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感染対策情報レター
2017/09/07

CDC 手術部位感染予防のためのガイドライン、2017


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はじめに

2017年5月、米国疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は「手術部位感染(Surgical site infection ;SSI)予防のためのガイドライン、2017 」1)2)(以下本ガイドラインと略)を公表しました。
以下に本ガイドラインの概要及び患者の手術部位の皮膚消毒に関する勧告について紹介します。

ガイドラインの概要

本ガイドラインは1999年に公表された「Guideline for Prevention of Surgical Site Infection, 1999」(以下1999年版ガイドラインと略)3) の改訂版です。
改訂は、リサーチクエスチョンを基に「SSI発生予防に関しての良質な論文」に対して、システマティックレビューを行い専門家の意見を取り入れて行われました。システマティックレビューでは1998年~2014年4月までにMEDLINE、EMBASE、CINAHL、Cochrane Libraryに掲載された文献、1999年版ガイドラインの参考文献、さらに専門家から提示された文献の中から抽出された良質な文献が使用されています。

構成は、勧告部分と解説部分(補足部:Supplement)に分けられており、勧告部分については(1)手術部位感染予防全般におけるセクション(コアセクション)6項目、(2)人工関節置換術に関するセクション7項目の2部から構成されています。人工関節置換術に関するセクションは、近年、米国における人工関節置換術の手術件数が増加していることから、今回の改訂より特別なセクションとして設定されました。

また、本ガイドラインでは1999年版のガイドラインのうち強く勧告している部分は継続して推奨し、解説部分のSupplementのセクション5で再勧告しています2)
なお、本ガイドラインは人工関節置換術を除き、1999年版ガイドラインと同様に熱傷、外傷、移植手術等の特化した分野について述べていません2)
本ガイドラインのセクション及び項目は以下の通りです。

(1) 手術部位感染予防全般(コアセクション)

● 経静脈抗菌薬による予防
●非経静脈抗菌薬による予防
●血糖コントロール
●正常体温
●酸素の供給
●消毒薬による予防

(2) 人工関節置換術セクション

● 輸血
● 全身的免疫抑制療法
● 副腎皮質ステロイドの関節腔内投与
● 抗凝固療法
● 整形外科手術用スペーススーツ
● ドレーン使用中における術後の抗菌薬予防期間
● バイオフィルム

これらのうち「消毒薬による予防」について解説します。

消毒薬による予防の勧告について

消毒薬による予防の項目においては、いくつかの勧告がありますが、本Letterでは、術前及び閉創前における患者の手術部位の皮膚消毒についての勧告とその背景について述べます。

(Ⅰ)術前における患者の手術部位の皮膚消毒に関する勧告

禁忌でなければ、手術部位の皮膚消毒はアルコールベースの消毒薬を適用する。
(カテゴリー IA 強い勧告;質の高いエビデンス)

本勧告においてはSSI発生予防のために、アルコールベースの消毒薬が推奨されていますが、具体的にどのアルコールベースの消毒薬が好ましいか、また有益な消毒の回数については示されていません。これらの背景について以下に示します。

(背景1)
アルコールベースの消毒薬が推奨されたことについて

文献レビュー及びその他の臨床ガイドラインの調査の結果に基づいています。

1)文献レビュー
アルコールベース群と水溶液群とでSSI発生を比較している複数の文献について統合解析(メタアナリシス)が行われました。メタアナリシスにおいてはランダム化比較試験が行われた文献(Randomized controlled trial ;以下RCTと略)が採用されています。
比較は2件行われています。1件目は[ 1 ]クロルヘキシジン(CHG)アルコールとヨードホール(ポビドンヨード、ポロクサマーヨード)水溶液の比較、2件目は[ 2 ]ヨードホールアルコールとヨードホール水溶液の比較がされています。

[ 1 ]CHGアルコールとヨードホール水溶液の比較
5つのRCT4)5)6)7)8)のメタアナリシス(N=1976)により、アルコールベース群は水溶液群と比較してSSI発生率が有意に低かったことが示されました[OR: 0.59 (0.42 -0.83);p=0.003; I2=0]。この結果は、1つの大規模RCT(質の高いエビデンス)(N=849)により、「アルコールベース群の方が水溶液群よりも準清潔手術(腹部、胸部、婦人科、尿路)おけるSSI発生のリスクを有意に低減した」と報告がされたことに強く影響を受けたと考えられます[9.5% vs.16.1%、OR: 0.59(0.41-0.85); p=0.004] 4)
これにより、「アルコールベース消毒薬は水溶液よりもSSI発生予防に有益であること」が示唆されました。

[ 2 ]ヨードホールアルコールとヨードホール水溶液の比較
5つのRCT7)9)10)11)12)のメタアナリシス(N=626)の結果、両群のSSI発生率に有意差はなく[OR: 1.80 (0.50‐6.52);p=0.37、I2=67%]、アルコールベース群が水溶液群よりもSSI発生予防に有益であるとは示されませんでした。
しかしながら、このメタアナリシスに採用されている1つのRCT(質が中程度のエビデンス)(N=209)においては、アルコールベース群の方が水溶液群よりも冠動脈バイパス移植(CABG)における胸骨SSI発生リスクが有意に低くいと報告されています[4%vs.13%;p=0.02, χ2=5.3] 9)

