の理由により、原則として感染症例を担当しないようにする317、318)

なお、平成19年12月28日改正の感染症法施行規則(厚生労働省令第159号)により平成20年1月1日から全数把握疾患に変更されている。

(30)麻しん(五類、全数把握)310、319)

病原体: 麻しんウイルス(Measles virus、またはRubeola virus)-パラミクソウイルス科パラミクソウイルス亜科モービリウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策および空気予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

小児に多いが、成人でも発病することがある。麻しんウイルスは経気道感染し、咽喉頭で増殖して発熱、結膜炎、上気道炎を起こし(カタル期)、さらに発疹をもたらして麻しん(はしか)を起こす。通常は自然治癒するが、乳幼児において肺炎や脳炎を合併することがある。また成人や移植患者が麻しんに罹患した場合には重症化する傾向がある。麻しんウイルスはカタル期において涙液、唾液中に大量に排出され、これらの飛沫が気道粘膜へ接触して伝播すると思われるが、空気感染もしばしばみられる。感染性が強く、かつ発症率も高く、医療関連感染も多く報告されている。感染症例には空気予防策またはそれに準じた対策を行う。少なくとも移植患者、新生児が感染症例と同室しないよう注意を払う。多くの人がワクチン接種(制度的接種)や小児期の感染により免疫を獲得しているが、免疫のない医療従事者は、自ら麻しんに罹患することのみならず自らが感染源となることを避けるため、原則として感染症例を担当しないようにする。

なお、平成19年12月28日改正の感染症法施行規則(厚生労働省令第159号)により平成20年1月1日から全数把握疾患に変更されている。麻しんの発生届は診断後7日以内に行うことが定められているが、より迅速な行政対応に資するために24時間以内を目処に最寄りの保健所に報告することが求められている。

(31)RSウイルス感染症(五類、定点把握)

病原体: RSウイルス(Human Respiratory syncytial virus)-パラミクソウイルス科ニューモウイルス亜科ニューモウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策および接触予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

主に冬季に流行し、成人において通常軽度の上気道感染などかぜ症候群症状をもたらすが、小児や高齢者では重症となる傾向があり、細気管支炎、肺炎、気管気管支炎をもたらすことがある。RSウイルスは感染症例の鼻汁に含まれ、それが直接・間接に眼や鼻に触れることで頻繁に接触感染する。小児などにおける医療関連感染が問題となっている。接触予防策の有効性が報告されている320)

感染症法の対象外であるが、かぜ症候群の原因となるウイルスで、RSウイルスと同様の感染対策が必要なものとして以下のウイルスがある。

パラインフルエンザウイルス(Human Parainfluenza virus 1、2、3、4)-パラミクソウイルス科パラミクソウイルス亜科レスピロウイルス属(1、3型)またはルブラウイルス属(2、4型)、RNA型ウイルス、エンベロープを有する。ライノウイルス(Human Rhinovirus A、B、C)-ピコルナウイルス科エンテロウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない。コロナウイルス(Genus AlphacoronavirusまたはBetacoronavirus)-コロナウイルス科コロナウイルス亜科アルファコロナウイルス属またはベータコロナウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する。アデノウイルス3、4、7、11型(Human Adenovirus 3、4、7、11)など-アデノウイルス科マストアデノウイルス属、DNA型ウイルス、エンベロープを有しない。

(32)咽頭結膜熱(五類、定点把握)

病原体: アデノウイルス3、4、7、11型(Human Adenovirus 3、4、7、11)など-アデノウイルス科マストアデノウイルス属、DNA型ウイルス、エンベロープを有しない(親油性)
感染対策: 標準予防策、接触予防策および飛沫予防策
消毒法: エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法

小児に多く、症状は発熱、咽頭炎、結膜炎である。学校ではプールによる感染が多く、プール熱とも呼ばれる。接触感染および飛沫感染であり、器具、点眼薬、手指の汚染に注意が必要である。タオルの共有によることもある。

(33)感染性胃腸炎(五類、定点把握)321~325)

病原体: ノロウイルス(Genus Norovirus)-カリシウイルス科ノロウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない。アストロウイルス(Human astrovirus)-アストロウイルス科マムアストロウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない。アデノウイルス40、41型(Human Adenovirus 40、41)-アデノウイルス科マストアデノウイルス属、DNA型ウイルス、エンベロープを有しない(親油性)。その他のウイルス、細菌などによる感染性胃腸炎も五類、定点把握である。
感染対策: 標準予防策、失禁がある場合などは接触予防策を追加
消毒法: エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法

ノロウイルス(Genus Norovirus)は以前、ノーウォーク様ウイルス(Norwalk-like viruses)と呼ばれていたが、2002年国際ウイルス学会においてこのように命名された。ノロウイルスの代表種はNorwalk virusである。

ウイルスによる感染性胃腸炎は乳幼児に多いが、ノロウイルスによるものは成人にも多い。症状は嘔吐、発熱、下痢などである。感染経路は汚染された水、食品を摂取することによる経口感染と、感染症例の糞便に排泄されたウイルスの接触伝播による糞便-経口感染(2次感染)である。ノロウイルスは典型的には生カキ等の二枚貝による食中毒の原因であるが、少量の伝播で感染が成立するため324、326)、施設内、病院内で2次感染としての集団感染も多発している。小児ではアストロウイルス、アデノウイルスによる医療関連感染も多い。感染症例には標準予防策を基本とするが、失禁がある場合などは接触予防策を追加する317)

(34)手足口病(五類、定点把握)

病原体: コクサッキーウイルスA16、A10型(Human coxsackievirus A16、A10)、およびエンテロウイルス71型(Human enterovirus 71)など-ピコルナウイルス科エンテロウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法

口唇粘膜および四肢末端(手背や足底など)に水疱性の発疹が現れる、通常は予後良好の発熱性疾患で、主に小児や乳幼児を中心に夏季に流行が起こる327~329)。初期症状として発熱がみられ、その後、食欲不振、不快感、喉の痛みなどが生じ、水疱性発疹が現れる330)。発疹の主な発生部位として手掌、手背、足底、足背や口腔粘膜、臀部などが挙げられている328、329、331、332)

エンテロウイルス71型による流行期においては、コクサッキーウイルスA16による流行期と比べて中枢神経合併症として脳炎や脳脊髄炎の頻度が高いとされる333、334)。アルコールに対する抵抗性が高いため、手指衛生は石けんと流水による手洗いを基本とする。

