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Y's Letter
感染対策情報レター
2017/12/04

輸液療法時における感染対策~米国輸液看護協会「輸液療法実践基準」~

Y’s Letter Vol.4.No.6

Publised online:2017.12.04


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はじめに

輸液療法は経静脈的に水や電解質、ビタミン・ミネラルを含む栄養成分等を投与することによって、体液の恒常性の保持と栄養の維持を目的に行われる治療法であり1)、血管に直接アクセスし、血液曝露が生じやすい医療行為であることから感染に十分留意した対策の実施が必要です。輸液療法時の感染対策法としては「血管内カテーテル関連感染防止のためのCDCガイドライン2011」2)3)の勧告を参照することも多くありますが、近年では2016年に輸液看護師協会(Infusion Nurses Society;INS)が発行する「Journal of Infusion Nursing」誌に掲載された輸液療法の実践基準「Infusion Therapy Standards of Practice」4) があります。本実践基準はBD Medical社から教育助成金の提供を受けて改訂されており、輸液療法時に実施が期待される項目を中心にまとめられています。 以下、本実践基準に掲載された項目のうち、感染防止対策部分を概説します。

輸液療法時の感染予防と感染管理

本指針では輸液療法にまつわる標準的な手技を9つのセクションに分類して掲載しており、感染予防と管理の項はセクション3に挙げられています。具体的には、手指衛生、注射剤の調製と準備、医療廃棄物と鋭利器材の安全な取扱い、標準予防策と感染経路別予防策ならびに耐久性のある医療機器の消毒について述べられております。以下、各項で挙げられた感染対策法を抜粋します。

手指衛生

患者ケア中には手指衛生を日常的に実施し、次の1~7のタイミングでは速乾性手指消毒薬を用いるか、またはスクラブ製剤と流水を用いた手指衛生を実施することが挙げられています。

  1. 患者に直接触れる前
  2. 中心静脈カテーテルを挿入する際の滅菌手袋を装着する前
  3. 末梢静脈カテーテルを挿入する前
  4. 患者の健常または非健常皮膚に触れた後
  5. 体液や排泄物、粘膜、創部ドレッシングに触れた後で、手指が見た目に汚れていない場合
  6. 患者のすぐ近くにある医療機器を含む物品に触れた後
  7. 手袋を外した後

ただし、手指が見た目に汚れていない場合や、芽胞形成菌またはノロウイルスによる胃腸炎のアウトブレイクが発生していなければ、(スクラブ製剤を用いた手指衛生よりも)日常的に速乾性手指消毒薬を使用した手指衛生が推奨されています。
一方で、非抗菌性石けんと流水あるいはスクラブ製剤と流水による手指衛生の実施のタイミングとして以下の1~3のタイミングを挙げています。

  1. 手が血液または他の体液で見た目に汚染されている場合
  2. ノロウイルスによる胃腸炎や芽胞形成菌によるアウトブレイク中に感染が疑われるか確定した患者に触れた後、あるいはケアの実施後
  3. 食事前およびトイレ利用後

これらのタイミングのうち、1.および2.の場合には、手指が高度に(多数の)微生物汚染を受けている可能性が高く、非抗菌性石けんと流水のみでは感染対策としての手指衛生として不十分と思われる点に注意が必要です。すなわち、「隔離予防策のためのCDCガイドライン2007」5)6)で記述されているように、見た目に汚染されている物質を非抗菌性石けんと流水で取り除いたあとは、速乾性手指消毒薬による手指衛生が望まれるという補足の文章が重要であると思われます。しかし非抗菌性石けんによる手洗い直後に速乾性手指消毒薬を頻回に使用すると、皮膚炎が生じる可能性が高まるという認識も併せ持つ必要があります

編集指導者コメント
一定の経験を積んだ医療従事者は、手指衛生遵守の必要性に比重を付けて実践し、効果的感染制御策とすることも考慮すべきと思います。また、技術も交差汚染防止に大きく関わります。エビデンスによる裏付けが大切です。

