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Y's Letter
感染対策情報レター
2015/02/27

ロタウイルス胃腸炎について


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Y’s Letter Vol.3.No.31
Publised online:2015.02.27

はじめに1),2)

感染症予防法において「感染性胃腸炎」は定点報告対象(5類感染症)であり、指定届出機関(全国約3,000カ所の小児科定点医療機関)より届け出が行われています。ロタウイルスによる胃腸炎もこれに含まれますが、2013年10月より定点報告対象として「感染性胃腸炎(病原体がロタウイルスであるものに限る。)」が新設され、指定届出機関(全国約500カ所の基幹定点医療機関)より届け出が行われるようになり、ロタウイルス胃腸炎の流行が確認できるようになりました。日本においてロタウイルス胃腸炎は年末から増えはじめ、ピークは春先にみられます。またロタウイルスは乳幼児の急性胃腸炎の主要な病因であり、感染者は非常に多く、重症化する可能性もあるため、感染対策における重要な病原体の一つであると思われます。今回は、ロタウイルス胃腸炎の現状と感染対策について述べます。

ロタウイルスおよびロタウイルス胃腸炎について

タウイルスはレオウイルス科に属するエンベロープを持たないRNAウイルスです。内殻蛋白VP6(Viral Protein 6)の抗原性に基づいてA~G群に分類されますが、ヒトからは主にA群が検出されます。またA群ロタウイルスは、ウイルス粒子の最外層を構成している2種類の中和抗原蛋白VP7およびVP4の遺伝子配列より、型別がなされます。ヒトから検出されるその遺伝子型はそれぞれ10種類以上報告されており、組み合わせは多数考えられますが、実際検出される組み合わせは、5種類の型で大半を占めるとされています1),3)~7)。しかしながら、その型は国・地域により異なり、年により変化することが知られているため3),4),6)、ロタウイルスワクチンが多くの国で導入されつつある中、この遺伝子型を世界的レベルで把握することは重要であると考えられています6)。 ロタウイルスは3~5歳までにほとんどの乳幼児が感染します。潜伏期間は通常1~3日間であり、発症は急性で、発熱、嘔吐に続き、水様性の下痢がみられ、症状は通常3~7日で消失します3)。また脱水がひどくなるとショック、電解質異常、時には死に至ることもあります1)。2008年から2009年に日本の8病院で行われた6歳以下の乳幼児における調査によると2)、入院した13,767人のうち、11.9%(1,644/13,767人)は急性胃腸炎が原因であり、そのうち40.5%(665/1,644人)でロタウイルスが陽性であったとされています。また病院内でのロタウイルス感染発生率は1.0 / 1,000 入院日であり、18ヵ月未満の患者、5日以上の入院患者、基礎疾患のある患者でリスクが高くなったと報告されています。 ロタウイルスは通常、乳幼児おける急性胃腸炎の主な原因微生物と考えられていますが、成人においても感染は散見されており、特に高齢者や免疫抑制患者で多く報告されています8)~11)。しかしながら、成人における胃腸炎では、ロタウイルスの検査はほとんど実施されないため、その実態は正確に掴めていない可能性があります8)。また日本の成人におけるロタウイルス感染事例において、その臨床症状は、下痢、嘔吐、発熱が主症状であり、一般的に乳幼児に見られる臨床症状とほぼ同様であったことが報告されています10),11)

ワクチン

世界の5歳以下の下痢性疾患による死亡例において、ロタウイルスは主要な原因微生物であり12)、乳幼児においてロタウイルスに対する対策は非常に重要であると思われます。WHOでは2009年よりロタウイルスワクチンの接種を推奨しており、2014年の4月現在、WHO加盟国194カ国中、56カ国(29%)がロタウイルスワクチンを導入しています13)。2010~2011年のアメリカでの5歳以下の乳幼児のロタウイルスワクチン接種率は約60%であり、ワクチンを接種していない時期(2000~2006年)と比較すると、ロタウイルスによる入院数で約80%の減少がみられたと報告されています14)。一方日本においても、ロタウイルスワクチンは承認されており、任意での接種が可能です15)。また、2013年4月の時点でその接種率は45%に達していると推計されています16)

感染対策

ロタウイルスの主な感染経路は、ヒトあるいは環境表面などを介した糞口感染であり、その伝播は接触感染によると考えられています1),17),18) 。よって感染対策は標準予防策と接触予防策の遵守が基本となります18)。感染者の便には1gあたり1010 個程度の多量のウイルスが含まれ1),5)、環境中でも安定でその感染力は非常に強いため1),5),17),19)、便の処理は特に重要となります。環境表面が便で汚染された場合には、手袋等の個人防護具を着用し、便を物理的に拭き取るなどして除去した後20)、1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム液等を用いて清拭消毒します(ロタウイルスの消毒薬感受性についてはY`s Letter No.21 ウイルスによる感染性胃腸炎についてを参照ください)。また、感染性胃腸炎患者の便検体を調査した報告では、ロタウイルス陽性の検体において、ノロウイルスなどその他ウイルスが同時に検出されることがあり、複合感染の可能性を示唆する報告もあります21)~24)。 ロタウイルスの感染制御においても、手指衛生は非常に重要であり、手指衛生遵守率を向上せることで、ロタウイルス感染率が低下したとの報告もあります25),26)。ロタウイルスはエンベロープのないウイルスであるため、消毒薬感受性が低いことが想定されますが、ヒト皮膚上において70vol%エタノールを10 秒間接触時のロタウイルス不活性化率は、液体石けんと水を用いた場合に86.9%であったのに対し、99.8%であったことが報告されています27)。また同様にヒト皮膚上において、60vol%エタノール含有手指消毒薬を20秒間接触時のロタウイルス不活性化率は、99.99%以上であったことが報告されており28)、手指衛生においてエタノールの高い不活性化効果が期待されます。しかしながら、現状ではそのエビデンスが少ないこと、またロタウイルスの感染力の強さおよび複合感染の可能性等も考慮すると、特にロタウイルス感染患者の処置後においては、流水と石けんでの洗浄を基本とし、さらにアルコール含有手指消毒薬を補完的に使用すること等により、より厳密な手指衛生を実施することが望まれます。

まとめ

ロタウイルスは乳幼児の急性胃腸炎の主要な病因です。病院内での乳幼児のロタウイルス感染は18ヵ月未満の患者、5日以上の入院患者、基礎疾患のある患者でリスクが高いこと報告がされており2) 、これらの患者では特に注意が必要です。一方でロタウイルス感染は乳幼児だけでなく、成人においても高齢者や免疫抑制患者を中心に報告されています8)~11)。ロタウイルスに対する感染対策は、主な感染経路が接触感染であるため、標準予防策と接触予防策を遵守することが基本です。特にウイルスを多く含む便の処理やそれに伴う手指衛生はより厳密に行う必要があります。

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