| 感染症予防法の改正について(前編) Y's Letter No.23 2003.10.20 Revised on 2003.11.05 |
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(2006.12.13追記) *2006年12月8日、改正感染症法が公布されました。詳しくはこちらを参照ください。 はじめに 1998年に制定された感染症予防法の改正が2003年10月16日に公布され、11月5日に施行されました。 これは2003年8月の厚生労働省厚生科学審議会感染症分科会「感染症対策の見直しについて(提言)」 1)が、重症急性呼吸器感染症(SARS)に対する対応などを念頭に、1) 新感染症等の重篤な感染症に対する 対策の強化(国の役割の強化等)、2) 検疫対策の強化、3) 動物由来感染症に対する対策の強化、 4) 感染症法の対象疾患の追加等、5) 感染症に係る人材育成等を提言したことを受けて行われた法改正です。 具体的には、SARSや痘そう(天然痘)などの感染症を予防法の対象として追加することと、動物由来 感染症について感染源となる動物の輸入規制、消毒、ねずみ・蚊の駆除等の対物措置ができるように するため、従来より(旧)四類感染症と分類されていた感染症を、それらの措置を講ずることができる (新)四類感染症と、従来どおり発生動向調査のみを行う(新)五類感染症に分けることとなりました (表参照)。以下、追加された感染症および政令・省令により追加される予定の感染症について、感染対策の観点から述べます。 注:(2005年6月8日付記) その後予定どおり政令・省令が施行され、これらの感染症が追加されました。それま でに指定されていたものを含めた感染症予防法で指定された感染症のすべてについて は、「消毒薬テキスト」IV-8を参照ください。 表11 感染症予防法における感染症の分類
1.重症急性呼吸器症候群 重症急性呼吸器症候群 (Severe acute respiratory syndrome: SARS) は、コロナウイルス科の SARS-associated coronavirus(SARS関連コロナウイルス)を病因とする感染症であり、 非定型肺炎を特徴とします。2002年11月以降の中国、香港などでの流行を受けて、 2003年4月新感染症として通知され、同年7月指定感染症に指定されましたが、今回、 一類感染症へ追加されました。感染症例にはまず飛沫予防策と接触予防策を行い、 念のため空気予防策も行います。コロナウイルスはRNA型ウイルスでエンベロープを有し、 消毒薬抵抗性は比較的弱いと思われます。詳しくは Y's Letter No. 18を参照下さい。 2.痘そう 痘そう(天然痘、Smallpox)は、ポックスウイルス科オルトポックスウイルス属の Variola virus(Smallpox virus:天然痘ウイルス)を病因とする感染症で、全身に 広がる丘疹を特徴とし、伝播性が強く死亡率が高い感染症です。1979年10月に世界的な 根絶宣言が発表されましたが、バイオテロリズムに悪用される恐れへの警戒が必要であり、 一類感染症へ追加されました。 感染症例には空気予防策と接触予防策を行います。天然痘ウイルスはDNAウイルスで エンベロープを有し、消毒薬抵抗性は比較的弱いと思われます。 詳しくはY's Letter No. 13を参照下さい。 3.A型肝炎 A型肝炎はHepatitis A virus(A型肝炎ウイルス:HAV)を病因とする感染症であり、 HAVはピコルナウイルス科 ヘパトウイルス属のRNA型ウイルスでエンベロープを有しません。 急性ウイルス肝炎の一部として従来より(旧)四類感染症に分類されていましたが、少数ながら チンパンジーなど霊長類からヒトへの感染も報告されており2)、 (新)四類へ分類されました。A型肝炎は幼児において多くの場合無症候であり、成人において比較的重い 症状を呈する確率が高いと言われています。 潜伏期間は平均30日程度で、食欲不振、悪心、嘔吐、不快感、発熱、頭痛、腹痛などの 前駆症状の後、黄疸を発症し、疲労感が継続します。ほとんどの場合静養により数十日で自然治癒しますが、 劇症肝炎に発展することもあります。予防法としてはガンマグロブリン投与とワクチン接種があります3)。 HAVの主な感染経路は糞便−経口感染ですが血液感染も成立します。