(35)伝染性紅斑(五類、定点把握)

病原体: ヒトパルボウイルスB19型(B19 virus、あるいは Human parvovirus B19)-パルボウイルス科パルボウイルス亜科エリスロウイルス属、DNA型ウイルス、エンベロープを有しない
感染対策: 標準予防策および飛沫予防策
消毒法: エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法

学童に多く、発熱、発疹とともに両頬にびまん性の紅斑が見られるため、リンゴ病とも呼ばれる。ヒトパルボウイルスは鼻汁中や咽頭に存在し、飛沫または接触により鼻に伝播すると思われ、感染症例には飛沫予防策が必要だが、通常発疹のある段階ではウイルス排出が終了している。パルボウイルスはエンベロープを有しないウイルスの中でも特に消毒薬抵抗性が強いウイルスである。消毒が必要な場合には2%グルタラール、2,000~5,000ppm次亜塩素酸ナトリウムの選択が必要で、アルコール、ポビドンヨードでは効果が不十分と思われる9)

(36)突発性発しん(五類、定点把握)

病原体: ヒトヘルペスウイルス6、7型(Human herpesvirus 6、7)-ヘルペスウイルス科ベータヘルペスウイルス亜科ロゼオロウイルス属、DNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

乳幼児に多く、6型は突発性発しん、7型はそれと類似した熱性発疹症性疾患を起こす。主に既感染の健常成人の唾液を介して伝播すると思われ、6型よりも7型のほうが遅く感染し、6型抗体陽性の幼児でも7型に感染する。1歳を過ぎると抗体保有率はほぼ100%である。

(37)ヘルパンギーナ(五類、定点把握)

病原体: コクサッキーウイルスA3、A4、A5、A6、A8、A10型(Human coxsackievirus A3、A4、A5、A6、A8、A10)など-ピコルナウイルス科エンテロウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法

夏に流行し小児に多い。発熱と口蓋、口峡から扁頭、咽頭部にかけて疱疹がみられる。糞便と水疱液からウイルスが分離される。

(38)流行性耳下腺炎(五類、定点把握) 310、335)

病原体: ムンプスウイルス(Mumps virus)-パラミクソウイルス科パラミクソウイルス亜科ルブラウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策および飛沫予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

4~5歳の小児に多いが、成人でも発病することがある。ムンプスウイルスは経気道感染し、鼻腔・上気道で増殖してリンパ節に移行し、耳下腺腫脹を特徴とする流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)を起こす。10%程度の頻度で無菌性髄膜炎となるが、そのほとんどは自然治癒により軽快する。ただし流産、早産、不妊、難聴、脳炎に至ることもある。ムンプスウイルスは潜伏期から唾液に含まれ、飛沫により伝播する。ウイルスの排出は耳下腺腫脹9日前から腫脹後9日までである。医療関連感染も多く報告されている。感染症例には飛沫予防策を行い、妊婦と近接しないよう注意を払う。多くの人が小児期の感染またはワクチン接種(現在は任意接種だが、一時期は制度的接種)により免疫を獲得しているが、免疫のない医療従事者は、水痘や麻しんと同様の理由により、原則として感染症例を担当しないようにする。

(39)インフルエンザ(鳥インフルエンザおよび新型インフルエンザ等感染症を除く。)(五類、定点把握)336)

病原体: インフルエンザウイルス(Genus Influenzavirus A、B、C)-オルトミクソウイルス科インフルエンザウイルスA、B、C属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策および飛沫予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

世界的に流行を続けている呼吸器系感染症であり、北半球では1~2月を中心とする冬に流行する。インフルエンザウイルスは感染性が強く、多くの健常人が感染し、発熱、頭痛、腰痛、筋痛、上気道炎、全身倦怠感などのかぜ症候群症状を起こす。通常は1週間程度で自然緩解するが、高齢者では肺炎などの重篤な合併症を起こす場合が多く、しばしば死因となる。小児ではインフルエンザ脳炎・脳症を起こす可能性がある。主な感染経路は飛沫による経気道感染で、病院内でもインフルエンザ集団感染が多発している。感染症例には飛沫予防策を行うが、接触感染の可能性もあり、空気感染の可能性も否定されていない。医療従事者のワクチン接種が最も重要な予防策であると思われる。

インフルエンザウイルスはA型、B型、C型の3属に分類され、A型はさらに抗原性の種類により、鳥インフルエンザウイルスも含めて、18種類のH抗原、11種類のN抗原に分類される337)。通常ヒトに感染しうるA型はH1~3かつN1~2であり、B型、C型もヒトに感染する。
日本を含め世界的に流行しているのは、A(H1N1)型(ソ連かぜ)、A(H3N2)型(香港かぜ)、B型およびインフルエンザ(H1N1)2009の4種類である。過去にはA(H2N2)型ウイルスの大流行があり、近年はA(H1N2)型による感染もみられる。

(40)急性出血性結膜炎(五類、定点把握)

病原体: エンテロウイルス70型(Human enterovirus 70)、コクサッキーウイルスA24型(Human Coxsackievirus A24)変異株-ピコルナウイルス科エンテロウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない
感染対策: 標準予防策および接触予防策
消毒法: エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法

日本では九州、沖縄を中心に流行が見られる。結膜炎症状のある間は、感染性がある。感染経路は接触感染であり、患者の眼、顔、手指の触れた器具、用具、点眼薬やそれらに触れた医療従事者の手指を介して伝播する。エンテロウイルス属はエンベロープを有さず、親油性ではないため、アルコールの速効性はあまり期待できないが、アルコールにより丹念に清拭し物理的に拭き取ることで対応できる。厳密な消毒が必要な場合には500~1,000ppm(特別な場合には5,000ppm)の次亜塩素酸ナトリウムを用いる。

(41)流行性角結膜炎(五類、定点把握)338)

病原体: アデノウイルス8、11、19、37型(Human Adenovirus 8、11、19、37)など-アデノウイルス科マストアデノウイルス属、DNA型ウイルス、エンベロープを有しない(親油性)
感染対策: 標準予防策および接触予防策
消毒法: エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法

片眼発症後2~3日で両眼に発症する。結膜炎症状のある間は感染性がある。医療関連感染が多く発生しており、ときに病棟閉鎖を余儀なくされることさえある。感染経路は接触感染であり、患者の眼、顔、手指の触れた器具、用具、点眼薬やそれらに触れた医療従事者の手指を介して広く伝播する。タオルの共用による感染、プールでの感染もある。アデノウイルスはエンベロープを有しないが親油性であるので、アルコールにも速効性が期待できる。

