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Y's Letter
感染対策情報レター
2014/05/26

消化器内視鏡の感染制御に関するマルチソサエティ実践ガイド 改訂版


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Y’s Letter Vol.3 No.29
Published online:2014.05.26

はじめに

国内における内視鏡の洗浄・消毒のガイドラインとして、2008年5月に「消化器内視鏡の洗浄・消毒マルチソサエティガイドライン」初版が公開されました1)。このガイドラインは「消化器消毒法ガイドライン(1995年 日本消化器内視鏡学会甲信越支部感染対策委員会)」「内視鏡の洗浄・消毒に関するガイドライン(1996年 日本消化器内視鏡技師会消毒委員会)」「消化器内視鏡機器洗浄・消毒法ガイドライン(1998年 日本消化器内視鏡学会消毒委員会)」の記載を基本とし、その後の新しいエビデンスを踏まえて作成されました。
本ガイドラインは初版発行から約5年経過したこと、また米国の消化器内視鏡マルチソサエティガイドライン2)が改訂されたことから見直しが行われ、改訂版である「消化器内視鏡の感染制御に関するマルチソサエティ実践ガイド」が2013年7月10日に公開されました3)
今回の改訂版の名称には、「ガイドライン」ではなく「実践ガイド」という表記が用いられています。これは、昨今の「ガイドライン」の策定は厳密なエビデンスに基づくこと、作成者だけでなく評価者を同時に設置することなど綿密な作成過程が要求される傾向がありますが、今回の改訂版は前述の3学会の専門家による合意を中心に作成されていることから、名称を「実践ガイド」としています。
本実践ガイドは、第1章から第6章で構成され、各章ごとにさらに推奨事項、その解説が示されています。勧告事項の実証性水準が示され、「推奨度Ⅰ(必須の要件であり、すべての施設において実践すべき事項)」「推奨度Ⅱ(現状では必須と位置づけるものではないが、実施が望ましい事項)」の2つに分類されています。以下、各章の内容及び今回の改訂で新設された項目、変更について示します。

第1章 総説

改訂前と同様に、「基本理念」として標準予防策の原則に基づき、すべてのヒトの体液や血液には潜在的に感染性があるものとして取扱い、内視鏡室全体の感染対策が必要であると述べられています。
スコープは消毒前の十分な洗浄が必要であるとし、安全かつ十分な消毒を行うために各種高水準消毒薬の特徴を十分理解することが求められています。
内視鏡による感染は、患者だけでなく医療従事者に対しても危険が及ぶ可能性があることから、医療従事者は適切な防護具を着用することが推奨され、消毒作業時は十分な換気を行うこととされています。
また、実践ガイドを基に、各施設の実情に合わせたマニュアルを作成し、遵守することが求められています。

第2章 内視鏡室のレイアウト

第2章には新たに「Ⅵ.環境整備」の項目が新設され、内視鏡室に必要とされる内視鏡検査室、洗浄・消毒室、前処置室、洗面所等の設定、設備に関する推奨事項が示されています。
内視鏡室においては、交差感染を防ぐため、医療従事者と患者の動線が交差しないレイアウトが望ましく、また、洗浄・消毒されたスコープと使用後のスコープは明確に区別し、運搬経路が交差しないようにレイアウトを設定することが望ましいとしています。患者の体液で汚染された機器の再処理には、十分な換気ができる独立した洗浄・消毒室で行い、消毒薬の取り扱い時、廃棄時の曝露についても十分注意します。内視鏡関連機器の配線は、患者の安全対策上および機器の断線のリスクの点からも床下配線または天井からの配線とすることが望ましく、内視鏡室の床は清掃しやすい構造とすることが求められています。内視鏡洗浄用のシンクは十分な広さと深さのあるものとし、スタッフの手洗い用シンクおよび検査後に患者が口腔内のうがいのために使用するシンクは水はねの少ない構造とし、自動活栓にすることが望ましいとしています。また、前処置室やトイレ等も清掃のしやすい構造とするよう配慮します。
今回新たに新設された「環境整備」として、体液や血液等で汚染されやすいベッドや枕については防水性があり拭き取りやすいものとし、シーツは紙製のものとすることを推奨しています。ベッドと手すりは症例ごとに消毒用エタノールを用いて清拭し、紙製シーツの交換を行います。内視鏡システム、キーボード、マウスなどは検査ごとに消毒用エタノールで清拭します。また、壁や床に飛散した血液や体液は、拭き取り後、消毒用エタノールや0.1%次亜塩素酸ナトリウムで清拭することとしています。

