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Y's Letter
感染対策情報レター
2017/10/19

英国HISの多剤耐性グラム陰性菌の感染制御に関するガイドライン

Y’s Letter Vol.4.No.5

Publised online:2017.10.19

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はじめに

現在、医療関連感染としてMDRP (multi-drug-resistant Pseudomonas aeruginosa:多剤耐性緑膿菌)、MDRAB (multi-drug-resistant Acinetobacter baumannii:多剤耐性アシネトバクター・バウマニ)、CRE (carbapenem-resistant Enterobacteriaceae:カルバペネム耐性腸内細菌科細菌) などの多剤耐性グラム陰性菌による感染症は世界的に問題となっています。そこでHIS (Healthcare Infection Society)は、その伝播予防のための効果的な方策として、2016年に多剤耐性グラム陰性菌の感染制御に関するガイドライン1)を発表しました。本ガイドラインは、急性期および長期医療施設を対象としており、勧告はサーベイランス、スクリーニング、伝播予防策、環境と清掃、その他の5つの項目で構成されています。今回は上記勧告のうち、伝播予防策および環境と清掃に関する項目を中心に紹介いたします。

HIS (Healthcare Infection Society)
:医療従事者に医療関連感染の制御のために必要な情報、エビデンスおよびスキルの提供を目的とした英国の公益的活動団体2)

伝播予防策

現状ではグラム陰性菌(特に多剤耐性株)に対して感染制御策の効果を直接的に検証したというエビデンスはほとんどありません。しかしながら、標準予防策は感染制御において必要不可欠な方策であるため、勧告では多剤耐性グラム陰性菌に感染の可能性がある患者に対しても、その実施が求められています。標準予防策の中でも、特に重要な手指衛生については、患者と直接接触の前後、体液や粘膜または傷のある皮膚に触れた後、患者近くの環境に触れた後、手袋を外した後のタイミングでの実施が要求されています。
多剤耐性グラム陰性菌に感染の可能性がある患者には、標準予防策に加えて接触予防策を適応することが求められており、感染・保菌患者のケアについては、使い捨ての手袋やガウンまたはエプロンを確実に用いることが要求されています。個室隔離についてはガイドラインでは一例として、ICUを個室に変更した病棟と個室に変更しなかった病棟におけるグラム陰性菌の獲得率を比較した報告3)を引用しています。個室に変更することにより、その比はアシネトバクター属菌などでは低下しましたが、低下がみられなかった菌種も報告されています(表1)。また多剤耐性グラム陰性菌の保菌期間は、菌株にもよりますが、数日ではなく数ヵ月に及ぶことが報告されています4)-6)。このような報告から勧告では推奨度は低いものの、感染・保菌患者の隔離については、可能であれば個室隔離を実施するべきであり、接触予防策については入院期間中継続するべきとしています。また、患者を個室配置する際には、多剤耐性グラム陰性菌の中でも、現在臨床上問題となっているCREを優先すること、個室が利用できない場合には、患者のコホーティング(集団隔離)を考慮することを挙げています。(CREにつきましては、Y’s Letter Vol.3 No.30 感染症予防法の一部改正についてをご覧ください。)

表1 個室へ変更後のグラム陰性菌獲得率の変化

菌種 レート比
(95%信頼区間)
有意差
Acinetobacter spp. 0.47 (0.24-0.92)
Enterobacter spp. 0.62 (0.42-0.93)
Klebsiella spp. 0.62 (0.38-0.99)
Escherichia spp. 0.89 (0.55-1.44)
Pseudomonas spp. 1.00 (0.63-1.57)

環境と清掃

一般的にグラム陰性菌の中でも特に腸内細菌科細菌は、環境中での長期間生存は難しいと考えられていますが、乾燥表面において数週間生存可能であったとの報告もあります7),8)。一方で、アシネトバクター属菌や緑膿菌は環境表面において長期間生存可能であることが知られています9)。しかしながら環境のスクリーニングについては、その有益性に関するエビデンスはほとんどないため、勧告では説明のつかない多剤耐性グラム陰性菌の伝播がおきている場所やアウトブレイクの感染源が想定できる場所に限り、その実施を考慮するとしています。
患者使用後の酸素加湿器やネブライザーなどの呼吸療法器具の汚染を調査した報告10)では、全体の87%(61/70)が微生物で汚染されており、そのうち69%(42/61)がグラム陰性菌、さらにそのうち40%(17/42)は多剤耐性株であったとされています。よって勧告では、汚染リスクの高い呼吸療法器具などの汚染除去は、手洗い用のシンクではなく、患者のベッドから離れた洗浄用に設計されたシンクで行うべきとしています。また、特に緑膿菌による汚染については湿潤環境との関連性がよく報告されていますが、医療施設の給水システムが感染源となり得るとの報告もあるため11)、多剤耐性株を含め緑膿菌の保菌や感染レベルが上昇したときには、自施設の水安全計画(water safety plan)に従ったリスク評価を実施するべきとしています。
多剤耐性グラム陰性菌に対する清掃方法に関するエビデンスはほとんどない状況ですが、ガイドラインではMDRABに対する感染対策として接触予防策の強化やコホーティングなどの感染対策に加え、次亜塩素酸ナトリウムによる環境消毒の実施などの対策を追加した報告を引用しています12)。追加対策実施後、MDRAB検出率は1000患者日あたり11.1症例から1.7症例に減少し、保菌リスクが低下したことが報告されています。このような報告から、推奨度は低いものの、勧告では多剤耐性グラム陰性菌のアウトブレイクの制御策として患者退室後の環境消毒には次亜塩素酸を使用するべきとしています。また、患者退室後の清掃に続く追加的手法の一つとして、勧告では蒸気化過酸化水素による消毒法を挙げています。(蒸気化過酸化水素による消毒法につきましては、Y’s Letter Vol.3 No.15 蒸気化過酸化水素による環境消毒について をご覧ください。)

まとめ

多剤耐性グラム陰性菌に対する感染対策は標準予防策と接触予防策の実施が基本となります。施設内においては呼吸療法器具などの処理に注意が必要であり、また特に緑膿菌については給水システム等を含めた湿潤環境の管理が重要です。多剤耐性グラム陰性菌に感染した場合、治療が難しく、入院期間の延長や場合によっては死に至ることもあるため、感染対策は非常に重要であり、本ガイドラインは、その感染制御に参考となるガイドラインと思われます。

<参考文献>

  1. Wilson AP, Livermore DM, Otter JA, et al.:
    Prevention and control of multi-drug-resistant Gram-negative bacteria: recommendations from a Joint Working Party.
    J Hosp Infect 2016;92 Suppl 1:S1-44.
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26598314
  2. Healthcare Infection Society :
    About Us
    https://www.his.org.uk/about-his/
  3. Teltsch DY, Hanley J, Loo V, et al.:
    Infection acquisition following intensive care unit room privatization.
    Arch Intern Med 2011 10;171:32-8.
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21220658
  4. Zimmerman FS, Assous MV, Bdolah-Abram T, et al.:
    Duration of carriage of carbapenem-resistant Enterobacteriaceae following hospital discharge.
    Am J Infect Control 2013;41:190-194.
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    Infect ControlHosp Epidemiol 2003:24:246-250.
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12725352
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    Am J Infect Control 2014;42:116-121.
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