(42)性器ヘルペスウイルス感染症(五類、定点把握)

病原体: 単純ヘルペスウイルス1、2型(Human herpesvirus 1、2、あるいはHerpes simplex virus 1、2)-ヘルペスウイルス科アルファヘルペスウイルス亜科シンプレックスウイルス属、DNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法

高頻度にみられる性感染症であり、初感染では性器、肛門周囲、臀部に複数の水疱を形成し潰瘍化するが2~4週間で治癒する。ただし生涯持続感染し、回帰感染により口唇ヘルペス、角膜ヘルペス、性器ヘルペスを再発する。単純ヘルペスウイルスは発症者の水疱やびらんに多数含まれるが、1型は唾液・分泌物にも含まれ、多くのヒトが乳幼児期に初感染し無症候性感染者になる。一方、2型は外陰部、口、肛門の性的接触により感染し、また発症中は産道母子感染する。いずれの場合も、無症候性のウイルス排出がある。母体からの移行抗体のない新生児が初感染した場合には脳炎となることがあり、移植患者が初感染または回帰感染した場合には肺炎となることがある。新生児における医療関連感染も報告されている339)。感染症例には標準予防策を基本とし、びらんが激しい場合、発症者である母体から生まれた新生児の場合などには接触予防策を追加する。

(43)尖圭コンジローマ(五類、定点把握)

病原体: ヒトパピローマウイルス6、11型(Human papillomavirus 6、Human papillomavirus 11)-パピローマウイルス科アルファパピローマウイルス属(6型)、DNA型ウイルス、エンベロープを有しない(親油性)
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法

20歳代前半の発生が多い。主に性行為感染症として性器の微細な創から進入し、性器、肛門周辺に褐色で乳頭状あるいは鶏冠状の腫瘍を形成する。産道母子感染もある。また子宮癌との関連も指摘されている。

(44)感染性胃腸炎(病原体がロタウイルスのものに限る。)(五類、定点把握)

病原体: ロタウイルス(Genus Rotavirus)-レオウイルス科セドレオウイルス亜科ロタウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない(親油性)
感染対策: 標準予防策、失禁がある場合などは接触予防策を追加
消毒法: エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法

ロタウイルスは乳幼児における急性胃腸炎の主要な病因である340)。潜伏期間は1~3日間であり、発症は急性で、発熱、嘔吐に続き、水溶性の下痢がみられ、症状は通常3~7日で消失する341)。脱水がひどくなるとショック、電解質異常、時には死にいたることもある340)。ロタウイルスは成人においても感染は散見されており、特に高齢者や免疫抑制患者で多く報告されている342~345)。主な感染経路は、ヒトあるいは環境表面などを介した糞口感染であり、その伝播は接触感染によると考えられているため317、340、346)、感染対策は標準予防策と接触予防策を基本とする。

(45)無菌性髄膜炎(五類、定点把握)

病原体: ムンプスウイルス(エンベロープを有する)、コクサッキーウイルス(エンベロープを有しない)、エコーウイルス(Human Echoviruses、エンテロウイルス属)、その他のウイルス(エンベロープを有しない)、その他のウイルス
感染対策: 標準予防策、微生物の種類により感染経路別予防策を追加
消毒法: 微生物の種類により選択

もっぱらウイルスによる髄膜炎である。幼児、学童期の小児に多く、特に男子に多い。症状は発熱、頭痛、嘔吐が主で1週間以内で症状は治まり、予後はおおむね良好である。

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(3)クラミジア

クラミジアは細菌の一種であるが、一般細菌より小さく0.3~0.4µmで細胞に寄生して増殖するため、一般細菌と区別される。DNAとRNAの両方を持ち、細胞壁も有するためウイルスではない。細胞外では小形の感染性のある基本小体の形態をなし、宿主細胞の中では大形の感染性のない網様体となり増殖し、クラミジア集団の封入体をつくる。
クロルヘキシジンやポビドンヨードの効果が確認されており、クラミジアの消毒薬感受性は一般細菌と同様と考えられる347、348)

①オウム病(四類)349)

病原体: Chlamydophila psittaci(以前はChlamydia psittaci)-クラミジア
感染対策: 標準予防策
消毒法: 一般細菌を対象とする方法

Chlamydophila psittaci(以前はChlamydia psittaci)はオウム、セキセイインコ、ハトなどトリの排泄物を吸入することや、口移しでエサを与えたりすることによりヒトに伝播する。高熱、乾性咳嗽、全身倦怠感などのインフルエンザ様症状を呈し、肺炎に至ることもある。鳥は感染してもほとんど症状を呈さない。通常ヒトからヒトへの感染はないと言われ、感染症例には標準予防策を基本とするが、咳・喀痰の多い患者から医療従事者に伝播した疑いが報告されており注意が必要である。

②性器クラミジア感染症(五類、定点把握)

病原体: Chlamydia trachomatis-クラミジア
感染対策: 標準予防策
消毒法: 一般細菌を対象とする方法

主要な性感染症のひとつであり、性行為により伝播し、尿道炎と子宮頸管炎など女性生殖器炎を起こす。性器との直接接触により直腸や咽頭にも感染する。感染症例には標準予防策を基本とするが、感染部位から手指やタオルなどを介して眼に伝播し、角結膜炎をもたらすことに注意が必要である。

③クラミジア肺炎(オウム病を除く)(五類、定点把握)

病原体: Chlamydophila pneumoniae(以前はChlamydia pneumoniae)、Chlamydia trachomatis-クラミジア
感染対策: 標準予防策
消毒法: 一般細菌を対象とする方法

Chlamydophila pneumoniae(以前はChlamydia pneumoniae)感染は、一般に無症候または軽症の肺炎となるが、高齢者では重症化することも多く、市中肺炎の8~20%を占める。飛沫によりヒトからヒトへ伝播し、成人の抗体保有率は高い。Chlamydia trachomatisは産道感染により新生児に間質性肺炎を起こす。感染症例には標準予防策を行う。

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(4)リケッチア、コクシエラ

リケッチアは動物細胞の中でしか増殖できない小型の細菌で、節足動物と共役して自然界に存在する。ヒトへの伝播には節足動物がベクターとして介在する。生体外では速やかに失活する。ただし、ベクターである節足動物を駆除し、ベクターを含む塵埃を清掃する必要がある。