HAVは環境において長時間感染性を 保つため、もっぱら衛生的でない環境や生活様式において、糞便中に排泄されたHAVが直接・ 間接接触により伝播します。汚染された魚介類、生野菜、井戸水、排水などを介した伝播も報告されて おり、同性間性行為もリスク要因と言われています。また輸血や血液製剤による伝播、および注射針の 共用による薬剤常習者のウイルス血症が報告されています3)4)。 HAV感染症例の排泄物からの接触伝播による医療従事者や患者への病院感染が報告されています5)6)。 病院における糞便−経口ウイルス感染対策は、排泄物は感染性があるものとみなして日常的に行う 標準予防策が基本となります。 HAVはエンベロープを有しないウイルスであり、かつ親水性であるため、消毒薬に対する抵抗性がかなり強いと思われます。 HAVの高い不活化率を達成するには5,000ppm(0.5%)次亜塩素酸ナトリウムが必要であったとする報告も あります7)。水道水、クロルヘキシジン・トリクロサンなど抗菌成分含有石けん、アルコール製剤を用いた手洗いにおける HAVに関する研究では、減少率が80%(0.5ppm有効塩素水道水)、87%(70v/v%エタノール)、90%(4%クロルヘキシジンスクラブ)、92%(0.3%トリクロサン石けん)の 範囲にあり、手洗い方法や抗菌成分による大きな差は認められていません8)。 エンベロープを有しないウイルスによる経口−糞便感染に対する対策と消毒については、 Y's Letter No.21を参照下さい。 4.E型肝炎 E型肝炎はHepatitis E virus(E型肝炎ウイルス:HEV)を病因とする感染症です。急性ウイルス肝炎の 一部として従来より(旧)四類感染症に分類されていましたが、ブタからヒトへの感染も疑われており、 (新)四類へ分類されました。 HEVの主な感染経路は糞便−経口感染であり、排泄物は感染性があるものとみなして日常的に行う 標準予防策が基本となります。HEVは未分類のRNA型ウイルスでエンベロープを有さず、消毒薬抵抗性は 比較的強いと思われます。詳しくはY's Letter No.5を 参照下さい。 5.高病原性鳥インフルエンザ 高病原性鳥インフルエンザ(highly pathogenic avian influenza)は、病原性の高いエビアン インフルエンザウイルスによるトリの感染症であり、まれにヒトにも発生するため、 (新)四類へ追加されました。 A型インフルエンザウイルスにはH1〜15、N1〜9の亜型がありますが、このうちヒトに頻繁に 感染する亜型はA(H1N1)型、A(H2N2)型、A(H3N2)型などH1〜3、N1〜2であり、その他はトリに 感染するが通常ヒトには感染しない亜型で、それらをエビアンウイルスと呼びます 9)。 エビアンウイルスのヒトへの感染が明確に確認されたのは1996年の英国で、水鳥を飼育していた 女性の結膜炎からA(H7N7)型が検出されました10)。2003年には、オランダ、ベルギー、ドイツの 家禽にA(H7N7)型感染が流行し、養禽従事者とその家庭でA(H7N7)型による結膜炎が集団発生し、 ヒトからヒトへの伝播も発生しました。インフルエンザ様症状から重症肺炎になった死亡例も 1例報告されました。この流行を終息させるため3,000万羽の家禽が処分されました11)。 また、1997年には香港で呼吸器不全によって死亡した3歳の幼児からA(H5N1)型のエビアンインフル エンザウイルスが検出されました12)。さらに死亡者6人を 含む18人にA(H5N1)型ウイルス感染が確認されましたが、ヒトからヒトへの伝播は特に認められません でした。この流行を終息させるため150万羽の家禽が処分されました13)。 2003年には福建省を旅行した香港の家族にA(H5N1)型ウイルス感染が発生し、1例が死亡しました14)。 また1999年には同じ香港でA(H9N2)型のエビアンインフルエンザウイルスが2人の小児に感染しました15)。 このウイルスは前述のA(H5N1)型ウイルスと遺伝子的に類似することが判明しています16)。 エビアンインフルエンザが遺伝子交雑によりヒトへの感染力を強めた場合、 インフルエンザの大流行が発生する可能性があり世界的に警戒されています。 詳しくはY's Letter No. 9を参照ください。 