| かぜ症候群の原因ウイルス Y's Letter No.34 Published online 2004.11.04 |
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はじめに かぜ症候群の原因にはウイルス、細菌、クラミジア(クラミドフィラ)、マイコプラズマなどがありますが、成人の場合その大部分はウイルスによるものと言われています。かぜ症候群の原因となるウイルスは多岐にわたりますが、インフルエンザウイルス以外には、ライノウイルス、コロナウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、などが代表的です。かぜ症候群は典型的には軽度の市井(市中)感染症ですが、病院感染によるかぜ症候群の集団発生も報告されており、小児、老人、易感染患者などにおいて重大な事態をもたらすこともあります。今回はかぜ症候群の原因となるウイルスについて、病院感染対策の観点から述べます。 なお、インフルエンザ、トリインフルエンザ、重症急性呼吸器症候群(SARS)については、それぞれY's Letter No.9、Y's Letter No.27、Y's Letter No.18を参照ください。 Rhinovirus Rhinovirus(ライノウイルス)はピコルナウイルス科、ライノウイルス属に属するRNA型ウイルスの総称で、エンベロープを有しません。いわゆる鼻かぜ、つまり軽度のかぜ症候群、上気道感染の最も頻繁な原因ウイルスですが、喘息の悪化をもたらすことがあり、また幼児、高齢者、免疫不全患者に下気道疾病をもたらすこともあります。年間を通じて見られますが秋から春にかけて多く発生します。ライノウイルスには100を超える血清型があるため、ヒトは再感染を繰り返します1)2)3)。ライノウイルスは感染症例の鼻汁から検出され、もっぱら直接・間接に汚染された手指で鼻や眼に触れることにより接触感染すると言われますが、長時間近接した場合には接触が無くとも感染伝播が成立すると言われています4)。医療従事者が持ち込んだと思われるライノウイルスによる、新生児ICUでの病院感染集団発生も報告されています5)。感染症例に対しては標準予防策を基本としますが、小児においては接触予防策を考慮します6)。 Coronavirus Coronavirus(コロナウイルス)はコロナウイルス科に属するRNA型ウイルスの総称で、エンベロープを有します。ライノウイルスと共にいわゆる鼻かぜ、つまり軽度のかぜ症候群、上気道感染の主な原因ウイルスですが、幼児において下気道感染をもたらす場合もあります。年間を通じてみられますが、冬季に多く発生します。ヒトの糞便からも検出され、ヒトは再感染を繰り返します1)2)。小児・新生児ICUに入院した新生児の11%がコロナウイルスに病院内で感染したとする報告もあります7)。感染症例に対しては標準予防策を基本としますが、小児においては接触予防策を考慮します6)。なおSARSの原因ウイルスであるSARS-associated coronavirus(SARS関連コロナウイルス)もコロナウイルス科に属します。 Respiratory syncytial virusとParainfluenza virus Respiratory syncytial virus(RSウイルス)とParainfluenza virus(パラインフルエンザウイルス)はパラミクソウイルス科のRNA型ウイルスでエンベロープを有します。RSウイルスはニューモウイルス亜科、パラインフルエンザウイルスはパラインフルエンザウイルス亜科に分類されます。RSウイルスとパラインフルエンザウイルスは、どちらも市井における主なかぜ症候群の原因の一部として流行しており、また呼吸器感染症による入院の主な原因微生物でもあります1)2)8)。 RSウイルスは成人において通常軽度の上気道感染、かぜ症候群をもたらしますが、高齢者においては重症となる傾向があり、主に小児、特に乳児においてはしばしば細気管支炎、肺炎、気管気管支炎をもたらし時に死因ともなるため、重大な呼吸器系ウイルスのひとつと言えます。さらに慢性肺疾患患者や移植後の免疫不全患者においては高い死亡率と関連しています。パラインフルエンザウイルスはRSウイルスほど重症化する頻度が高くありませんが、同様の呼吸器系疾患をもたらし、クループ症状をもたらす場合もあります1)2)8)。 RSウイルスは主に冬季に流行し、パラインフルエンザウイルスはほぼ年間を通じて見られますが冬季に多発します。多くのヒトが既に乳児の時にこれらのウイルスの初感染を経験していると言われますが、感染しても十分な免疫が成立しないため、成人になっても再感染を繰り返します。またそのことによりワクチンの開発も困難となっています1)2)8)。 小児病棟などにおけるRSウイルスの病院感染が古くから問題となっています9)。ことに未熟児・新生児〜乳幼児期にかけてのRSウイルスによる細気管支炎は重篤化しやすくなります。特定のハイリスクグループの患児に関しては、RSウイルスによる呼吸器感染症の予防のために、RSウイルスのF蛋白に結合するモノクロナール抗体製剤であるパリビズマブ(商品名:シナジス)が処方される場合があります10)。RSウイルスとパラインフルエンザウイルスは頻繁に接触感染することに注意が必要です。感染症例の鼻汁に含まれたこれらのウイルスは、感染症例の皮膚や衣服、おもちゃなどの物品や器具、それらに接触した手指においても感染性を保ち、それが眼や鼻に触れることで伝播すると言われています。鼻汁を含む飛沫が直接眼や鼻に入る場合もあると思われますが、経口感染はまれと言われています。伝播したこれらのウイルスは鼻咽頭上皮で複製し、さらに気道へ広がり呼吸器感染症を成立させます8)11)。