コクシエラも動物細胞の中でしか増殖できないが、必ずしもベクターとして節足動物の介在を必要とせず、また遺伝子的にもレジオネラに近い細菌であるためリケッチアとは区別される。土壌中で長期間生存する。

①Q熱(四類)

病原体: Coxiella burnetii-コクシエラ
感染対策: 標準予防策、場合により飛沫予防策を追加
消毒法: 塵埃の清掃、ベクターの駆除

Coxiella burnetiiはウシ、ヤギ、ヒツジ、ネコなど動物が主な自然宿主であり、特にその胎盤で増殖し分娩時に排出され、また乳汁・尿・糞便に含まれる場合もある。ダニなどがベクターとなる場合もあるが土壌などに生存するため、主な感染経路は、Coxiella burnetiiで汚染された塵埃を吸入すること、または殺菌されていない生乳を経口摂取することである。感染症例には標準予防策を基本とするが、飛沫予防策の追加も考慮する277)

②つつが虫病(四類)

病原体: Orientia tsutsugamusi-リケッチア
感染対策: 標準予防策
消毒法: ベクターの駆除、塵埃の清掃

Orientia tsutsugamusiはネズミを自然宿主、ツツガムシ(ダニの一種)をベクターとする。頭痛、発熱、発疹、リンパ節腫脹などをもたらす。日本、東南アジア、オセアニアに広く分布し、日本では全国で毎年数百例が報告されている。

③日本紅斑熱(四類)

病原体: Rickettsia japonica-リケッチア
感染対策: 標準予防策
消毒法: ベクターの駆除、塵埃の清掃

Rickettsia japonicaはネズミ、ウサギ、イヌを自然宿主、マダニ類をベクターとする。頭痛、発熱、紅斑などをもたらす。日本に特有の疾病で、1984年に発見され、南九州、四国、本州太平洋沿岸などの温暖な地域で毎年数十例が報告されている。

④発しんチフス(四類)

病原体: Rickettsia prowazekii-リケッチア
感染対策: 標準予防策
消毒法: ベクターの駆除、塵埃の清掃

Rickettsia prowazekiiはヒト、リス、ネズミを自然宿主とし、シラミなどをベクターとする。シラミの糞が塵埃に混じり吸入する経気道感染の場合もある。発熱、発疹、意識障害、循環器障害などをもたらし死因となる。寒冷地で衛生状態の悪い地域で発生が見られるが、日本においては長年発生していない。

⑤ロッキー山紅斑熱(四類)350~352)

病原体: ロッキー山紅斑熱リケッチア(Rickettsia rickettsii)-リケッチア
感染対策: 標準予防策
消毒法: ベクターの駆除、塵埃の清掃

感染の多くはアメリカで報告されているが、カナダ、メキシコ、コロンビア、ブラジルでの報告もある。特に5~9歳の小児に感染しやすいとされる。ダニによる刺咬を避けるため流行地域の森林や草原を避けることが重要で、帽子や長袖シャツ、長ズボン、靴下、靴などで皮膚を保護することが有効となる。

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(5)マイコプラズマ

マイコプラズマは無細胞培地に生える自己増殖能力も持つ最小の微生物で、細胞壁を持たないため細菌と区別されるが、遺伝子的には細胞壁を欠損した細菌と考えられている。
次亜塩素酸ナトリウム、アルコールによる殺滅が確認されており353、354)、ノンクリティカル表面の消毒を行う場合には200~1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム、アルコールなどの中水準消毒薬を用いることが適当である。

①マイコプラズマ肺炎(五類、定点把握)

病原体: Mycoplasma pneumoniae-マイコプラズマ
感染対策: 標準予防策および飛沫予防策
消毒法: 上記の方法

Mycoplasma pneumoniaeは5~15歳の若年層における市井肺炎の主要な病原体である。学校や家庭で伝播し、乾性咳嗽を伴う原発性の非定型肺炎を起こす。感染経路は飛沫による経気道感染であり、感染症例には飛沫予防策を行う。

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(6)細菌

①鼻疽(四類)355、356)

病原体: 鼻疽菌(Burkholderia mallei)-グラム陰性桿菌
感染対策: 標準予防策
消毒法: 一般細菌を対象とする方法

②ブルセラ症(四類)

病原体:Brucella melitensis、Brucella abortus、Brucella suis、Brucellacanisなど-グラム陰性桿菌
感染対策:標準予防策
消毒法: 一般細菌を対象とする方法

日本ではまれで、ほとんどが実験室での感染である。主に感染したブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、イヌなどの組織への接触や汚染された乳製品の経口摂取によりヒトへ伝播し、場合により微熱、悪寒、背痛、関節痛、脱力感、肺病変、心内膜炎などさまざまな症状をもたらす。ヒトからヒトへの感染はまれであるが、胎盤、母乳経由の母子感染、性行為による感染も報告されている。感染症例には標準予防策を行う。

③野兎病(四類)

病原体:Francisella tularensis-グラム陰性桿菌
感染対策:標準予防策
消毒法:一般細菌を対象とする方法

Francisella tularensisはネズミなどを自然宿主とし、ベクターとなる節足動物も存在する。悪寒、発熱などの一般症状のほかに、局所壊死、肺炎症状、チフス様症状、敗血症症状などを呈することもある。バイオテロリズムに悪用される恐れが指摘されている357)。ヒトからヒトへの感染は報告されておらず、感染症例には標準予防策を行う。

④類鼻疽(四類)358、359)

病原体:類鼻疽菌(Burkholderia pseudomallei)-グラム陰性桿菌
感染対策:標準予防策
消毒法:一般細菌を対象とする方法

⑤レジオネラ症(四類)

病原体:Legionella pneumophilaなどLegionella spp.-グラム陰性菌
感染対策:標準予防策
消毒法:親水性のグラム陰性菌を対象とする方法

IV-2-2)-(1) ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌を参照 】

⑥カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症(五類、全数把握)

病原体:カルバペネム耐性の腸内細菌科細菌-グラム陰性菌
感染対策:標準予防策および接触予防策
消毒法:一般細菌を対象とする方法

カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症は、メロペネムなどのカルバペネム系薬剤及び広域β-ラクタム剤に対して耐性を示す腸内細菌科細菌による感染症と定義されている360)。CREによる感染の臨床症状はカルバペネム感受性の腸内細菌科細菌による感染と同一だが、CRE感染による致死率はカルバペネム感受性腸内細菌科細菌と比較して3~6倍高いとの報告があり361)、致死率は40~50%とされている362)。この高い致死率の理由としては、CREによる感染では有効な抗菌薬が限られているため適切な治療ができなかったことや治療が遅れたことが示唆されている361)。感染対策としては標準予防策と接触予防策を行う。CDCのCRE制御のためのガイダンスでは、施設レベルで実施すべき主な予防策の項目が示され、すべての急性期ケア施設および長期ケア施設でこれらの主要な予防策を実施すべきと述べられている362)