感染症例には通常のインフルエンザと同様に飛沫予防策を行い、場合により接触予防策を追加します。 インフルエンザウイルスはエンベロープを有するウイルスであり、消毒薬抵抗性は比較的弱いと 思われます。A型インフルエンザウイルスに対して0.2%塩化ベンザルコニウム、0.2%塩化ベンゼト ニウム、0.5%クロルヘキシジンが10分以内に1,000分の1以下への減少率を示したとの報告があります 17)。 一般にエンベロープの有るウイルスに対して滅菌法、熱水消毒(80℃10分)、2%グルタラールなどに よる高水準消毒はもちろん、200-1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム、消毒用エタノール、70v/v%イソプロ パノール、ポビドンヨードなども有効です。塩化ベンザルコニウムなど低水準消毒薬や界面活性剤が 不活性化効果を示す場合もありますが、効果が明確に確認されていない場合もあります。したがって、 ノンクリティカル表面の消毒において、エンベロープの有るウイルスを対象とする場合には、 200-1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム、消毒用エタノール、70v/v%イソプロパノールを主に用います。 6.サル痘 サル痘(Monkeypox)は、天然痘ウイルスと同じポックスウイルス科オルトポックスウイルス属に 属するMonkeypox virusを病因とする感染症で、サルなど霊長類に発生しますが18)、1970年に コンゴでヒトにおける感染例が発見され19)、1996〜7年には同じくコンゴでヒトにおける大規模な 集団発生がありました20)。2003年に米国でガーナからの輸入動物に由来するヒトの集団感染が 発生したこともあり21)22)、(新)四類へ追加されました。 サル痘ウイルスに感染すると7〜17日の潜伏期間を経て、発熱、頭痛、背痛、倦怠感などを生じ、 天然痘と同様に丘疹や膿疱などを形成します。アフリカにおいて致死率は1〜10%と報告されており、 天然痘よりは低いとされています21)。 サル痘のヒトからヒトへの伝播は天然痘よりも緩慢ですが、感染症例との接触や飛沫によって 伝播すると思われます。また空気感染の可能性もあります。したがって、感染症例には接触 予防策および飛沫予防策を行い、場合により空気予防策を追加します23)。 サル痘ウイルスはエンベロープを有するウイルスであり、消毒薬抵抗性は比較的小さいと推測されます。 7.ニパウイルス感染症 ニパウイルス感染症はNipah virusによる感染症であり、1998年のマレーシアで発見されました。 Nipah virusはパラミクソウイルス科パラミクソウイルス亜科ヘニパウイルス属(Genus Henipavirus)の RNA型ウイルスでエンベロープを有します。ニパウイルスはオオコオモリ(flying foxes, fruit bats)を 自然宿主とし、ブタを経由してヒトに感染するため24)25)、 (新)四類へ追加されました。 ニパウイルスはヒトに感染した場合、4日〜2ヶ月の潜伏期間を経て、発熱、頭痛、眩暈、嘔吐を生じ、 急速に重度の脳炎に至り、高い死亡率をもたらします。 ニパウイルスは感染したブタの尿、唾液、咽頭・肺分泌物を吸い込んだブタに伝播し、 また養豚作業者などに伝播することがありますが、ヒトからヒトへの伝播はごくまれです。 感染症例には標準予防策を基本とします。ニパウイルスはエンベロープを有するウイルスであり、 消毒薬抵抗性は比較的小さいと推測されます。 ニパウイルスと同じヘニパウイルス属には1994年にオーストラリアで集団感染を起こした Hendra virus(以前はmorbillivirus)があります。Hendra virusはオオコオモリを自然宿主とし、 ウマを経由してヒトに感染します。また、オオコオモリに関連するウイルスとして、 Australian bat lyssavirus(後述)、Menangle virusなどがあります26)。 (Y's Letter No. 24につづく) | ||||||||||||||||||||||||
2003.11.05 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd. | ||||||||||||||||||||||||