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Y's Letter
感染対策情報レター
2018/06/04

IDSA /SHEAのクロストリジウム・ディフィシル感染症に関するガイドライン 2017

Y’s Letter Vol.4.No.10

Publised online:2018.06.04


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はじめに

本ガイドライン1) は、2010年にIDSA※1とSHEA※2が公開したCD(Clostridium difficile:クロストリジウム・ディフィシル)※3感染症の臨床診療に関するガイドライン2)の改訂版であり、追加されたエビデンスなどをもとに、より詳しい内容となっています。本ガイドラインは疫学、診断、感染制御、治療の項目から構成されていますが、本レターでは感染制御の項目について、勧告文を中心に紹介します。

※1 IDSA (Infectious Diseases Society of America):米国感染症学会
※2 SHEA (The Society for Healthcare Epidemiology of America):米国医療疫学学会
※3 属名はClostridioidesに変更されていますが、本レターではガイドラインの表記通りClostridiumと記載します。

CD感染患者に対する隔離予防策

CDは医療関連下痢症の主な原因菌であり、便を介して伝播することが知られています。勧告ではCDの伝播を軽減させるため、CD感染患者は専用トイレを備えた個室に入室させることが推奨されています。もし個室の数に限りがある場合には、便失禁を有するCD感染患者の入室を優先させ、コホーティング必要時にはCD以外の多剤耐性菌なども含めた同一の微生物に感染・保菌した患者への実施が推奨されています。また医療従事者はCD感染患者の病室への入室時と患者のケア時に、必ず手袋とガウンを用いることが求められています。
CDの汚染度について52名のCD感染患者の便検体、皮膚および環境を調査した報告があります3)。下痢回復の時点までに、多くの患者で便検体は不検出レベルまで抑制されていましたが、下痢回復時点における皮膚と環境の汚染率はそれぞれ60%、37%と高かったことが報告されています。エビデンスは少ない状況ですが、このような報告からCD感染患者は下痢回復後少なくとも48時間は接触予防策を継続することが推奨されています。またCDに対する標準的な感染制御策の実施にもかかわらず、感染率の高い状態が続いている場合には、退院時まで接触予防策を延長することが挙げられています。さらにCD感染疑い患者についても、CDの汚染リスクがあることから4)、CD感染の検査結果が同日中に得られない場合には、結果がでるまで先制的に接触予防策を実施することが推奨されています。

手指衛生

他の医療関連感染と同様に手指衛生はCD伝播予防の重要な対策の1つと考えられています。手指衛生にはアルコール製剤が一般的に用いられていますが、CDは芽胞状態でアルコールに対し非常に強い抵抗性を示すことが知られています。手指衛生によるCD芽胞の除去効果を評価した報告では、アルコール製剤よりも、流水と石けんによる手指衛生がより効果的であったことが報告されています5) 6)。したがって手指衛生にアルコール製剤を使用することにより、CD感染率が上昇する可能性は考えられますが、アルコール製剤の使用がCD感染率の上昇につながったことを支持する臨床的な研究は現在のところありません。このようにエビデンスは限られているものの、本ガイドラインでは医療従事者の手袋の使用を前提とした上で手指衛生について勧告しており、通常時あるいはCD感染が散発的な発生しかない状況下では、CD感染患者の接触の前後や手袋を脱いだ後の手指衛生には、流水と石けんあるいはアルコールベースの手指衛生剤のいずれかを用いるとされています。一方でCDのアウトブレイク時および感染率の高い状態が続いている状況下では、CD感染患者のケア前後の手指衛生には、アルコールベースの手指衛生剤の代わりに流水と石けんを用いることが望ましいとされています。なお、便や便汚染の可能性の高い場所に直接触れた場合には、流水と石けんを用いた手指衛生が優先されることも挙げられています。