⑦劇症型溶血性レンサ球菌感染症(五類、全数把握)、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(五類、定点把握)

病原体:化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)-グラム陽性球菌
感染対策:標準予防策、場合により飛沫予防策を追加
消毒法:一般細菌を対象とする方法

化膿レンサ球菌は、A群レンサ球菌(Group A streptococci)とも呼ばれる。創傷感染、咽頭炎、扁桃炎、猩紅熱、リウマチ熱、急性糸球体腎炎を引き起こす病原菌であるが、時に劇症となり死因となることもある。咽頭炎は冬季の小児に多い。劇症の場合、発熱、倦怠感、筋肉痛を起こした後、急速に軟部組織の壊死性筋膜炎、ショック症状、多臓器不全へと進展する。多くの場合、上気道感染や創傷感染に続発するが、感染経路が不明の場合もある。標準予防策を基本とし、気道感染、猩紅熱の場合や小児の場合には飛沫予防策を追加する。医療従事者である無症候性保菌者が病院内で集団感染を引き起こした例も報告されている363)

⑧侵襲性インフルエンザ菌感染症(五類、全数把握)

病原体:インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)-グラム陰性桿菌
感染対策:標準予防策および飛沫予防策
消毒法:一般細菌を対象とする方法

侵襲性インフルエンザ菌感染症は、Haemophilus influenzaeによる侵襲性感染症のうち、本菌が髄液又は血液から検出された感染症と定義されている364)。潜伏期間は不明で、突発的に発症し、上気道炎や中耳炎を伴うこともある。髄膜炎例では、頭痛、発熱、髄膜刺激症状、痙攣、意識障害を示し、乳児では大泉門膨隆等の症状を示す。敗血症例では発熱、悪寒、虚脱、発疹を示すが特異的でなく、急速に重症化して肺炎や咽頭蓋炎またはショックを引き起こすことがある。

⑨侵襲性髄膜炎菌感染症(五類、全数把握)

病原体:髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)-グラム陰性球菌
感染対策:標準予防策および飛沫予防策
消毒法:一般細菌を対象とする方法

侵襲性髄膜炎菌感染症は、Neisseria meningitidisによる侵襲性感染症のうち、本菌が髄液又は血液から検出された感染症と定義されている364)。髄膜炎では、頭痛、発熱、髄膜刺激症状、痙攣、意識障害を示し、乳児では大泉門膨隆等の症状を示す。敗血症例では発熱、悪寒、虚脱を示す。重症化により紫斑、ショック、DIC(Waterhouse-Friedrichsen症候群)に至ることもある。特徴としては眼球結膜や口腔粘膜、皮膚に点状出血が、体幹や下肢に出血斑が認められる。

⑩侵襲性肺炎球菌感染症(五類、全数把握)

病原体:肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)-グラム陽性球菌
感染対策:標準予防策、場合により飛沫予防策を追加
消毒法:一般細菌を対象とする方法

侵襲性肺炎球菌感染症は、Streptococcus pneumoniaeによる侵襲性感染症のうち、本菌が髄液又は血液から検出された感染症と定義されている364)。潜伏期間は不明で、主に小児及び高齢者が罹患する。小児では初期症状が発熱のみで、感染巣が明らかでない菌血症例が多く、髄膜炎は直接的に発症するもののほか、中耳炎の続発性として発症することがある。高齢者では初期症状として発熱、咳嗽、喀痰、息切れを示し、菌血症を伴う肺炎が多く発症する。髄膜炎例では、頭痛、発熱、痙攣、意識障害、髄膜刺激症状等を示す。感染対策としては標準予防策を行い、肺炎を併発している症例があり、病室内や施設内で伝播のエビデンスがある場合には飛沫予防策を追加する317)

⑪バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症(五類、全数把握)

病原体:バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌-グラム陽性球菌
感染対策:標準予防策および接触予防策
消毒法:一般細菌を対象とする方法

IV-2-1)-(1) ブドウ球菌を参照 】

⑫バンコマイシン耐性腸球菌感染症(五類、全数把握)

病原体:バンコマイシン耐性腸球菌-グラム陽性球菌
感染対策:標準予防策および接触予防策
消毒法:一般細菌を対象とする方法

IV-2-1)-(2) その他のグラム陽性菌を参照 】

⑬薬剤耐性アシネトバクター感染症(五類、全数把握)

病原体:多剤耐性のアシネトバクター属菌-ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌
感染対策:標準予防策、場合により接触予防策を追加
消毒法:親水性のグラム陰性菌を対象とする方法

IV-2-2)-(1) ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌を参照 】

⑭感染性胃腸炎(五類、定点把握)

病原体:サルモネラ、Yersinia enterocolitica、腸炎ビブリオ、ナグビブリオ、Campylobacter jejuniCampylobacter coliListeria monocytogenes、黄色ブドウ球菌、ディフィシル菌、その他腸チフス菌、パラチフス菌A、赤痢菌、コレラ菌以外の細菌。ウイルスなどによる感染性胃腸炎も五類、定点把握である。
感染対策:標準予防策、失禁がある場合などは接触予防策を追加
消毒法:細菌の種類により選択

食中毒であることが多い。感染症例には標準予防策を行うが、糞便-経口感染の可能性もあるので、小児や失禁がある場合には接触予防策を追加する。

サルモネラ(Salmonella spp.)は腸内細菌科のグラム陰性桿菌で、Salmonella enterica subsp. enterica serovar Enteritidis、Salmonella enterica subsp. enterica serovar Typhimuriumなどが食中毒として感染性胃腸炎を起こす。これらの一部について多剤耐性が報告されている。イヌ、ウシ、ブタ、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒルなどが保菌し、汚染された肉、乳製品、卵を摂取することにより経口感染する。感染の成立には比較的多い菌量が必要であるが、感染防御能低下患者や胃酸分泌抑制患者では比較的少量でも感染を引き起こす。

