| ヒゼンダニとケジラミについて Y's Letter No.22 2003.10.06 |
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ダニ類であるマダニや昆虫類であるシラミ、ノミなど節足動物はヒトの体表に寄生することがあり、蚊もヒトを刺し吸血します。これらはリケッチア、コクシエラ、ボレリア、フラビウイルス、マラリア原虫などの微生物のベクター(媒介動物)となる場合があるのみならず(下表参照)1)2)、節足動物の寄生そのもの(infestation)が患者のクオリティーオブライフを損ね、さらにノルウェー疥癬のように重大な問題となる場合もあります。したがってこれら節足動物の排除や伝播予防策は感染対策における重要な事項のひとつです3)。 表:主な節足動物媒介微生物
器具、物品、環境に存在する節足動物に対して、通常の消毒薬は無効と思われ、洗浄、乾燥、塵埃の除去などにより物理的に駆除することを基本とします。やむなく殺虫剤を使用する場合には、その安全性について慎重な考慮が必要と思われます。節足動物を念頭においた手洗いは流水と石けんにより行うことを基本とします。 今回は寄生そのものが問題となるヒゼンダニとケジラミの伝播予防策について述べます。 Sarcoptes scabiei(ヒゼンダニ) ヒゼンダニはダニ類の節足動物で、ヒトの指間、陰茎、陰嚢、腹部など柔らかい皮膚に寄生し、その雌虫は角皮内にトンネルを作り産卵します。卵は3〜4日で孵化し、さらに2週間程で成虫となり、そのライフサイクルは30〜60日と言われています4)5)。 ヒゼンダニは激しい痒みを伴う赤色の丘疹や水泡を症状とする疥癬をもたらします。免疫力の低下した高齢者、移植患者、免疫不全患者などにおいては、寄生するヒゼンダニが通常の疥癬にみられる数十匹から数百万匹に異常増殖し、寄生が全身に及んで重症化することがあり、この場合をノルウェー疥癬(または角化型・痂皮型疥癬)と呼びます。ノルウェー疥癬は敗血症を誘発することがあります。国内外で老人施設や病院などにおける疥癬およびノルウェー疥癬の集団発生が多く報告されています6)7)8)。 ヒゼンダニは疥癬症例との濃密な接触により伝播するため、疥癬症例には場合によりビニール製ガウンの着用やヒゼンダニが付着する恐れのある器具の専用化など接触予防策に準じた対策を行います9)。繊維製のガウン・器具などにはヒゼンダニが付着・潜入しやすいことに注意が必要です。通常の疥癬の場合にはあまり伝播力が強くないため個室隔離などの対策は不要であるが、ノルウェー疥癬の場合には、皮膚より剥離した落屑とともに多数のヒゼンダニを拡散するため、個室隔離が必要と言われています10)。なお、ヒゼンダニを含む落屑は吸引清掃で除去します。 ヒゼンダニは人体外で長期間生存できません。低温多湿の環境ではヒゼンダニが2週間生存することもありますが、熱と乾燥に弱いため50℃10分間の処理で卵も含めて殺滅でき、また寝具などに存在するヒゼンダニはヒトと接触しないよう別置すれば3日〜2週間程度で殺滅できると言われています4)6)10)。 疥癬症例が身に付けた衣服・リネンなどは他と区別してビニール袋に入れ、洗濯・洗浄し乾燥させます。またベッドなど寝具は熱乾燥またはなるべく2週間の別置を行ってから他の患者に使用します。 ノルウェー疥癬症例の場合には、さらに厳密な対策が必要です。衣服・リネンなどは他と区別してビニール袋に入れ、ヒゼンダニが作業者に移行しないよう注意して取り扱い、熱水により洗濯・洗浄するか、もしくは熱水に10分間浸漬してから洗濯・洗浄し、乾燥させます。症例に密接した器具・用具・ベッドを含む寝具などで洗浄できないものは、熱乾燥またはなるべく2週間の別置を行ってから他の患者に使用します。症例の使用した個室はなるべく2週間他の患者に供しないか、それが不可能な場合には安全性を慎重に考慮した上で殺虫剤を使用してヒゼンダニを駆除します6)10)。これらの目的において、通常の消毒薬は無効と思われます。 Pthirus pubis(ケジラミ) ヒトに寄生するシラミには、恥部に寄生するPthirus pubis(ケジラミ)、頭部に寄生するPediculus humanus var capitis(アタマシラミ)、体に寄生するPediculus humanus var corporis(キモノシラミ)があり、そう痒症をもたらして患者のクオリティーオブライフを損ねます。ケジラミは毛の付け根部分に産卵し、卵は6〜10日で孵化し、10日以内に成虫となります。直接接触により伝播するため性行為が主な伝播経路ですが4)6)、感染症例には接触予防策を行い9)11)、その衣服、リネンなどは十分に洗浄します。 ヒトに寄生しない節足動物の場合でも、その体表が高度に微生物汚染されている場合もあると思われますので、日常的な清掃と防虫対策によりそれらを排除することは感染対策における重要な事項と言えます。 <参考文献> 1)吉田眞一,柳雄介編.戸田新細菌学,改訂32版.南山堂,東京,2002. 2)山西弘一、平松啓一編.標準微生物学,第8版.医学書院,東京,2002. 3)小林寛伊編.感染制御学.へるす出版,東京,1996. 4)Wendel K, Rompalo A: Scabies and pediculosis pubis: an update of treatment regimens and general review. Clin Infect Dis 2002;35(Suppl 2):S146-151. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi? cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=12353201&dopt=Abstract 5)Burkhart CG, Burkhart CN, Burkhart KM: An epidemiologic and therapeutic reassessment of scabies. Cutis 2000;65:233-240. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi? cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=10795086&dopt=Abstract 6)Lettau LA: Nosocomial transmission and infection control aspects of parasitic and ectoparasitic diseases. Part III. Ectoparasites/summary and conclusions. Infect Control Hosp Epidemiol 1991;12:179-185. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi? cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=2022865&dopt=Abstract 7)CDC: Epidemiologic Notes and Reports Scabies in Health-Care Facilities - Iowa. MMWR 1988;37:178-9. http://www.cdc.gov/epo/mmwr/preview/mmwrhtml/00051539.htm 8)感染症情報センター:疥癬.IASR 2001;22:241-242. http://idsc.nih.go.jp/iasr/22/260/tpc260-j.html 9)向野賢治訳, 小林寛伊監訳.病院における隔離予防策のためのCDC最新ガイドライン.メディカ出版,大阪,1996. http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_kaigai/cdc/guideline/iso.html 10)大滝倫子:疥癬集団発生の対策・予防.IASR 2001;22:243. http://idsc.nih.go.jp/iasr/22/260/dj2601.html 11)小林寛伊,吉倉廣,荒川宜親編集.エビデンスに基づいた感染制御(改訂2版)−第1集−基礎編 .メヂカルフレンド社,東京,2003. http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline/evidence.html | ||||||||||||||||||||||||||
2003.10.14 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd. | ||||||||||||||||||||||||||