|
III 消毒対象物による消毒薬の選択
1.生体
1)患者
 |
(4)粘膜など18, 19, 26, 27)
粘膜とは消化器、呼吸器、泌尿生殖器などの管腔臓器の内腔面をおおう部位の総称であり、その自由面は粘液腺や杯細胞からの分泌物で常に湿潤している。消毒の対象となる粘膜としては、口腔、咽喉、鼻腔、耳腔、結膜のう、腟、肛門などがある。またその周辺部位として外陰・外性器、歯科領域の根管がある。粘膜は結核菌やウイルス等の微生物に対して感受性があり、健常皮膚よりも感染しやすいが、健常な粘膜は一般的な芽胞による感染には抵抗性がある。粘膜に消毒薬を適用するのはもっぱら手術をする場合や感染を起こしている場合に限られるが、粘膜に適用できる消毒薬の種類は限られており、またその臨床的な効果についての知見は少ない。
クロルヘキシジンにおいては腟、膀胱、口腔、鼻腔など粘膜への適用によりショック症状の発現や鼓膜穿孔の報告がされており、日本においては粘膜適用が禁忌となっている。しかしながら日本病院薬剤師会が1998年に全国604施設で行ったアンケートの集計27)によると、耳鼻咽喉科で粘膜にクロルヘキシジンを使用している割合が16.6%にものぼっており、適正使用の普及が現在も課題となっている。
[1] 粘膜
以下、粘膜に適用可能な消毒薬を列記する。
◆手術部位の粘膜
10%ポビドンヨード液が用いられる場合が多い。0.01〜0.025%塩化ベンザルコニウム液、0.01〜0.025%塩化ベンゼトニウム液も使用できる。
◆腟
0.02〜0.05%塩化ベンザルコニウム液、0.025%塩化ベンゼトニウム液が使用できる。
◆結膜のう
界面活性剤の含まれない0.05%以下のクロルヘキシジン液、0.01〜0.05%塩化ベンザルコニウム液、0.02%塩化ベンゼトニウム液が使用できる。消毒の効能はないが、結膜のうの洗浄に2%以下のホウ酸、1%以下のホウ砂を用いることができる。
◆口腔粘膜・耳鼻咽喉
含嗽にはポビドンヨードを有効成分とする含嗽剤が広く使用されている。歯肉・口腔粘膜にヨードチンキ、咽頭炎、喉頭炎、扁桃炎に複方ヨードグリセリンを使用することができる。口腔粘膜の消毒、および口内炎・外耳・中耳の炎症・鼻炎・咽喉頭炎・扁桃炎など粘膜の炎症にはオキシドールを用いることができる。扁桃炎・副鼻腔炎・中耳炎などの化膿局所の消毒にはアクリノール液を用いることができる。また、0.2%塩化ベンゼトニウム歯科用製剤が口腔内の消毒・抜歯創の感染予防用に市販されている。
このほかに粘膜適用のある消毒薬としてクレゾール石けん液、次亜塩素酸ナトリウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシンがあるが実際に使用することはまれである。
[2] 外陰・外性器
外陰・外性器の消毒には界面活性剤の含まれない0.02%クロルヘキシジン液のみが具体的な適用を認められているが、粘膜適用濃度の範囲でポビドンヨード、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなども使用可能である。アクリノールには泌尿器・産婦人科手術における適用があり、ポビドンヨードを成分とする産科用製剤も市販されている。
尿道留置カテーテルに関連する尿路感染は発生頻度の高い病院感染である28)。感染原因としてはまず尿道カテーテル挿入時の医療従事者の手指や操作技法が考えられ、またカテーテル留置中における尿路粘膜の損傷によるものがある。日本においてはカテーテル挿入口周辺のケアとしてポビドンヨードなどで定期的に消毒する場合が多いが、米国の1981年ガイドライン29)(表9)は、1日2回のポビドンヨード液による清拭とポビドンヨード軟膏の適用を行っても、毎日水と石けんによる洗浄を行った場合より尿道カテーテル関連感染の頻度を下げることができなかったという報告に言及し、尿道口のケアとしての消毒薬の使用を推奨していない。また英国の1997年暫定ガイドラインは8,30)、挿入時には社会通念的水準で清潔でなければ性器周辺をカテーテル挿入の前に石けんと水で洗うべきであること、尿道口のケアとしては結痂や汚染がないよう保つのに適切な間隔でシャワーまたは強くないビデで洗浄することのみを薦めている。英国の2001年ガイドラインも同様である15)。ただし、これらの勧告はそれほど多くないエビデンスに基づくものであり、また生体消毒薬を適用するべきでないと勧告されているわけではない。今後、臨床的研究が積み重ねられ、より明確な結論が導かれることが期待される。
表9 米国のガイドライン29)における尿道カテーテルケアの要点
- 必要な場合以外には尿道カテーテルを留置しない。
- カテーテル連結部、蓄尿バッグ排出口は細菌が混入する部分となりうるため、短期間の留置でも閉鎖式持続導尿回路を用い、連結部ははずさないことを原則とする。
- カテーテルの交換は定期的に行わない。
- 定期的な細菌検査は必要ない。
- カテーテルケア時は手洗いを行う。
- 尿流を確保する。
|
また米国のガイドライン29)は膀胱洗浄について、洗浄に抗菌薬を使用しても感染発生までの日数が伸びるという一時的な効果が期待されるだけであり、かえって抗菌薬耐性菌を選択的に残存させ増殖させるという結果を伴うので、日常的に抗菌薬による膀胱洗浄を行うべきでないとしている。膀胱洗浄が必要となるのは、もっぱら術後に血栓などによって尿道閉鎖のおそれがある場合であり、洗浄剤としては生理食塩水などを用いることが適切である。
[3] 歯科領域の根管
根管に適用できる消毒薬としては、ヨードチンキ、オキシドール、ホルマリン(クレゾールなどを加えて)、次亜塩素酸ナトリウム歯科用製剤がある。
|
|