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感染対策情報レター
2014/05/07

風しんに対する感染対策について


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Revised:2014.05.14(感染症発生動向調査(IDWR) 風疹発生動向調査の情報変更にともなう変更)

はじめに1)~3)

風しんは風しんウイルス(Rubella virus)により引き起こされ、発熱、発疹、リンパ節腫脹を主な症状とする感染症であり、近年、その感染数が急増しています。またそれに伴い先天性風しん症候群 Congenital Rubella Syndrome(CRS)が引き起こされたとの事例も数多く報告されています。今回は風しんの現状と医療機関における感染対策について述べます。

風しんの現状について

風しんは風しんウイルスによっておこる急性の発疹性感染症で、流行は春先から初夏にかけて多くみられます3)。風しんは第5類感染症の全数届出疾患であり、その報告数は近年、急増しています(表1)。2013年の報告の内訳(表2)をみますと、多くが成人での報告であり、男性では20~40代で多く、女性では20代で多いという結果となっています。男女別では約77%(10,985/14,357例)が男性での報告となっています。また近年の風しん報告数の急増に伴いCRSの報告数も増加し、2013年では32例と過去最多となっています。CRSは妊娠初期の女性が風しんに罹患し、風しんウイルスが胎児に感染することで、出生児に生じる先天性の疾患であり、難聴、心疾患、白内障などを引き起こします3),4)。風しん及びCRS も発症後に特異的な治療法はなく、ワクチンによる予防が重要となります5),6)。風しんワクチンを1回接種した人に免疫ができる割合は約95%以上とされており7)、現在日本では、2回の接種が定期接種として実施されているため、より高い効果が期待されます4)
2012年12月までに、WHO加盟194カ国のうち132カ国(68%)が風しん含有ワクチンを導入しています。特にアメリカ大陸のWHO加盟国35カ国では2012年時点においてすべての国でワクチンを導入しており、風しんおよびCRSの制御に成功しています8),9)。近年、大規模な風しんのアウトブレイクが日本2)、ルーマニア10)、ポーランド11)で報告されていますが、これらの国では確立した風しん対策プログラムはあるものの、ワクチンの導入当初においては女性に焦点をしぼった対策が行われていたとされています。女性を対象にしたワクチン接種では、風しんウイルスの伝播は減少させるものの、感受性を持つ大きな集団(特に男性)が取り残されてしまいます。その結果、男性での流行の危険性は高くなり、それに伴うワクチン未接種妊婦への感染の危険性も高まってしまうことが指摘されています8),9)。このような状況を踏まえ、日本においては2013年に厚生労働省より「先天性風しん症候群の発生予防等を含む風しん対策の一層の徹底について」(通知)が発出され12)、定期予防接種の積極的な勧奨を行うとともに、妊婦への感染を抑制するために、妊娠可能年齢の女性のみならず、妊婦の夫、子どもその他同居家族に対しても、免疫が不十分である場合には、予防接種を検討していただくよう周知を図ることとしています。

表1.風しんおよびCRS報告数の推移1)

西暦 風しん報告数 CRS報告数
2008年 293 0
2009年 147 2
2010年 87 0
2011年 378 1
2012年 2,386* 4
2013年 14,357 32
2014年 146 8

※感染症発生動向調査2014年第15週(4月7日~4月13日)時点までのデータより作成
*2014.05.14(感染症発生動向調査(IDWR) 風疹発生動向調査の情報変更にともない変更(変更前2392)

表2.年齢群別の風しん報告数割合(2013年)1)

年齢群 男性
(n=10,985)
女性
(n=3,372)
0歳 1% 1%
1~4歳 2% 4%
5~9歳 1% 3%
10歳~14歳 2% 3%
15~19歳 4% 1%
20~29% 24% 40%
30~39歳 34% 16%
40~49歳 23% 9%
50歳以上 9% 13%

※2013年 第1~52週データより作成(n=14,357)

医療機関における風しんの感染対策について

風しんの感染経路は飛沫感染であり、標準予防策と飛沫予防策を遵守することが基本となります13)。医療機関における感染対策については平成26年4月に「医療機関における風しん対策ガイドライン」14)が公表されていますので、その概略を以下に記載します。

はじめに平常時の対応が最も重要であるとしています。職員・実習生は、風しん罹患歴および記録に基づくワクチン接種歴を確認・保管し、医療機関は推奨される接種回数である2回のワクチン接種歴の記録を本人とともに保管することを原則としています。また風しん罹患歴のある職員・実習生に対しては、風しん抗体価を測定し、罹患歴を検査により確認することが求められます。罹患歴がなく2回の予防接種歴が記録によって確認できない者、あるいは罹患歴があって抗体を保有していない者(罹患は記憶違いの可能性)には、ワクチンの接種が推奨されています。しかしながら2013年の調査15)では、病院機能評価の認定病院という比較的大規模の病院においても、医療従事者に対して入職時に風しんの抗体検査を行っている医療機関は全体の31%(51/166病院)と低率であったことが報告されています。

