| 感染対策における手袋 Y's Letter Vol.2 No.8 Published online 2006.01.11 |
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はじめに 手指衛生の励行と同様に、手袋の着用は、病院感染対策を行う上で最も重要な事項のひとつです。たとえ適切な手指衛生(手洗いまたはラビング法)を実施し、手指衛生の遵守率を向上させても、適切な手袋の着脱を行わなければ、病院感染のリスクを低下させたとは言えません。適切な手袋の着脱について、CDC(Centers for Disease Control and Prevention)のガイドラインを参照しつつ述べます。 手袋着用の理由 手袋の着用の遵守率を上げるためには、まずなぜ手袋をしなければならないかという理由を理解することが必要です。手袋着用の理由についてCDC「隔離予防策のためのガイドライン」1)2)は、1)血液、体液、分泌物、排泄物、粘膜、傷のある皮膚に触れるときの防御であり、手が広範囲に汚染されるのを防止するため、2)侵襲的手技や、粘膜・傷のある皮膚に接触する患者のケアをしているときに職員の手についている微生物が患者に伝播するリスクを減らすため、3)患者や媒介物からの微生物で汚染された職員の手がこれらの病原体を他の患者へ伝播するリスクを減らすため、と述べています。 これらを裏付けするものとして、手袋が手の汚染を防止するということについては、手袋をして患者に接触した医療従事者は患者ケア1分間当たり3cfu(colony forming unit)しか手を汚染させなかったが、手袋を着用していなかった場合には1分間あたり16cfuであったという報告があります3)。病原体の伝播の防止については、手袋を着用するよう6ヶ月間介入を行ったところ、Clostridium difficileによる下痢の発生が手袋着用の介入前は7.7例/1000患者であったのが、手袋を着用するよう介入した後は1.5例/1000患者に減少したという報告があります4)。 手袋着用の場面 どのような場面にて手袋を着用し、はずすべきなのかについても理解が必要です(表)。CDCガイドライン1)2)は、以下の場合に手袋を着用するよう勧告しています。標準予防策においては、血液、体液、分泌物、排泄物や患者の創傷、粘膜などに接触する場合に手袋を着用し、処置後手袋を取った後、手指衛生を行います。血液などが飛散する恐れのある場合にはガウンやマスクも着用します。侵襲的な処置を行う場合には、手袋を着用する前に手指衛生を行い、手袋を着用します。中心静脈カテーテルの挿入や手術的処置など無菌的操作が必要な場合には滅菌手袋を用います。 表:手袋着用の場面
接触予防策においては、病室に入る時、あるいは少なくとも患者の皮膚に直接または汚染の疑われる周囲に接触する場合に、手袋を着用し、処置後手袋を取ったあと手指衛生を行います。患者と濃密に接触する場合などにはガウンを着用します。入室時の手袋着用については、問診のみを行う場合など潜在的に汚染された範囲に手を触れない場合には省略することもできます。具体的に患者周辺のどのような範囲に接触するとき必ず手袋を着用しなければならないのかについては、感染症例の排菌状況により判断が異なると思われます。 手袋着脱前後の手指衛生 手袋を適切に着脱できたとしても、その後に手指衛生を行わなければ病原体伝播のリスクを十分に減少させたとは言えません。CDCガイドラインは1)2)、手袋をはずした後に必ず、手指衛生を行うことを勧告しています。手袋をしていたからという理由で手指衛生を省略することはできません。手袋をはずした後に手指衛生を行うのは、手袋をはずす操作により手が汚染されるからです。VRE(vancomycin-resistant enterococci)保菌患者を、手袋を着用してケアした医療従事者のうち、約29%の人において手袋をはずした後の手にVREが付着していたという報告があります5)。また、処置中にピンホールが生じる可能性があり、ピンホールを通して手指が汚染されている可能性もあります。 なお、侵襲的な処置において、手袋を着用する前に手指衛生を行うのは、手袋を着用する操作により手袋が汚染される可能性があるからです。 手袋の再利用について 使用した手袋は、処置後ただちにはずして廃棄し、次の患者の処置の前には新しい手袋を着用しなければなりません。処置後手袋を着用したまま、手袋の上から手指衛生を行い、次の処置をすることは不適切とされています。それは手袋の使用後、手袋の上から手指衛生を行っても、手袋に付着した微生物は十分に除去することができないからです。手袋をした手の上に微生物を10の7乗cfu塗布し、手袋をしたまま手洗いを行ったところ、10の2.1 〜3.9乗cfuの微生物が手袋から検出されたと報告されています6)。 また、使用後の手袋にはピンホールが生じている可能性があります。使用後の手袋において、ビニール手袋で4.1%、ラテックス手袋で2.7%に目に見えるピンホールが生じていたと報告されています7)。 以上の理由からCDC「手指衛生のためのガイドライン」は手袋の再利用を禁止するよう述べています8)9)。 おわりに いつどのような場面にて手袋を着脱し、いつ手指衛生を行うべきか、それを適切に理解して実践することは、病院感染のリスクを減少する上で重要な事項です。 <参考> 1)Garner JS, HICPAC: Guideline for isolation precautions in hospitals. Infect Control Hosp Epidemiol 1996;17:53-80. http://www.cdc.gov/ncidod/dhqp/gl_isolation.html 2)向野賢治訳,小林寛伊監訳 : 病院における隔離予防策のためのCDC最新ガイドライン. メディカ出版,大阪,1996. 3)Pittet D, Dharan S, Touveneau S, et al.: Bacterial contamination of the hands of hospital staff during routine patient care. Arch Intern Med 1999;159:821-826. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi? cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=10219927 &query_hl=15&itool=pubmed_docsum 4)Johnson S, Gerding DN, Olson MM, et al.: Prospective, controlled study of vinyl glove use to interrupt Clostridium difficile nosocomial transmission. Am J Med 1990;88:137-140. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi? cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=2301439 &query_hl=23&itool=pubmed_docsum 5)Tenorio AR, Badri SM, Sahgal NB, et al.: Effectiveness of gloves in theprevention of hand carriage of vancomycin-resistant Enterococcus species by health care workers after patient care. Clin Infect Dis 2001;32:826-829. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi? cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=11229854 &query_hl=24&itool=pubmed_docsum 6)Doebbeling BN, Pfaller MA, Houston AK,et al.: Removal of nosocomial pathogens from the contaminated glove. Implications for glove reuse and handwashing. Ann Intern Med. 1988 Sep 1;109(5):394-398. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi? cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=3136685 &query_hl=1&itool=pubmed_docsum 7)Korniewicz DM, Laughon BE, Butz A, Larson E. Integrity of vinyl and latex procedures gloves. Nurs Res 1989;38:144-146. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi? cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=2654892 &query_hl=8&itool=pubmed_DocSum 8)Boyce JM, Pittet D, et al.: Guideline for Hand Hygiene in Health-Care Settings. MMWR 2002;51(RR-16):1-45. http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5116.pdf 9)大久保憲訳,小林寛伊監訳. 医療現場における手指衛生のためのCDCガイドライン. メディカ出版,大阪,2003. 10)小林寛伊,大久保憲,吉田俊介. 病院感染対策のポイント. 協和企画,東京,2002. http://www.yoshida-pharm.com/point/index.html | ||||||
2006.01.11 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd. | ||||||