2)他の臨床ガイドライン
「1999年版ガイドライン」3)、「英国国立医療技術評価機構(NICE)のSSI予防ガイドライン,2008」(2017年2月に一部改訂)13)、「米国周手術期看護師協会(AORN)の周術期のためのガイドライン,2016」14)においては、術前の皮膚に対して消毒薬を塗布することを推奨していますが、どの消毒薬が一番好ましいかについては言及されていません。一方、「NICE の急性期病院におけるSSI予防のための戦略,  2014年改訂」15))ではアルコールベースの皮膚消毒薬が推奨されています。

以上、
(1) 文献レビュー[ 1 ]にて「アルコールベースの消毒薬の方が水溶液よりもSSI発生予防に有益であること」が示唆されたこと
(2) 文献レビュー[ 2 ]においては、アルコールベースの消毒薬について水溶液よりも有益性があるとは示されなかったものの、1つのRCT(質が中程度)9)はSSI発生のリスクを有意に低減させていること
(3) 他の臨床ガイドラインにアルコールべースの皮膚消毒薬の使用が推奨されていること
を鑑みて、アルコールベースの消毒薬が推奨されたと考えられます。
なお、アルコールベースの消毒薬が使用できない患者もいるため、勧告上では「禁忌でなければ、」との条件が付与されています。

(背景2)
アルコールベースの皮膚消毒薬のうちどの消毒薬が好ましいか示されていないことについて

6つのRCT 7)16)17)18)19)20)のメタアナリシス(N=1323)において、CHGアルコールとヨードホールアルコールの比較が行われ、両者のSSI発生率に有意な差が認められませんでした[OR: 0.64 (0.24-1.71); p=0.38; I2=16%]。これにより、CHGアルコールがヨードホールアルコールよりもSSI発生予防に有益であるとは示されず、勧告にはどの消毒薬が好ましいか示されませんでした。

(背景3)
有益な消毒回数が示されていないことについて

メタアナリシスは行われていませんが、ヨードホールに関する1回消毒、2回消毒を比較した2つのRCT(2つとも質が中程度のエビデンス)において、両文献ともにSSI発生率に有意差が示されなかったとの結果に基づいています9)21)。1つのRCT(N=234)によると、1回消毒、2回消毒の感染率は、切開部感染率ではともに10%(p=0.078)、腹腔内感染率ではそれぞれ2%と3%(p=0.14)で有意差はなかったと報告されています21)。もう一方のRCT(N=108)においても、CABGにおける胸骨SSI発生率は1回消毒では12%、2回消毒では13%と報告されて、こちらも有意差なしの結果となっています9)

(Ⅱ)閉創直前における患者の皮膚消毒に関する勧告

RCTのエビデンスによると、SSI発生予防のために、手術切開部を閉鎖する直前に、患者の皮膚を消毒薬で再び塗布する行為は、有益性と有害性間で妥協点を評価するには不十分であった。
(勧告しない/未解決問題)

(背景)
高度のバイアスリスクを有する1つのRCT(N=107)の結果のみが参考とされています。本RCTでは、胃の手術と大腸直腸手術において、閉創直前にポビドンヨードを塗布した群と塗布しなかった群ではSSI発生率(切開部感染+臓器/体腔感染)に有意差がなかったと報告がされています22)。胃手術(N=47)における切開部感染率は、ポビドンヨード塗布群で4.3%、塗布しなかった群で0%(p=0.4894)、臓器/体腔感染率はそれぞれ13.0%と12.5%(p=0.6460)でした。大腸直腸手術( N=60)では、切開部感染率は、ポビドンヨード塗布群で12.9%、塗布しなかった群で13.8%(p=0.6076)、臓器/体腔感染率についてはそれぞれ16.1%、17.2%(p=0.5898)と報告されています22)
その他、ヨードホール水溶液以外の消毒薬(クロルヘキシジン、クロルヘキシジンアルコール、ヨードホールアルコールなど)の再塗布を評価したRCTやシステマティックレビューを確認できていないため、妥協点を評価するには不十分とし、「勧告しない/未解決問題」としています。

おわりに

手術部位感染を予防するための米国におけるガイドラインですが、最新のエビデンスに基づいており、国内においてもSSI対策の参考になるものと思われます。

<参考文献>

  1. Centers for Disease Control and Prevention (CDC).:
    Guideline for the Prevention of Surgical Site Infection, 2017.
    http://jamanetwork.com/journals/jamasurgery/fullarticle/2623725
  2. Centers for Disease Control and Prevention (CDC).:
    Guideline for the Prevention of Surgical Site Infection, 2017.Supplement.
    http://jamanetwork.com/journals/jamasurgery/fullarticle/2623725
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    Guideline for Prevention of Surgical Site Infection, 1999.
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