Yersinia enterocoliticaは腸内細菌科のグラム陰性桿菌で、その一部の血清型は食中毒としての胃腸炎や敗血症などを起こす。

腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)はビブリオ科のグラム陰性桿菌で、広く海水中に存在し、主に魚介類による食中毒として感染性胃腸炎をもたらす。

コレラ菌(Vibrio cholerae O1)以外のVibrio choleraeをnon-agglutinable vibrio(ナグビブリオ:NAG)と呼ぶ。これらは食中毒として感染性の下痢をもたらす。

Campylobacter jejuniCampylobacter coliはカンピロバクター属のグラム陰性菌で螺旋菌である。ニワトリ、ウシ、ブタなどの常在菌である。食中毒として感染性の下痢をもたらす。抗菌薬耐性の拡散が報告されている。

この他に、Listeria monocytogenesによる胃腸炎、黄色ブドウ球菌による大腸炎、ディフィシル菌による偽膜性大腸炎などがある。

⑮百日咳(五類、定点把握)

病原体:Bordetella pertussis-グラム陰性桿菌
感染対策:標準予防策および飛沫予防策、場合により接触予防策を追加
消毒法:一般細菌を対象とする方法

生後3ヵ月で母体からの抗体を失うので、ワクチン接種前の乳幼児を中心に発生する。感染性が強く、飛沫によりヒトからヒトへ伝播し、気管支などで炎症をもたらす。頻回の発作性咳嗽や吸気性喘鳴を伴い、乳幼児においては体力を著しく消耗させる場合があり、また肺炎を合併することもある。病院における集団感染もある365)。感染症例に対しては飛沫予防策を行い、必要に応じて接触予防策を追加する。

⑯淋菌感染症(五類、定点把握)

病原体:淋菌(Neisseria gonorrhoeae)-グラム陰性球菌
感染対策:標準予防策
消毒法:一般細菌を対象とする方法

泌尿器・生殖器の化膿性感染症で、尿道炎、菌血症、関節炎などをもたらす。淋菌は尿道、頸管、結膜、咽頭、直腸に感染するが、主な感染経路は性行為である。咽頭では無症状で保菌される。淋菌は乾燥や温度変化に弱いため、環境や衣類、食器などを特に消毒する必要はない。感染症例には標準予防策を行う。

⑰細菌性髄膜炎(髄膜炎菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌を原因として同定された場合を除く。)(五類、定点把握)

病原体:黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、腸球菌、B群レンサ球菌、緑膿菌などブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌、大腸菌・セラチアなど腸内細菌科細菌、Listeria monocytogenes、その他髄膜炎菌以外の細菌
感染対策:標準予防策、細菌の種類により感染経路別予防策を追加
消毒法:細菌の種類により選択

新生児、幼児に多い。無菌性髄膜炎と異なり、全身症状は不良で重篤となりやすい。下記の細菌以外については、それぞれ関連する前節を参照。

B群レンサ球菌(Streptococcus agalactiae、Group B streptococci)はグラム陽性球菌で、多くの健常人が胃腸管、生殖器に無症候性に保菌する。産婦より新生児に伝播し、時に敗血症や髄膜炎を起こす。感染症例には標準予防策を基本とする。

Listeria monocytogenesはグラム陽性桿菌で、ウシなどの動物、土壌、水系、汚染食品から検出される。動物からヒトへ伝播する場合のほか、汚染食品による食中毒がある。リステリア症は髄膜炎、敗血症をもたらし、周産期リステリア症は胎盤を経由した感染伝播で死産の原因または新生児の死因となる。食中毒の場合は感染性胃腸炎となる。

⑱ペニシリン耐性肺炎球菌感染症(五類、定点把握)

病原体:ペニシリン耐性肺炎球菌-グラム陽性球菌
感染対策:標準予防策、場合により飛沫予防策、接触予防策を追加
消毒法:一般細菌を対象とする方法

IV-2-1)-(2) その他のグラム陽性菌を参照 】

⑲メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(五類、定点把握)

病原体:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌-グラム陽性球菌
感染対策:標準予防策、場合により接触予防策を追加
消毒法:一般細菌を対象とする方法

IV-2-1)-(1) グラム陽性菌を参照 】

⑳薬剤耐性緑膿菌感染症(五類、定点把握)

病原体:多剤耐性緑膿菌-ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌
感染対策:標準予防策、場合により接触予防策を追加
消毒法:親水性のグラム陰性菌を対象とする方法

IV-2-2)-(1) ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌を参照 】

(7)芽胞

①炭疽(四類)

病原体: 炭疽菌(Bacillus anthracis)-グラム陽性桿菌
感染対策: 標準予防策、場合により接触予防策を追加
消毒法: 芽胞を対象とする方法

炭疽菌の芽胞は土壌中に存在し、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマなどの草食動物に感染し、動物からヒトに感染する場合がある。獣医師、牧畜業者、毛皮取扱者に感染例が多い。2001年米国においてバイオテロリズムに利用され注目を浴びた。創傷への芽胞の接種、吸入、汚染された食品の摂取により芽胞が侵入し、発芽して増殖する。芽胞の侵入門戸により、皮膚炭疽、肺炭疽、腸炭疽があり、肺炭疽は致命率が高い。ヒトからヒトへの感染はなく、感染症例には標準予防策を基本とし、皮膚炭疽の場合には接触予防策を考慮する。ただし、芽胞が意図的に加工され散布・送付されたような場合には吸入により感染する危険がある230)

②ボツリヌス症(四類)

病原体: ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)-嫌気性グラム陽性桿菌
感染対策: 標準予防策、場合により接触予防策を追加
消毒法: 芽胞を対象とする方法

ボツリヌス菌は土壌中に存在し、野菜、魚、肉類を汚染する。増殖すると運動・自律神経に麻痺をもたらす毒素を産生し、筋肉の弛緩性麻痺を起こす。食中毒としてのボツリヌス中毒、乳児ボツリヌス症、創傷性ボツリヌス症がある。食中毒は、缶詰、ビン詰、ハム、ソーセージなどの食品中で増殖した場合であるが、日本では発酵すしを原因食とすることもある。乳児ボツリヌス症では、主に蜂蜜に含まれるボツリヌス菌が腸内で増殖して中毒を起こすため、乳児には蜂蜜を摂取させないのが望ましい。創傷性ボツリヌスは薬物注射常用者にも見られる。ボツリヌス毒素のバイオテロリズムへの利用も懸念されている230)。感染症例には標準予防策を行う。

③破傷風(五類、全数把握)