環境管理

医療環境下においてCDは芽胞状態で長期間生存し、トイレ、床、ベッド柵、コールボタン、オーバーベッドテーブルなどで検出されています。特にCD感染患者の病室はより汚染されており、CD感染患者、無症状のCD保菌患者、CD陰性患者の病室のCD汚染率はそれぞれ19.6%、6.8%、2.6%であったとの報告もあります7)。しかしながら、環境汚染に起因したと考えられるCD感染は、新規症例の2–7%程度であったこと8)9)などが報告され、CD感染患者の多くが環境から直接CDを獲得していないことが示唆されています。殺芽胞剤※4による環境整備については、感染率の減少が見られたとされる研究の多くが、アウトブレイク時に他の感染制御策とともに導入された報告であり、またアウトブレイクが起きていない場合においては、今のところその有効性は見出されておりません。以上の理由などから、殺芽胞剤の有用性に対する評価は難しく、エビデンスは限られていますが、勧告では殺芽胞剤を用いた病室の日常・退室時清掃は、アウトブレイク時や感染率の高い状態が続いている場合および同じ病室で明らかにCD感染が繰り返される場合に、他のCD感染制御策と併せて考慮したほうがよいとされています。また環境清掃の質を確保するため、例えば蛍光マーカーやATP測定試薬などを用いて、清掃の有効性の測定を併せておこなうことが推奨されています。なお、CD感染防止のために、UVや蒸気化過酸化水素などを用いた退室時自動消毒の使用を推奨するには現時点ではデータが不足しているとされています。
またCDで汚染された移動式便器、血圧測定器のカフ、口腔・直腸用の体温計を介して環境汚染につながったことが報告されており、勧告では、CD感染患者に対しては可能であればディスポーザブルの器具を使用し、再使用可能な器具は、望ましくは殺芽胞剤を用い、徹底的な洗浄・消毒が確実に行われるよう推奨されています。
※4EPA(Environmental Protection Agency:環境保護局)はウェブサイトでCDの芽胞に有効な製品リストを公表しています10)

まとめ

CDの感染対策は、標準予防策と接触予防策の遵守が基本となります。CDは芽胞状態で消毒薬に強い抵抗性を示すため、アウトブレイク時などにおける感染患者のケア前後の手指衛生には、アルコールベースの手指衛生剤の代わりに流水と石けんを用いることが望ましいと考えられます。環境管理においては、殺芽胞剤の有用性に関するエビデンスは限られておりますが、CDは医療環境下において長期間生存するため、その汚染減少のための確実な環境清掃が求められています。CDは日本においても問題となっており、その対策は非常に重要です。本ガイドラインはCDの感染制御に参考となるガイドラインであると思われます。

<参考文献>

  1. McDonald LC, Gerding DN, Johnson, et al. :
    Clinical Practice Guidelines for Clostridium difficile Infection in Adults and Children: 2017 Update by the Infectious Diseases Society of America (IDSA) and Society for Healthcare Epidemiology of America (SHEA).
    Clin Infect Dis 2018 ; 66 : 987-994.
    https://academic.oup.com/cid/article/66/7/987/4942452
  2. Cohen SH, Gerding DN, Johnson S, et al. :
    Clinical practice guidelines for Clostridium difficile infection in adults : 2010 update by the society for healthcare epidemiology of America (SHEA) and the infectious diseases society of America (IDSA).
    Infect Control Hosp Epidemiol 2010 ; 31 : 431-55.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20307191
  3. Sethi AK, Al-Nassir WN, Nerandzic MM, et al. :
    Persistence of skin contamination and environmental shedding of Clostridium difficile during and after treatment of C. difficile infection.
    Infect Control Hosp Epidemiol 2010 ; 31 : 21-7.
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19929371
  4. Sunkesula VC, Kundrapu S, Jury LA, et al. :
    Potential for transmission of spores by patients awaiting laboratory testing to confirm suspected Clostridium difficile infection.
    Infect Control Hosp Epidemiol 2013 ; 34 : 306-8.
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23388367
  5. Oughton MT, Loo VG, Dendukuri N, et al. :
    Hand hygiene with soap and water is superior to alcohol rub and antiseptic wipes for removal of Clostridium difficile.
    Infect Control Hosp Epidemiol 2009 ; 30 : 939-44.
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19715426
  6. Jabbar U, Leischner J, Kasper D, et al. :
    Effectiveness of alcohol-based hand rubs for removal of Clostridium difficile spores from hands.
    Infect Control Hosp Epidemiol 2010 ; 31 : 565-70.
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20429659
  7. Kim KH, Fekety R, Batts DH, et al. :
    Isolation of Clostridium difficile from the environment and contacts of patients with antibiotic-associated colitis.
    J Infect Dis 1981 ; 143 : 42-50.
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7217711
  8. Curry SR, Muto CA, Schlackman JL,et al. :
    Use of multilocus variable number of tandem repeats analysis genotyping to determine the role of asymptomatic carriers in Clostridium difficile transmission.
    Clin Infect Dis 2013 ; 57 : 1094-102.
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3783061/
  9. Eyre DW, Griffiths D, Vaughan A, et al. :
    Asymptomatic Clostridium difficile colonisation and onward transmission.
    PLoS One 2013 ; 8 : e78445.
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3827041/
  10. EPA :
    LIST K: EPA’s Registered Antimicrobial Products Effective against Clostridium difficile Spores.
    https://www.epa.gov/pesticide-registration/list-k-epas-registered-antimicrobial-products-effective-against-clostridium

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