第3章 検査前処置、検査時対応

第3章には「Ⅰ.感染症チェック」が新設されています。
検査前の感染症チェックは、その結果により検査後の洗浄・消毒を簡略化することはできないことから、検査ごとに適切な洗浄・高水準消毒が行われ、かつ標準予防策が遵守されている場合は、内視鏡検査における患者間の交差感染防止を目的とした検査前の感染症チェックは不要としています。ただし、観血的内視鏡治療においては通常の内視鏡検査と比べて、内視鏡処置に要する時間が長く、多数の処置具を使用し、医療従事者が血液を含む体液に曝露するリスクが高まるため、感染症チェックを行うことが望ましいとし、医療従事者間で感染症情報を共有することで感染への注意を促し、医療従事者への感染事故発生時には迅速に対応できることを利点としています。
検査前対応としては、消毒終了後のスコープは、次回使用時まで汚染しないように運搬、保管、設置し、未消毒のスコープと明確に区別することが推奨されています。
また、検査時は標準予防策の概念に基づき、検査医および介助者は体液曝露を防ぐため個人用防護具の着用が推奨されています。検査後は汚染したガウンや手袋を装着したまま検査室・処置室を出ずに、検査終了ごとに廃棄容器へ捨て、汚染の拡大を最小限にすることとしています。

第4章 洗浄、消毒、乾燥、保管

内視鏡の洗浄・消毒の流れとしては大きな変更点はなく、項目としてまずベッドサイドでの洗浄・消毒に関する事項が挙げられ、次いで洗浄室での作業として、用手及びスコープ自動洗浄・消毒装置による洗浄・消毒の項目へと分けて解説されています。なお、今回の改訂で「Ⅵ.搬送」の項目が追加されています。
ベッドサイドでは、まず検査終了直後にスコープ外表面の清拭と吸引・鉗子チャンネルの吸引洗浄を行います。外表面を拭うガーゼ類は濡れていることが望ましく、洗浄剤として中性または弱アルカリ性の酵素洗浄剤を用い、200mL以上の洗浄液の吸引を行うことを推奨しています。なお、消毒薬は汚染物を凝固・固着させることから、洗浄前に使用してはならないとしています。送気・送水チャンネルへの送水は専用(air/water:A/W)チャンネル洗浄アダプターを装着して、検査中に両チャンネル内に逆流した粘液、血液などを洗い流します。スコープに接続したケーブルおよび吸引チューブは消毒用エタノール清拭により消毒し、汚染拡大を防止します。
洗浄室においては、検査終了後の全てのスコープに漏水テストを行うことが望ましいとしています。スコープの漏水検出率についての報告では、上部消化管用スコープで0.16%、下部消化管用スコープでは0.14%としています。
スコープの洗浄には中性または弱アルカリ性の酵素洗浄剤を用い、洗浄剤の使用条件(温水等)に従って汚れを十分に落とします。送気・送水ボタン等はスコープから外して洗浄し、チャンネル洗浄ブラシを用いて全てのチャンネルをブラッシングします。洗浄後はスコープ外表面、チャンネル内のすすぎを十分に行います。確実な消毒効果を得るためには、高い清浄度を保って洗浄する必要があるため、各施設における現行の洗浄方法による清浄度をチェックし、より効果的な洗浄を行うことが推奨されています。
スコープの消毒方法としては、洗浄・消毒の均一化、人体への消毒薬暴露防止等の観点から、スコープ自動洗浄・消毒装置を用いることが望ましいとされています。装置使用前には適切な用手洗浄が必要とされ、その後の装置での処理においても、スコープに接続したチューブが外れていた場合等の洗浄・消毒効果が疑われる場合は、その工程をやりなおす必要があります。使用する装置は、定期的なメンテナンスを行うことが求められています。
用手による消毒については、次の第6章にまとめられた内容に基づいて行うとされ、使用する消毒薬の特徴、使用期限等を考慮して行います。消毒後は、すべての管路にアルコールフラッシュを行い、管路を乾燥させます。
洗浄・消毒の履歴管理については、具体的な項目名が新たに示されています。記録項目として「年月日」「時刻」「内視鏡番号」「担当者氏名」等が挙げられており、これらの履歴管理を行うことで不測事態への確実な対応が可能となります。
内視鏡室と離れた場所で使用したスコープの洗浄・消毒場所への搬送は、汚染を防止するためビニール製袋や蓋付き容器に入れて行います。また、清潔なスコープを内視鏡室から離れた場所へ搬送する場合は、スコープが汚染されないように清潔なビニール製袋や蓋付き容器に入れて行います。
スコープの保管時は、送気・送水ボタン等を外して保管庫に保管します。