したがって小児や易感染患者において接触予防策を行うことが必要です6)。また飛沫予防策も考慮します12)。グローブ・ガウンの着用、手洗い、集団隔離によりRSウイルスによる病院感染の発生率が低下したという報告があります13)14)15)。 Human metapneumovirus Human metapneumovirus(ヒトメタニューモウイルス)は2001年に小児や成人に急性呼吸器感染症を起こす新しいパラミクソウイルス科のRNAウイルスとして報告されました16)。中耳炎、咽頭炎、クループ、細気管支炎、喘息様気管支炎、肺炎などを引き起こすことが知られています。早期診断を実施するための検査体制の確立が望まれます。 Adenovirus Adenovirusはアデノウイルス科に属するDNA型ウイルスの総称で、エンベロープを有しません。ヒトに感染するアデノウイルスにおいては血清型により49種類が知られており、呼吸器、消化器、眼などでさまざまな感染症を起因しますが、3、4、7型などは主に冬季に乳幼児に急性上気道疾患と肺炎を起因します。また1、2、5型などは主に乳幼児において急性熱性咽頭炎などを起因し、3、7型などは主に学童に咽頭結膜熱(プール熱)を起因します。一般にアデノウイルスは飛沫、接触により上気道や眼に伝播し感染を成立させます。その一部は嚥下され小腸でも増殖します。気道分泌物、眼分泌物、糞便中にもアデノウイルスが排出され、それらによりヒトからヒトへ伝播します1)2)。 アデノウイルスは病院感染としての呼吸器感染の主な原因ウイルスのひとつです17)。アデノウイルスによる小児感染症例においては飛沫予防策と接触予防策を行います6)。 CoxsackievirusとEchovirus Enterovirus(エンテロウイルス)はピコルナウイルス科エンテロウイルス属に属するRNA型ウイルスの総称で、エンベロープを有しません。一般にエンテロウイルスは多くの場合経口感染し、咽頭や腸管で増殖して、非特異的に発熱、気道感染、消化器感染を起因しますが、血清型により急性灰白髄炎、手足口病、結膜炎などさまざまな特異的な疾患をもたらします。夏かぜなどの気道感染を起因するエンテロウイルスの代表としてCoxsackievirus(コクサッキーウイルス)とEchovirus(エコーウイルス)を挙げることができます1)2)18)。感染症例には標準予防策を基本としますが、小児の場合には接触予防策を考慮します6)。 病院感染予防策 以上のように、かぜ症候群の原因となるウイルスの伝播経路は接触伝播である場合が多く、標準予防策が基本となりますが、小児症例の場合には接触予防策を行うことが勧告されています6)。特にRSウイルスの場合には、積極的に接触予防策を行うことが勧告されています12)。一方、アデノウイルス、RSウイルスの場合には飛沫予防策も考慮する必要があり、インフルエンザである場合には飛沫予防策こそが重要な予防策となります6)12)。 かぜ症候群の流行時は、医療機関が混雑し繁忙となる場合が多く、医療従事者自身がかぜ症候群に罹りつつ勤務するケースも増加すると思われ、医療従事者が患者に対する感染源となる可能性も高まると推測されます。インフルエンザウイルスまたはRSウイルスが流行している時期には、それらに感染した疑いのある症状を呈する医療従事者はハイリスク患者のケア業務から一時外れることを考慮するようにとの勧告もあります19)。インフルエンザとRSウイルス感染症は感染症予防法における5類感染症の定点把握に指定されています。 消毒薬感受性 RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、コロナウイルスはエンベロープの有るウイルスであり、消毒薬に対する抵抗性はあまり強くないと思われます。ノンクリティカル表面の消毒において、これらのウイルスを特に対象とする場合には、200-1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム、消毒用エタノール、70v/v%イソプロパノールを用います20)21)22)。 RSウイルスに対してクロルヘキシジンスクラブが効果を示すが、クロルヘキシジン水溶液は効果が不十分であったとする報告もあります23)。コロナウイルスに対して塩化ベンザルコニウムが効果を示すとの報告もあります24)25)。 ライノウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルスはエンベロープの無いウイルスであり、消毒薬に対する抵抗性が強いと思われます。一般にノンクリティカル表面におけるエンベロープの無いウイルスの消毒は、熱水(98℃15〜20分、多くの場合は80℃での10分洗浄でも可)によるか、念入りな洗浄、清拭により物理的にウイルスを除去した上で、仕上げとして500-1,000ppm(特別な場合には5,000ppm)次亜塩素酸ナトリウム液、場合によりアルコールを用います。エンベロープの無いウイルスを念頭に置いた手洗いは、流水による手洗いでウイルスを物理的に除去することが基本であり、速乾性手指消毒薬またはポビドンヨードスクラブを補完として用います20)21)22)。 ライノウイルスとコクサッキーウイルスに対して、低濃度のポビドンヨードは効果を示すが高濃度のポビドンヨードはあまり良好な効果を示さないことを示唆する報告があります26)。一方、2%ヨード水溶液(4%ヨウ化カリウム配合)を手指に適用することによりライノウイルスの伝播を減少させたという報告もあります27)。また、コクサッキーウイルスとエコーウイルスに対して、消毒用エタノールとイソプロパノールが効果を示すには、いずれも長時間の接触を必要とすることを示唆する報告があります28)29)。 