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III 消毒対象物による消毒薬の選択
1.生体
1)患者
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(2)血管カテーテル挿入部位の皮膚5〜9)
病院感染である血流感染の多くは血管カテーテルに関連している。特に中心静脈カテーテル(CVC)に関連した血流感染、また、小児の血管カテーテルに関連した血流感染の発生率は高率であり、重大な病院感染のひとつとして対策を講じる必要がある。
[1] 血管カテーテル関連感染起因菌の侵入経路
血管カテーテルに関連した感染の起因菌侵入経路には以下の3つが考えられる。
◆血管カテーテル挿入部位からの侵入
血管カテーテル挿入部位の皮膚に存在する常在菌や医療従事者の手指などから伝播した通過菌が、血管カテーテルの外壁を伝わって血管内に侵入する経路であり、最も重要な侵入経路である。この経路を遮断するためには消毒薬の適用を含むカテーテル挿入部位のケアが重要である。このケアの方法に関しては、後に述べる。
◆ルート接合部からの侵入
輸液と血管カテーテルを結ぶルートには、輸液ボトルゴム栓への針挿入部、三方活栓、ハブなどさまざまな接合部がある。これらの接合部が医療従事者の手指などにより微生物汚染を受けて、輸液ルート内に微生物が侵入する場合もあるので、医療従事者によるルート操作前の衛生的手洗い、接合部の無菌的操作法を徹底する必要がある。また、接合部の消毒も重要であるが、この目的で実際に用いられている消毒薬としては、10%ポビドンヨード液、0.5%クロルヘキシジンエタノール液、消毒用エタノール、70%イソプロパノールなどを挙げることができるが、日本における勧告は消毒用エタノールまたは70%イソプロパノールの使用を薦めている7)。アルコールは速乾性であり残留薬物がないため、操作性、安全性の面からも望ましい。
◆輸液自体の汚染
市販の輸液は無菌であることが保証されているが、病院内におけるさまざまな混注操作を経て、輸液自身が微生物汚染を受けることがある。輸液の混注操作は薬剤部により無菌的に行うことが望ましい。ルート維持のためにヘパリンロックを行う場合には、同一容器のヘパリン生食を多数回、多数の患者に使用することは、集団感染の原因となるため避けるべきである。一般に注射剤は単回使用を原則とし、やむなく多数回使用する場合には厳密な無菌操作法を遵守しなければ感染事故発生の危険性が高いことに十分注意するべきである。なお、あらかじめ単回使用分が注射筒に充填されたプレフィルドタイプの市販品を使用すると安全である。
[2] 血管カテーテル挿入部位の消毒
血管カテーテルの挿入は、末梢血管への挿入であっても、通常の注射等に比べて侵襲性が高く、侵襲期間も長いため、挿入部位の念入りな消毒を行うことが肝要である。特に、中心静脈カテーテルの挿入時には手術部位の消毒に準じた消毒を挿入部位に行う必要があり、また、挿入操作前に厳重な手洗いを行い、滅菌手袋を着用の上、滅菌ガウン着用などのマキシマムバリアプリコーションを行い、なるべくクリーンな環境において挿入することが望ましい。
挿入部位の消毒に用いる消毒薬として日本で繁用されているのは、10%ポビドンヨード液であるが、日本における勧告はクロルヘキシジンアルコール、70%イソプロパノール、消毒用エタノール、10%ポビドンヨード液、またはヨードチンキの使用を薦めている7)。
欧米における臨床試験に基づき、ポビドンヨードによる消毒よりも、クロルヘキシジンによる消毒の方が効果が高いことを示すメタアナリシスが報告されている10)。CDC「血管カテーテル関連感染の予防のためのガイドライン(2002年)」5,6)は、70%イソプロパノール、10%ポビドンヨード液よりも2%クロルヘキシジン液を適用した場合の方が感染率が低いとする報告11)、成人においては0.5%クロルヘキシジンアルコール液と10%ポビドンヨード液の間に特に感染率に差がないとする報告12)、小児において10%ポビドンヨード液よりも、0.5%クロルヘキシジンアルコール液を適用した場合の方がカテーテル菌陽性率が低いとする報告13)を参照し、挿入部位に適用する消毒薬として、2%クロルヘキシジン製剤を推薦した上で、ヨードチンキ、ポビドンヨード、70%アルコールを用いても良いとしている。