第5章 スコープの消毒

スコープの消毒には高水準消毒薬(過酢酸、グルタラール、フタラール)を用いるとし、消毒に要する時間は改訂前と変わらず、過酢酸 5分間、グルタラール 10分間、フタラール 10分間としています(表1)3)

表1.高水準消毒薬の特徴3)

消毒薬 使用に要する時間 利点 欠点 備考
過酢酸 5分間 ・殺菌力が強い
・カセット方式のため、内視鏡自動洗浄・消毒装置への充填時での蒸気曝露がない
    ・材質を傷めることがある
・10分間を超える浸漬を避ける
グルタラール 10分間 ・材質を傷めにくい
・比較的に安価
・刺激臭が強い
    ・0.05ppm以下の環境濃度で用いる(換気に特に留意する)
フタラール 10分間
    ・材質を傷めにくい
    ・緩衝化剤の添加が不要
    ・汚れ(有機物)と強固に結合する
    ・内視鏡自動洗浄・消毒装置での使用が望ましい

なお、使用法としては、過酢酸、フタラールは自動洗浄・消毒装置での使用となり、グルタラールは自動洗浄・消毒装置のほか、用手洗浄での使用も可能となります(表2)3)

表2.高水準消毒薬の使用開始後の使用期限の目安3)

消毒薬 使用法 使用期限 使用期限を左右する因子
過酢酸 内視鏡自動洗浄・
消毒装置
25回もしくは7~9日間 ・経時的な分解
・水による希釈
グルタラール 用手法 2~2.25%製品:7~10日間
3%製品:21~28日間
3.5%製品:28日間
・経時的な分解
・水による希釈
内視鏡自動洗浄・
消毒装置
2~2.25%製品:20回もしくは7~10日間
3%製品:40回もしくは21~28日間
3.5%製品:50回もしくは28日間
・経時的な分解
・水による希釈
フタラール 内視鏡自動洗浄・消毒装置 30回~40回
    ・水による希釈

高水準消毒薬の取扱い時には、付着や蒸気曝露を防ぐために、換気のよい場所で手袋とガウンを着用し、眼への飛入防止にも注意を払うこととしています。内視鏡自動洗浄・消毒装置を用いることで、消毒薬への接触機会を減らすことができますが、装置を使用する場合でも消毒薬の蒸気曝露は避けることはできないため、窓の開放や強制廃棄装置の設置等の対策は必要となります。
改訂前と同様に、消毒薬の使用期限の目安が示され、経時的な分解や水による希釈率を考慮して、使用前に実用下限濃度以上であることを確認することが望ましいとしています(表2)3)。内視鏡消毒後は、消毒薬の残留による副作用を防ぐために十分なすすぎが必須となります。
なお、今回の改訂ではスコープの消毒には高水準消毒薬を使用することを前提として作成されています。強酸性電解水をはじめとした機能水の使用は、殺菌効果の安定性や抗酸菌に対する有効性などに対する問題点があり、信頼性の高い科学的データが十分であるとは言いがたい状態であることから推奨事項からはずされています。機能水の使用については特性や欠点、内視鏡の消毒効果に関して科学的根拠の上で不確実な点があること等を正しく理解し、「機能水による消化器内視鏡洗浄消毒器の使用手引き(財団法人 機能水研究振興財団発行)」4)などを参照の上で、各施設の責任において適正かつ慎重に使用することが強く望まれています。

