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Y's Letter
感染対策情報レター
2018/01/16

劇症型溶血性レンサ球菌感染症について

Y’s Letter Vol.4.No.7

Publised online:2018.01.16


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はじめに

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は主にA群溶血性レンサ球菌によって引き起こされる感染症です。その激しい侵襲性と致死率の高さから「人食いバクテリア」と俗称されることもあります。近年、日本国内において本感染症の報告件数が増加しており、注目すべき感染症の1つです。
以下、劇症型溶血性レンサ球菌感染症について述べます。

疫学1)

A群溶血性レンサ球菌による感染症は19世紀から20世紀前半に、ヨーロッパを中心に猩紅熱(しょうこうねつ)として報告されており、一部で劇症肺炎を伴った致死率の高い疾患についても記録されていました。劇症型溶血性レンサ球菌感染症が最初に正式に記述されたのは1984年のチェコのプラハにおける症例であり、その後、世界中で多くの報告が上げられました。日本国内では1992年の44歳健常男性での感染例が初めての報告とされています2)。それ以降、日本でも報告件数が増加しつつあり、2012年以降では年間で200を超える件数が報告されています。さらに2015年および2016年では年間400を超える件数が報告され、2017年においては第50週(12月11~17日)までの累計報告数が既に539件となり、近年では報告件数が増加しつつあります3)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の原因菌の多くはA群溶血性レンサ球菌(主にStreptococcus pyogenes)ですが、近年ではB群、C群およびG群溶血性レンサ球菌による感染例の報告数も増加しつつあります。

臨床症状1)4)

A群溶血性レンサ球菌は主に小児が感染し、咽頭炎などの症状を呈することが一般的ですが、劇症型溶血性レンサ球菌感染症は様々な年齢層において感染の報告があり、特に30歳以上の成人で多く報告されています。初期症状は咽頭痛、発熱、消化管症状、全身倦怠感、筋痛などであり、その後、軟部組織への感染が多くの症例で認められます。また、まれに壊死性筋膜炎に進行して、毒素性ショック症候群(Streptococcal toxic shock syndrome;STSS)を呈することがあります。壊死性筋膜炎は筋膜から脂肪および上皮へ重篤でかつ急激に感染が進行し、筋膜の壊死を起こします。致死率は報告によっても異なりますが30~50%程度であり、多くは発症から48時間以内で死に至ります。また、壊死性筋膜炎を発症した患者の30~50%はSTSSに発展し、多臓器不全を併発する危険性が高くなります。
なお、劇症型溶血性レンサ球菌感染症は感染症予防法の5類感染症(全数把握)に指定されており、A群溶血性レンサ球菌のみならずβ溶血性を示すレンサ球菌が血液などの通常無菌的な部位から検出され、かつショック症状および表1の症状のうち2つ以上を満たす場合には報告の対象となります4)

表1. 届出に必要な臨床症状

肝不全、腎不全、急性呼吸窮迫症候群、播種性血管内凝固症候群(DIC)、軟部組織炎(壊死性筋膜炎を含む)、全身性紅斑性発疹、痙攣・意識消失などの中枢神経症状

病院感染の事例5)6)

A群溶血性レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症は家庭内など市中で伝播した事例の他、病院感染例も報告されています。病院感染は主に手術後や出産後の患者などで発症した例が確認されていますが、カーテンを介した感染や感染患者から医療従事者へ2次感染した例も報告されています6)~12)。また、いくつかのアウトブレイク事例では、A群溶血性レンサ球菌を保菌している無症候性キャリアの医療従事者が感染の原因として疑われた報告もあります5)。感染経路は接触感染と飛沫感染であり、感染患者の呼吸器分泌物または創部や皮膚病変の滲出液からの飛沫が口腔や鼻腔粘膜などに接触する事による伝播経路、または皮膚や創部からの滲出液または呼吸器分泌物が健常でない皮膚に直接的または間接的に接触する事による伝播経路があります。

病院感染対策5)6)

感染対策は標準予防策を遵守し、当該感染症例には接触予防策および飛沫予防策を追加します。接触・飛沫予防策は適切な抗菌薬による治療が行われてから24時間まで行う必要があります。手指衛生については医療従事者が厳密に遵守することは勿論ですが、訪問者にも手指衛生を含めた基本的な感染対策の情報を提供する必要があります。患者の創部洗浄などで洗浄液により医療従事者の粘膜部分の汚染が予想される時にはマスクや目の保護具またはフェイスシールドを着用します。また、患者または患者の物品や周辺環境に触れる場合には個人防護具(手袋やエプロン)を着用します。医療従事者の皮膚に傷がある場合には防水ドレッシングで覆う必要があります。患者の隔離については効果的な抗菌薬による治療から最低限24時間は実施すべきとされています。
また医療従事者自身が感染の症状を呈する場合には速やかに感染管理担当部門等へ報告し、感染している可能性がある場合には業務から外すなどの体制を確保します。感染の症状を早期に発見し検査を実施することが重要になります。
患者隔離部屋、家具、物品は洗浄剤と水で清掃した後1000ppm次亜塩素酸で消毒します。風呂などの共用設備についても患者使用毎に清掃します。
なお、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の主な原因菌であるStreptococcus pyogenesはグラム陽性球菌であり、特別な消毒薬抵抗性に関する報告はありません。消毒薬感受性についての報告はあまり多くありませんが、2%グルタラール、エタノール、イソプロパノール、0.12%クロルヘキシジンが有効であったとの報告があります13)14)

おわりに

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は日本国内において近年、報告件数が急増しており注目すべき感染症の1つです。本感染症を発症すると急激に症状が悪化すること、また致死率が高いことから早期発見、早期治療が重要になります。
医療機関においては本感染症に対する感染対策や治療などの管理体制を構築し、感染患者受け入れ時や医療従事者自身が感染した場合の対応に備えることが肝要であると考えられます。(注:なお、抗菌薬適用に関してはペニシリン系抗菌薬が第一選択薬とされていますが、詳細は専門書等をご参照下さい。)

<参考文献>

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  2. 清水可方、大山晃弘、笠間和典、他:
    A群溶血連鎖球菌によるtoxic shock like syndrome の1 例.
    感染症誌 1993;67:236-239.
  3. 国立感染症研究所:
    IDWR速報データ 2017年第50週.
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/data/7737-idwr-sokuho-data-j-1750.html
  4. 厚生労働省:
    感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について 劇症型溶血性レンサ球菌感染症
    http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-06.html
  5. Public Health Agency of Canada:
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関連サイト