| 麻疹について Y's Letter Vol.2 No.33 Published online 2008.03.27 |
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はじめに 麻疹はかつて多くの人が小児のうちに感染し免疫を得ていましたが、2007年に10〜20代を中心とした若者で流行し、全国で大学や高校の休校が相次ぎました。2008年においても神奈川県などで10代を中心に感染例が報告されており、国立感染症研究所は「昨年を上回る規模の流行が、春以降に全国レベルで発生する恐れがある」と警戒しています。 以下、麻疹について述べます。 麻疹とは 麻疹(はしか)は麻疹ウイルス(Measles virusまたはRubeola virus)を病因とする感染症です。麻疹ウイルスはパラミクソウイルス科モリビルウイルス属に属するRNA型ウイルスで、エンベロープを有します。自然界ではヒトを唯一の宿主とし、1歳代で感染することが最も多く、通常春から夏にかけて流行します。麻疹の潜伏期間は10日〜12日間で、その後前駆期(カタル期)として38度前後の熱、咳嗽、鼻漏、くしゃみなどの上気道症状と結膜炎症状を2〜4日間発症し、カタル期後2〜4日で発疹が顔面、体幹部、四肢に出現し、前後して高熱も再発します。発疹出現前後の口腔内には白色小斑点(Koplik斑)がみられます。発疹出現後4日で解熱し回復します1)2)。 麻疹は小児において多くの場合、軽症ですが、細菌性肺炎や脳炎などの合併症などを引き起こし死因となることもあり、成人や移植患者が麻疹に罹患した場合には重症化する傾向があります。麻疹に一度罹患すると終生免疫を獲得しますが、ごくまれに持続感染し、遅発性感染症として亜急性硬化性全脳炎をもたらすこともあります1)2)。 麻疹ウイルスは伝播力がきわめて強く、ヒトからヒトへ飛沫感染および空気感染し、病院内における伝播も数多く報告されています。また発症率も高く、抗体陰性のヒトが曝露を受けるとほぼ100%発症します。麻疹ウイルスはカタル期において涙液、唾液中に大量に排出され、主にこれらの飛沫が気道粘膜へ達することにより伝播が成立すると考えられますが、空気感染もしばしば報告されています3)4)。 予防接種について 麻疹は一度罹患した場合には終生免疫を得ると考えられていますが、近年麻疹の流行が減少した事から麻疹ウイルスに曝露する機会が減り、自然感染によるブースター効果が得られなくなり、過去に麻疹に感染した人または一度ワクチンを接種した人においても抗体価が低下する可能性が指摘されています。麻疹ワクチンの接種はかつて1989年〜1993年にMMR(麻疹・ムンプス・風疹)ワクチン接種として制度化されていましたが、一旦中断され、その後麻疹対策として再び2006年4月1日にMR(麻疹・風疹)ワクチンの定期予防接種が開始されました。またワクチンは1回接種より2回接種した方が高い抗体価が持続することが報告されており5)6)7) 、加えてワクチンを接種しそびれた者にもう一度接種する機会を与えるために2006年6月2日より定期予防接種は2回接種(1歳児および小学校入学前1年間の小児)に変更されました。さらに2012年の国内麻疹排除を目的として2008年4月1日から5年間に限り、中学1年生および高校3年生を対象とした追加予防接種が実施さています。 病院感染対策3)8)9)10)11) 医療機関内で麻疹患者が発生した場合には麻疹の抗体陽性が確認されている者または麻疹ワクチンの2回接種が確認されている者以外の接触を禁止します。また麻疹患者との接触歴の調査を実施し、麻疹ウイルスに感受性のある接触者がいることが判明した場合には、ワクチンの接種などの発症予防策を検討します。麻疹患者と接触後3日以内であれば緊急ワクチン接種によって発症を予防できる可能性があります。また接触後3日を既に過ぎた場合には6日以内であれば免疫グロブリン製剤の投与によって発症を予防できる可能性があります。 病院感染対策は空気予防策またはそれに準じた対策を行います。陰圧管理された個室に隔離を行い、陰圧管理された病室がない場合には通常の個室に隔離し、扉を常に閉じ、窓を開放しておきます。個室に入室する医療従事者や面会者はN95マスクを着用します。患者が室外に出る場合は外科用マスクなどろ過効率の高いマスクを着用させます。麻疹の感染症例が妊婦、新生児、白血病患者、移植患者、HIV感染者などハイリスク者と同室しないよう注意を払うことは特に重要と思われます。 麻疹は発疹などの特異的な症状を呈する前のカタル期に強い感染力があります。カタル期では風邪などの症状との区別がつき難く、麻疹と診断されたときには、既に周囲にウイルスを拡散している可能性が高いため、適切な麻疹対策が講じることが困難です。そのためワクチンの接種が最大の予防策になります。 医療従事者が麻疹に罹患すると自らが感染源となり病院感染を引き起こす可能性があります。したがって医療施設内のすべての職員および実習生の麻疹罹患歴と麻疹含有ワクチンの接種歴を確実に把握し、必要に応じてワクチンの接種を考慮することが肝要です。なお、麻疹ワクチンは弱毒生ワクチンのため、妊婦や免疫不全者への接種は禁忌になっています。 麻疹ウイルスの消毒薬感受性についてはY's Letter No.26 「水痘と麻疹」をご参照下さい。 おわりに 麻疹は先進国において根絶されつつありますが、日本では現在も散発的な流行がみられ、国外へ持ち出しする例もみられます。米国で開催された国際スポーツイベント期間中に日本から参加した男児が麻疹を発症し、米国内で数人に伝播した例があり12)、日本は麻疹の輸出国であると指摘されています。 現在、世界的に麻疹対策が推進されており、日本を含めたWHO西太平洋地域では2012年までに麻疹の排除を目標としています。 麻疹はこれまで感染症予防法における5類感染症定点把握でしたが、2008年1月1日から麻疹と風疹が全数把握疾患に変更され、全ての医療機関において、麻疹と風疹を診断した場合は、7日以内に届け出が必要になります。なお麻疹については、可能な限り24時間以内に届け出ることが求められています。 <参考文献> 1)吉田眞一、柳雄介編: 戸田新細菌学,改訂32版. 南山堂,東京,2002. 