第6章 内視鏡付属品の洗浄・消毒・滅菌

今回の改訂で、送水ボトルの管理に関する項目が旧ガイドライン第3章から第6章へ移されています。送水ボトルの管理方法としては、改訂前と同様に「使用後に洗浄と乾燥を毎日行い、少なくとも週1回の滅菌」とし、今回の改訂で滅菌が行えない場合の対応として「次亜塩素酸ナトリウム液による消毒を毎日行う」ことが追記されています。
内視鏡処置具の管理方法については、改訂前と同様に、無菌組織に入るリユーザブル処置具は滅菌して使用し、ディスポーザブル処置具は再生使用しないこと、としています。リユーザブル処置具は、使用後に汚染物質が乾燥しないように直ちに洗浄液に浸漬させます。微細な部分の汚れを落とすためには用手洗浄や酵素洗浄剤の浸漬洗浄だけでは不十分とし、超音波洗浄装置を使用することとしています。なお、耐熱性のあるリユーザブル処置具には高圧蒸気滅菌が推奨されています。
内視鏡治療時に、数種類の処置具をかけて使用する処置具ハンガーについては、機器の汚染を回避するために消毒などの管理が必要であるとしています。フック部分は洗浄後に乾燥して消毒用エタノールで消毒し、スタンド部分も消毒用エタノールでの清拭を推奨しています。処置具ハンバーに取り付ける防水袋は、症例ごとに交換を行うこととしています。

おわりに

内視鏡室での感染対策は、患者への感染防止のみならず、スコープを取扱う医療従事者への感染防止に対しても配慮することが重要となります。各施設において、本実践ガイドを基に施設の実情に合わせたマニュアルを検討・作成し、それを確実に遵守することにより患者、医療従事者双方に対し、検査・処置等の安全が確保できるよう努めることが望まれています。

<参考文献>

  1. 消化器内視鏡の洗浄・消毒マルチソサエティガイドライン作成委員会(日本環境感染学会、日本消化器内視鏡学会、日本消化器内視鏡技師会):
    消化器内視鏡の洗浄・消毒マルチソサエティガイドライン【第1版】
    2008年5月23日..
    http://www.jgets.jp/CD_MSguideline20080523.pdf
  2. Peterson BT, et al.:
    Multisociety guideline on reprocessing flexible gastrointestinal endoscopes: 2011.
    Gastrointestinal Endoscopy, 73(6):1075-1084, 2011.
    http://www.asge.org/uploadedFiles/Publications_and_Products/Practice_Guidelines/Multisociety%20guideline%20on%20reprocessing%20flexible%20gastrointestinal.pdf
  3. 消化器内視鏡の感染制御に関するマルチソサエティ実践ガイド作成委員会(日本環境感染学会、日本消化器内視鏡学会、日本消化器内視鏡技師会):
    消化器内視鏡の感染制御に関するマルチソサエティ実践ガイド 改訂版.
    2013年7月10日.
    http://www.jgets.jp/CD_MSguide20130710.pdf
  4. 監修 日本機能水学会:
    機能水による消化器内視鏡洗浄消毒器の使用手引き 第1版. 財団法人 機能水研究振興財団.
    2012年7月.
    hhttp://www.fwf.or.jp/data_files/view/104(ファイルのダウンロード)

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