アデノウイルスもエンベロープの無いウイルスで消毒薬抵抗性が強いと思われますが、若干親油性であるため親水性であるライノウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルスよりも抵抗性が弱いと推測されます。200ppm次亜塩素酸ナトリウム20)、1〜5%ポビドンヨード26)、消毒用エタノール、70v/v%イソプロパノールなどが効果を示すと報告されています28)29)。 おわりに かぜ症候群様の症状を訴える症例を医療機関が受け入れる時点では、また入院患者がかぜ症候群様の症状を発症した時点においては、原因微生物が判明していない場合が多く、インフルエンザなどである可能性を考慮しなければなりません。したがって実際には多くの場合、かぜ症候群様の症状を呈する症例には、接触伝播する呼吸器感染症と飛沫伝播する呼吸器感染症の両方の可能性について注意を払う必要があると思われます。米国の疾病管理予防センター(CDC)は、医療機関を訪れるすべての患者に対して、かぜの兆候のある場合はすぐにスタッフへ申し出ること、咳やくしゃみをする場合にはティッシュで口と鼻を覆うこと、手洗いを行うことを啓発しています30)。 また、ライノウイルスなどエンベロープの無い親水性ウイルスは、比較的軽度のかぜ症候群しかもたらさない場合が多いと思われますが、アルコールなどの消毒薬に対する抵抗性が強いため、手指を介した伝播を効果的に遮断するためには、アルコールベースの速乾性手指消毒薬のみに頼るのではなく、流水による手洗いで物理的にウイルスを洗い流すことが基本となります。 <参考> 1)山西弘一、平松啓一編. 標準微生物学,第8版. 医学書院,東京,2002 2)吉田眞一,柳雄介編. 戸田新細菌学,改訂32版. 南山堂,東京,2002. 3)Monto AS: Epidemiology of viral respiratory infections. Am J Med 2002;112 Suppl 6A:4S-12S. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi? cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=11955454&dopt=Abstract 4)Greenberg SB: Viral respiratory infections in elderly patients and patients with chronic obstructive pulmonary disease. Am J Med 2002;112 Suppl 6A:28S-32S. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi? cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=11955457&dopt=Abstract 5)Valenti WM, Clarke TA, Hall CB, Menegus MA, Shapiro DL: Concurrent outbreaks of rhinovirus and respiratory syncytial virus in an intensive care nursery: epidemiology and associated risk factors. J Pediatr 1982;100:722-726. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi? cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=6279812&dopt=Abstract 6)向野賢治訳, 小林寛伊監訳. 病院における隔離予防策のためのCDC最新ガイドライン. メディカ出版,大阪,1996. http://www.yoshida-pharm.com/information/guideline_kaigai/cdc/guideline/iso.html 7)Gagneur A, Sizun J, Vallet S, Legr MC, Picard B, Talbot PJ: Coronavirus-related nosocomial viral respiratory infections in a neonatal and paediatric intensive care unit: a prospective study. J Hosp Infect 2002 ;51:59-64. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi? cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=12009822&dopt=Abstract 8)Hall CB: Respiratory Syncytial Virus and Parainfluenza Virus. N Engl J Med 2001; 344:1917-1928. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi? cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=11419430&dopt=Abstract 9)Hall CB, Douglas RG Jr, Geiman JM, Messner MK: Nosocomial respiratory syncytial virus infections. 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