病原体: 破傷風菌(Clostridium tetani)-嫌気性グラム陽性桿菌
感染対策: 標準予防策
消毒法: 芽胞を対象とする方法

破傷風は硬直性の痙攣を伴い死因となる。破傷風菌の芽胞は広く土壌中など自然界に存在し、深い外傷が汚染された場合など嫌気的条件において感染が成立し、毒素を産生する。ヒトからヒトへの感染はなく、感染症例に対しては標準予防策を行う。

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(8)真菌

①コクシジオイデス症(四類)

病原体: Coccidioides immitis-糸状菌
感染対策: 標準予防策、場合により接触予防策を追加
消毒法: 糸状菌を対象とする方法

米国カリフォルニア州からテキサス州の南部および西南部、メキシコ太平洋岸、アルゼンチンのパンパ地方など乾燥地域の風土病である。Coccidioides immitisはこれらの地域の土壌に存在する。Coccidioides immitisは生体内で球状体を形成し、それに含まれる内生胞子により増殖するが、生体外では菌糸から分節型分生子を形成する。ヒトは強風や土木工事などで空中に舞い上がった土壌塵埃に含まれる分節型分生子を吸入することにより感染する。ヒトに感染しても多くの場合は無症候だが、肺に感染し風邪に似た症状を呈することもある。0.5%の割合で全身感染を起こし、その約半数が死に至るため、真菌としては病原性が強い。日本に輸入された汚染綿花による感染も報告されている。感染症例には標準予防策を行う。病院内での感染は培養する場合に考えられ、分生子の吸入や飛散には注意が必要である。

②播種性クリプトコックス症(五類、全数把握)

病原体: Cryptococcus neoformans、Cryptococcus gattii-酵母
感染対策: 標準予防策
消毒法: 一般細菌を対象とする方法

クリプトコックス症は、感染病巣としては肺、中枢神経系、皮膚などが挙げられ、髄膜炎を合併する場合もある。播種性クリプトコックス症はCryptococcus属真菌による感染症のうち、本菌が髄液、血液などの無菌的臨床検体から検出された感染症または脳脊髄液のクリプトコックス莢膜抗原が陽性となった感染症と定義されている360)C. neoformansはハトの糞や土壌から検出され世界中に分布しており、主に免疫不全患者において感染の起因菌となり得る。C. gattiiはユーカリの木など様々な木から検出され、免疫状態が正常な患者においても感染の起因菌となる。これまで国内においてはC. neoformansが主な原因菌とされていましたが、2007年にC. gattiiによる感染が初めて確認され366)、国内においても病原性が高いC. gattiiによる播種性クリプトコックス症の拡大が懸念されている。組織や角膜移植によりまれに感染する以外はヒトからヒトへの感染はみられないとされているため、感染症例には標準予防策を行う317)

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(9)スピロヘータ

繊細な螺旋状のグラム陰性細菌で活発に運動する。生体外においては長時間生存できない。

①回帰熱(四類)

病原体: Borrelia recurrentis、Borrelia duttoniiなど-スピロヘータ科スピロヘータ
感染対策: 標準予防策
消毒法: 一般細菌を対象とする方法

病原体としてボレリア属のBorrelia recurrentisBorrelia duttoniiなど十数種が確認されている。シラミやダニがベクターである感染症で、発熱し、数日で解熱し、その数日後再度発熱する。解熱のときショックを起こして死因となる。シラミ媒介性は欧州、アジア、アフリカ、中南米などで流行が見られ、ダニ媒介性は熱帯アフリカ、地中海沿岸、インド、中央アジアなどでみられる。日本では近年、患者の発生報告がない。ヒトからヒトへの直接感染はないが、患者の血液には注意が必要である。

②ライム病(四類)

病原体: Borrelia burgdorferiBorrelia gariniiBorrelia afzeliiなど-スピロヘータ科スピロヘータ
感染対策: 標準予防策
消毒法: 一般細菌を対象とする方法

野ネズミや小鳥などを自然宿主とし、マダニをベクターとする感染症である。紅斑、発熱、髄膜炎、関節炎などをもたらす。欧州、米国、アジアでみられ、日本では北海道、長野などで報告がある。感染症例には標準予防策を行う。

③レプトスピラ症(四類)367)

病原体: Leptospira interrogans-レプトスピラ科スピロヘータ
感染対策: 標準予防策
消毒法: 一般細菌を対象とする方法

Leptospira interrogansは多数のserovarに分類される。レプトスピラ症は多くの場合、穏やかな発熱などの症状にとどまり、日本では秋疫(あきやみ)とも呼ばれているが、Leptospira interrogans serovar icterohaemorrhagiaeなどによるものは黄疸と出血傾向を伴い、腎不全に至ることがある。この黄疸出血性レプストピラ症はWeil病とも呼ばれ、死亡率は5~15%に及ぶ。近年ニカラグア、ブラジル、インド、マレーシア、米国などで集団発生があった。感染したネズミ、イヌ、ブタ、ウシなどの動物の尿への接触や汚染された上下水によってヒトに伝播する。Leptospira interrogansは感染症例の尿や母乳から検出されるが、ヒトからヒトへの伝播はまれである。感染症例には標準予防策を行う。

④梅毒(五類、全数把握)

病原体: 梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum subspecies pallidum)-スピロヘータ科スピロヘータ
感染対策: 標準予防策
消毒法: 一般細菌を対象とする方法

梅毒の多くは性行為感染だが、胎盤経由母子感染し、まれに輸血感染、および医療従事者の手指を介して接触感染する場合もある。針刺し切創による感染の報告はなく、手術などにおいて特別な対策は不要である158)。梅毒は性器に硬性下疳が見られる第1期、発疹がみられ血流により全身臓器に転移する第2期、ゴム腫がみられる第3期、中枢神経に病変が起こる第4期に区別されるが、感染性が高いのは第1期と第2期である。母子感染(先天梅毒)は流産・死産の原因となる。感染症例には標準予防策を行う。梅毒トレポネーマは環境、つまり生体外では1~2時間以上生存できない。消毒薬感受性は良好である368)

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(10)原虫369)

原虫は原生動物で単細胞からなり、胞子虫類、根足虫類、鞭毛虫類などがある。消毒薬は原虫の殺滅のために開発されたものではないため、特に効果が確認されていない限り、無効と見なされる。原虫で汚染された器具は熱水洗浄により清浄化することを基本とし、原虫を念頭においた手洗いは流水と石けんによる物理的な除去を基本とする。

①マラリア(四類)