2)Stalkup JR: A review of measles virus. Dermatol Clin 2002;20:209-215. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12120435? ordinalpos=3&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed. Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum 3)Biellik RJ, Clements CJ: Strategies for minimizing nosocomial measles transmission. Bull World Health Organ 1997;75:367-375. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9342896? ordinalpos=2&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed. Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum 4)Atkinson WL, Markowitz LE, Adams NC: Transmission of measles in medical settings--United States, 1985-1989. Am J Med 1991;91(3B):320S-324S. hhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1928187? ordinalpos=7&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed. Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum 5)Vandermeulen C, Mathieu R, Geert LR, et al: Long-term persistence of antibodies after one or two doses of MMR-vaccine. Vaccine. 2007;25:6672-6676. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17692439? ordinalpos=2&itool=EntrezSystem2.PEntrez. Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum 6)LeBaron CW, Beeler J, Sullivan BJ, et al: Persistence of measles antibodies after 2 doses of measles vaccine in a postelimination environment. Arch Pediatr Adolesc Med 2007;161:294-301. http://archpedi.ama-assn.org/cgi/reprint/161/3/294 7)Vesikari T, Baer M, Willems P.: Immunogenicity and safety of a second dose of measles-mumps-rubella-varicella vaccine in healthy children aged 5 to 6 years. Pediatr Infect Dis J 2007;26:153-158. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17259879? ordinalpos=3&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed. Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum 8)CDC: Guideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings 2007. http://www.cdc.gov/ncidod/dhqp/pdf/guidelines/Isolation2007.pdf 9)小林ェ伊、吉倉廣、荒川宜親編集.: エビデンスに基づいた感染制御(改訂2版)−第1集−基礎編. メヂカルフレンド社,東京,2003. http://www.yoshida-pharm.com/information/ guideline_japan/guideline/evidence.html 10)国立感染症研究所感染症情報センター麻疹対策チーム: 医療機関での麻疹対応ガイドライン(第二版). 平成20年1月23日. http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/hosp-ver2.pdf 11)厚生労働省: 麻しんに関する特定感染症予防指針. 平成19年12月28日. http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/ kekkaku-kansenshou21/dl/071218a.pdf 12)CDC: Multistate measles outbreak associated with an international youth sporting event--Pennsylvania, Michigan, and Texas, August-September 2007. MMWR 2008;57:169-173. 3 http://www.cdc.gov/mmwr/preview/ mmwrhtml/mm5707a1.htm | |||
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