平素無害であるコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)などの皮膚常在菌も、本来無菌である血管内に侵入すれば感染を起因することとなる。血管内カテーテルの挿入部位は、血管内が皮膚表面と長時間カテーテルによって通じている部分であるため、皮膚常在菌も可能な限り、かつ、持続的に減少させておくことが感染率の低下をもたらすと考えられる。このような意味で、ポビドンヨードよりもクロルヘキシジンのほうが効果が高い場合のあることが、これらの臨床試験結果により示唆されている。ただし、日本においては2%クロルヘキシジンを手指以外の皮膚に適用することは認可されておらず、またクロルヘキシジンエタノール液を内頸静脈穿刺部位に用いてアナフィラキシーショックが発現した例が国内で報告されているので14)、クロルヘキシジンの適用時には濃度と副作用に注意が必要である。また、ヨードチンキは皮膚刺激をもたらす場合がある。
一方、英国のPHLS(Public Health Laboratory Service)の1997年暫定ガイドライン8,9)では挿入部位の消毒法として、「もし目視的にすでに清潔でなければ、石けんと水で、または滅菌生理食塩水かセトリミド(洗浄剤の一種)を含ませたガーゼによる清拭で洗浄するべきである。カテーテルを挿入する前に、少なくとも濃度70w/w%のアルコール(エタノール、工業用メタノール添加アルコール液、イソプロパノール)を基剤とするクロルヘキシジンまたはポビドンヨードで、綿球よりもガーゼを用いて、皮膚を前処置するべきである。その後、塗布部位が乾くまで、挿入処置を始めてはならない。生体消毒薬が作用する十分な時間を取るためである。」と述べている。英国の2001年ガイドラインも同様の勧告をしている15)。皮膚の前処置に消毒薬のアルコール溶液を用いることは、持続的な効果とともに、アルコールの速効的な殺菌力や皮膚への浸透による常在菌の減少を期待できるという意味で妥当な選択であると思われる。なお、消毒薬を適用する前にアセトンを用いて皮膚を脱脂することはかえって皮膚を刺激し感染率を高める恐れがある16)。
[3] 血管内留置カテーテル挿入部位の管理
カテーテル挿入期間中における挿入部位の管理にはさまざまな方法があるが、何が最善の方法であるかについては未だ不明の部分が多い。挿入部位を保護するドレッシング材には滅菌ガーゼや透明フィルムを用いる。透明フィルムは挿入部位が継続的に容易に観察できる点でメリットがあるが、発汗が多い場合にはフィルムと皮膚の間に水分が貯留することになり、かえって細菌量を増やす場合もある。また、透明フィルムにポビドンヨードを含有させたものが市販されているが、ガーゼを用いた場合、透明フィルムを用いた場合、ポビドンヨード含有の透明フィルムを用いた場合の菌陽性率を比較して差がなかったという報告があり17)、これらドレッシング材の選択によって感染率が変化するという確たる証拠はない。また、ドレッシング材は週に1回程度から、毎日交換する場合まであるが、頻繁に交換することが感染率を低下させると立証されているわけではない。通常は、末梢静脈カテーテルは72〜96時間で交換すべきであるが、中心静脈カテーテルでは、留置期間と感染率には特別な関連はない。ただし、ドレッシング材が湿った場合には交換をするべきである。
カテーテル挿入後のケアとして、カテーテル挿入部位にポビドンヨードゲルなどの消毒薬軟膏を適用する場合があり、ムピロシン軟膏などの抗菌薬軟膏を適用した報告例もみられるが、必ずしもこれらによって感染率が低下するとは限らない。前述のCDCガイドラインは5, 6)、末梢静脈カテーテルにおいて漫然と規則的に消毒薬軟膏や抗菌薬軟膏を適用するべきでないとしている。また中心静脈カテーテルにおいても、抗菌薬軟膏の適用によって感染率が低下しない場合があり、真菌増殖や耐性菌発生の可能性があるため、漫然と規則的に抗菌薬軟膏を適用するべきでないとしている。ただし血液透析カテーテルの場合には、ポビドンヨードゲルによる感染率低下効果についてエビデンスがあり、挿入後と透析終了時に動脈側穿刺部位に適用することが推奨されている。なお中心静脈カテーテル挿入部位へポビドンヨードゲルなど消毒薬軟膏を適用することについて、CDCガイドラインは勧告を明記していないが、感染率低下効果について結論的と合意されたエビデンスは存在せず、またポビドンヨードゲルには挿入部位の観察を困難とし、皮膚を軟化させ、ドレッシング材の密着に支障をきたすなどの問題点があるため、一概には推奨されない。
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