注射剤の調製と準備

感染対策に鑑みた安全な注射手技の項目では、すべての穿刺に新品の針とシリンジを使用すること、単回投与バイアルは1回穿刺した後は廃棄すること、また複数回投与バイアルは同一の患者専用とすることを挙げています。バイアルに穿刺する前のゴム栓部分ならびにガラスアンプルのカット部分を折る前に消毒し、消毒薬が乾燥してからバイアル穿刺あるいはアンプルカットすることを勧告しています。

医療廃棄と鋭利器材の安全な取扱い

針刺しを予防するために安全装置付き器材を使用すること、中でも受動的安全装置付き器材を検討することが推奨されています。鋭利器材使用中は備えられた安全制御装置を有効にして、使用後は分解せずに廃棄します。鋭利器材の廃棄には、密閉性、耐貫通性、防水性、適切なラベルや色分けが施してあり、さらに採血に必要な物品(採血ホルダーや針など)全体の処分に十分な大きさの廃棄容器を用います。この廃棄容器は鋭利器材を使用する場所およびアクセスしやすい場所に設置し、廃棄容器の容量が3/4に達したら新しい容器に交換します。

標準予防策と感染経路別予防策

標準予防策は、伝染性感染微生物が含まれる可能性のある血液、体液、分泌物や汗を除く排泄物、非健常皮膚および粘膜に曝露される可能性のある全ての輸液処置中に適用されます。輸液療法時は特に血液や体液などに曝露される可能性が高いため、CDC隔離予防策ガイドライン5)6)で勧告されている通り、各種個人防護具(Personal Protective Equipment;PPE)の装着を勧告しています。また本実践基準における感染経路別予防策の項でも同様に、主にPPEの装着タイミングについて勧告されており、CDC隔離予防策ガイドラインも併せて確認することが重要と思われます。

耐久性医療用具の消毒

輸液療法時に使用する耐久性医療用具(Durable medical equipment;DME)として、点滴スタンド、流量調節装置ならびに血管可視化のための超音波あるいは赤外線装置、その他の非ディスポーザブル器具や硬質非多孔表面、輸液関連装置などが挙げられています。これら機器・装置は洗浄し、米国環境保護庁 (Environmental Protection Agency;EPA)登録の消毒薬を用いて消毒することが求められています。洗浄または消毒を損なうような完全性の破綻がないかDME表面を検査し、意図したように機能しない場合や適切な洗浄・消毒ができなくなった機器は修理または廃棄します。また多剤耐性菌に感染または保菌しているか、接触予防策が適用されている患者の居室には限られた量のDMEを持ち込み、可能な場合には患者が退去するまでDMEを持ち出さず、患者居室に残します。

まとめ

輸液療法時の感染対策は血液や体液の曝露を想定した感染予防が重要な対策となります。輸液製剤を無菌的に調製することは当然のことですが、処置に使用した鋭利器材の扱いや患者周辺の環境および使用機器の洗浄・消毒も考慮する必要があります。
感染対策の基本として標準予防策ならびに感染経路別予防策が挙げられており、これらには手指衛生も含まれます。輸液療法という血液汚染などが生じる可能性がある医療処置においても感染対策の基本を遵守することが重要と思われます。

<参考文献>

  1. 輸液製剤協議会:
    よくある質問・用語解説.輸液療法.at
    http://yueki.com/faq/words/words10.html
  2. 満田年宏訳・著:
    血管内留置カテーテル関連感染予防のためのCDCガイドライン.
    ヴァンメディカル,東京,2011.
  3. CDC:
    Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infections, 2011.
    https://www.cdc.gov/hai/pdfs/bsi-guidelines-2011.pdf
  4. Gorski L, Hadaway L, Hagle ME, et al.:
    Infusion Therapy Standards of Practice.
    J Infus Nurs 2016;39:S1-S159.
    http://source.yiboshi.com/20170417/1492425631944540325.pdf
  5. 満田年宏訳・著:
    隔離予防策のためのCDCガイドライン 医療環境における感染性病原体の伝播予防2007.
    ヴァンメディカル,東京,2007.
  6. CDC:
    2007 Guideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings.
    https://www.cdc.gov/infectioncontrol/pdf/guidelines/isolation-guidelines.pdf

関連サイト