外来での対応は、風しんの疑いのある患者にはマスク着用を依頼し、速やかに他の患者・面会者等への飛沫曝露がない場所(別室など)へ誘導します。また風しんと診断した場合には、速やかに最寄りの保健所に届け出を行います。
病棟における発症者への対応については、個室での管理が推奨されますが、施設構造上の制約等により難しい場合には、飛沫予防を考慮し、風しんに対し十分な免疫を持たない人に対しては距離を十分保ち、接触を避けるようにします。なお、妊婦や免疫機能が低下している患者との同室は避けるよう注意します。風しん患者の病室外への外出は控えるようにし、やむを得ず病室外にでる必要がある場合には、マスクを装着してもらいます。できる限り外出時間を短くすることで、周りの人への感染拡大を予防します。またCRSの児からは、一定期間風しんウイルスが検出されることから、飛沫感染ならびに接触感染の予防を考慮して対応します。参考として「先天性風疹症候群(CRS)診療マニュアル」16)では、生後 3ヵ月以降の検査で1ヵ月以上の間隔をあけ、連続して2 回風しんウイルスが検出されていないことを確認できれば、その後の特別な対応は不要としています。
一方で風しん患者への対応については、原則として、ワクチンの接種歴が記録で2回確認できた者又は罹患歴有りを抗体価陽性で確認できた職員があたります。特に風しん抗体価や罹患歴不明の職員が風しん患者に対応せざるを得ない場合は、必要な感染防御策を行い、妊娠していない職員が対応します。

風しんウイルスの特徴や消毒薬に対する感受性についてはY’s Letter No.25 「風疹とムンプス」をご覧下さい。

まとめ

風しんの感染経路は飛沫感染であり、感染対策は標準予防策と飛沫予防策の遵守が求められます。またCRSの児に対しては、接触予防策を追加します。
風しんは発熱、発疹、リンパ節腫脹を主な症状としますが、主症状がそろわない場合も多く17) ,18)、気づかれないまま感染源になってしまう可能性も考えられます。したがって平常時の対策は非常に重要であり、適切なワクチン接種は市井においても、医療機関においても非常に重要です。特に医療機関においては、今後、風しんの感染対策の1つとして、職員のワクチン接種歴記録等の管理をさらに徹底することが望まれます。

<参考文献>

  1. 国立感染症研究所:
    感染症発生動向調査(IDWR) 風疹発生動向調査
    http://www.nih.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/700-idsc/2131-rubella-doko.html
  2. CDC:
    Nationwide Rubella Epidemic -Japan, 2013.
    MMWR 2013;62:457-462.
    http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6223a1.htm
  3. 国立感染症研究所:
    風疹Q&A(2012年改訂).
    http://www.nih.go.jp/niid/ja/rubellaqa.html
  4. 国立感染症研究所:
    先天性風疹症候群に関するQ&A (2013年9月). 
    http://www.nih.go.jp/niid/ja/crsqa.html
  5. 多屋馨子:
    風疹の流行と先天性風疹症候群.
    感染制御 2013;9:337-343.
  6. 岡部信彦:
    風疹と風疹ウイルス.
    感染と消毒 2013;20:99-104.
  7. WHO:
    Rubella vaccines: WHO position paper.

    Wkly Epidemiol Rec 2011; 86:301-16.
    http://www.who.int/wer/2011/wer8629.pdf
  8. CDC:
    Rubella and Congenital Rubella Syndrome Control and Elimination — Global Progress, 2000–2012.
    MMWR 2013;62:983-986.

    http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6248a3.htm
  9. 国立感染症研究所:
    風疹と先天性風しん症候群の排除、2000~2012年.
    IASR 2014;35:52.
    http://www.nih.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/2014-01-12-07-59-09/1034-idsc/iasr-out/4398-fr4081.html
  10. Janta D, Stanescu A, Lupulescu E, et al:
    Ongoing rubella outbreak among adolescents in Salaj, Romania, September 2011–January 2012.

    Euro Surveill 2012;17:pii=20089.
    http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=20089
  11. Paradowska-Stankiewicz I, Czarkowski MP, Derrough T, et al:
    Ongoing outbreak of rubella among young male adults in Poland: increased risk of congenital rubella infections.

    Euro Surveill 2013:18:pii=20485.
    http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=20485
  12. 厚生労働省:
    「先天性風しん症候群の発生予防等を含む風しん対策の一層の徹底について(情報提供及び依頼).
    http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/dl/130226.pdf
  13. CDC:
    Guideline for Isolation Precautions : Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings 2007.
    http://www.cdc.gov/hicpac/2007IP/2007isolationPrecautions.html
  14. 国立感染症研究所:
    医療機関における風しん対策ガイドライン.
    http://www.nih.go.jp/niid/images/idsc/disease/rubella/kannrenn/iryoukikann-taisaku.pdf
  15. 和田耕治:
    医療従事者を対象とした風疹の抗体検査とワクチン接種の現状.
    http://www.haicsjp.com/Rubella%20in%20healthcare%20settings.pdf
  16. 日本周産期・新生児医学会:
    先天性風疹症候群(CRS)診療マニュアル.
    http://www.jspnm.com/Teigen/docs/CRSver7.pdf
  17. 砂川富正:
    風疹流行の現状と考察.
    東京小児科医会報 2013;32:54-58
    .
  18. 多屋馨子:
    予防接種のピットホール 風疹大流行などの問題.
    感染症 2014;44:19-23.
    .
2014.05.07/ Yoshida Pharmaceutical Co Ltd:

関連サイト