病原体: 熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、3日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)、4日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)、卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale)-胞子虫類
感染対策: 標準予防策
消毒法: 熱水洗浄など

マラリアはヒトを宿主とし蚊をベクターとする感染症で、東南アジア、南アジア、中近東、アフリカ、中南米で発生している。マラリア原虫はシナハマダラカなど蚊の腸において有性生殖してオーシストを形成し、そこから放出されたスポロゾイトが蚊の唾液を介してヒトに伝播し寄生する。ヒトの肝細胞内で無性生殖により生じたメロゾイトが赤血球内に侵入し、さらに増殖する。3日熱マラリア原虫と卵形マラリア原虫は肝細胞で数ヵ月の休止期を経るため、血中の原虫を死滅させてもマラリアが再発する。症状として発熱、悪寒、戦慄、脾腫、貧血などを伴うが、熱帯熱マラリアは進行が早く脳障害や腎障害を起こして死因ともなるため悪性マラリアと呼ばれる。その他は比較的症状が軽いため良性マラリアと呼ばれる。マラリアは蚊を介した伝播のほか、血液媒介感染としてヒトからヒトへ伝播することがあり、輸血や多数回使用された輸液によるマラリア感染が報告されている370、371)。感染症例には標準予防策を行う。

②アメーバ赤痢(五類、全数把握)

病原体: Entamoeba histolytica-根足虫類
感染対策: 標準予防策
消毒法: 下記の方法

Entamoeba histolyticaは、粘血便を伴うアメーバ赤痢、下痢・腹痛を伴うアメーバ性大腸炎、アメーバ性肝膿瘍などのアメーバ症の原因である。世界に分布し、特に熱帯・亜熱帯の非衛生な地域に多くみられるが、日本においても集団感染がある。赤痢アメーバはそのシスト(嚢子)を経口摂取することによりヒトに伝播し、小腸で栄養型となり、腸管や肝臓で2分裂して増殖する。大腸においてシストを形成し、糞便とともに排出される。シストは外界での抵抗力が強く数週間感染性を保つため、糞便による飲料水汚染や有機農法による野菜汚染などによりヒトに伝播する。感染症例には標準予防策を行うが、患者の糞便で汚染された可能性のある箇所に注意が必要である。

消毒は熱水洗浄を基本とするが、Entamoeba histolyticaについてはポビドンヨード、次亜塩素酸ナトリウム、クレゾール石ケン液が有効といわれている372)

③クリプトスポリジウム症(五類、全数把握)

病原体: Cryptosporidium parvum-胞子虫類
感染対策: 標準予防策、失禁のある場合などには接触予防策を追加
消毒法: 下記の方法

Cryptosporidium parvumは、広く水系に存在し、近年日本においても飲料水を介した集団感染が報告されている373)。症状は激しい下痢と腹痛である。Cryptosporidium parvumはヒト、ウシ、ブタ、ネコなどに寄生し、小腸粘膜上皮の微絨毛で発育する。無性生殖と有性生殖を行うが、複数のスポロゾイトを含む有性生殖で形成されたオーシストは糞便中に排泄される。糞便により汚染された湖、川、プール、食品、手指などを介してヒトへ経口伝播する。オーシストは通常の水道水塩素消毒や濾過によって完全には殺滅・除去できないため、水道水を介するヒトの集団感染が発生する。ヒトからヒトへの医療関連感染も報告されている374)。感染症例には標準予防策を基本とし、失禁のある場合には糞便を念頭においた接触予防策を行う。

Cryptosporidium parvumのオーシストに対しては、熱水洗浄、煮沸消毒や高圧蒸気滅菌などを基本とする。オーシストの大きさは4~6µmで一般的な家庭用フィルターでは除去することはできない。濾過による除去を行う際には1µm以下のフィルターを用いる158)

過酢酸、グルタラール、フタラール、次亜塩素酸ナトリウム、ヨード、アルコール、フェノール系消毒薬、第四級アンモニウム塩はオーシストに対して無効であり、6~7.5%過酸化水素は効果(1,000分の1未満への減少)があると報告されている。ただし、オーシストは乾燥表面において速やかに感染性を失うため、内視鏡など乾燥状態で保管される器具は通常の方法で洗浄、消毒しても良いと考えられる375、376)

④ジアルジア症(五類、全数把握)

病原体: ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)-鞭毛虫類
感染対策: 標準予防策、失禁のある場合などには接触予防策を追加
消毒法: 熱水洗浄など

慢性下痢、鼓腸、腹満、上腹部痛等の症状を呈する。ランブル鞭毛虫は、広く世界に分布し、特に熱帯・亜熱帯の非衛生な地域に多くみられる。日本にも土着しており、欧米では水道水汚染による集団感染も発生している。ランブル鞭毛虫はそのシスト(嚢子)を経口摂取することによりヒトに伝播する。人体内で栄養型となり、小腸、胆管、胆嚢で増殖し、さらにシストを形成して糞便中に排出される。シストは外界での抵抗力があり長時間生存するため、糞便による飲料水汚染や野菜汚染などにより集団感染する。感染症例には標準予防策を基本とし、失禁のある場合には糞便を念頭においた接触予防策を行う。通常の水道水塩素消毒に抵抗を示す。シストの大きさは短径5~8µm、長径8~12µmであるため、通常の飲料水濾過処理で完全に除去することは困難である。

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(11)蠕虫369)

蠕虫は多細胞の寄生虫で、線形動物(蟯虫)、扁形動物(吸虫類)を含む。原虫と同様に熱水洗浄などで清浄化を行う。

①エキノコックス症(四類)

病原体: 単包条虫(Echinococcus granulosus)、多包条虫(Echinococcus multilocularis)-条虫類
感染対策: 標準予防策
消毒法: 熱水洗浄など

単包条虫は牧畜の番犬に寄生しており、ほぼ全世界的に分布している。多包条虫は北米、シベリア、グリーンランド、欧州のアルプス、中国北部に分布し、日本では北海道全域、青森県の一部に分布する。成虫はキツネ、イヌなどの小腸に寄生し、これら宿主の糞便中に排泄された直径30~40µmの虫卵がヒツジ、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、およびヒトなどに経口感染する。虫卵は小腸上部で孵化し、腸壁に侵入して血流により肝や肺などに運ばれ、単包虫・多包虫に成長して障害をもたらす。発症までに数年以上かかるといわれるが、症状は肝の場合、疲労感、黄疸などであり、肺の場合は血痰である。感染症例には標準予防策を行う。

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