2.器具および環境
1)器具
(2)セミクリティカル器具 28、34、60)
セミクリティカル器具とは、粘膜または健常でない皮膚に接触するものであり、これらの器具には少数の芽胞を除きいかなる微生物も存在してはならない。健常な粘膜は一般的な芽胞による感染に対して抵抗性があるが、抗酸菌やウイルスなどその他の微生物には感受性がある。セミクリティカル器具として具体的には呼吸器療法器具、麻酔器具、軟性内視鏡、喉頭鏡、気管内挿管チューブ、食道検圧プローブ、直腸肛門検圧カテーテル、避妊用リングなどが挙げられる。セミクリティカル器具の再利用には通常、熱水洗浄または消毒薬による高水準消毒が必要であるが、粘膜に触れる体温計(口腔用、直腸用)や健常でない皮膚をもつ患者の水治療タンクについては、中水準消毒でよいとされている。
代表的な高水準消毒薬としてはグルタラール、フタラール、過酢酸が挙げられるが、欧米では安定化過酸化水素も使用されている。高濃度(1,000ppm以上)の次亜塩素酸ナトリウムへの30分浸漬も高水準消毒に分類されるが28)、この消毒薬は金属腐食性が強く、セミクリティカル器具の消毒に用いられる場合は限られている。どの消毒薬を用いる場合でも、血液や体液が付着した器具を消毒する場合には十分な効果を得られない可能性があるので、中性洗剤や酵素洗浄剤を用いて十分に前洗浄を行うことが肝要である。
ところで、これらの化学的消毒法は作用時間、濃度、温度、pH、有機物の除去など効力に影響を与える因子が十分に整った場合にのみ必要な消毒水準が確保されるものであり、消毒作業者に対する接触・吸入毒性や患者に対する残留薬剤の危険性などについて十分に留意すべき消毒法である。これらのことを考慮すると、セミクリティカル器具であっても熱に耐えるものである場合には、ウォッシャーディスインフェクターなどによる熱水洗浄を第一選択とすることが確実で安全である。100℃以下の熱水そのものは芽胞に対して無効であるが、洗浄作用を伴う場合には高水準消毒の代替法として十分な効果を発揮する。
消毒薬によって消毒されたセミクリティカル器具は、滅菌精製水ですすぐことが望ましい。すすぎに水道水を用いる場合には、水道水に含まれている危険性のある非定型抗酸菌やレジオネラによる再汚染に注意が必要である。したがって水道水ですすいだ後はアルコールでリンスし、かつ強制乾燥することが望ましい。この強制乾燥には細菌の増殖しやすい湿潤環境を取り除き保管中の器具における細菌増殖を防ぐという意味もある。
1 軟性内視鏡67、68)
軟性内視鏡は損傷した消化管や気管にも接触するため、できれば滅菌処理することが望ましい。しかしながら、耐熱性がなく高圧蒸気などでの処理が不可能であるため、高水準消毒薬であるグルタラール、フタラール、過酢酸による再処理を行う。この再処理は患者間でその都度行うことが原則であるが、その浸漬時間については議論がある。
2〜3.5%グルタラールへの浸漬時間は、日本において承認されているグルタラール製剤の用法によると30分以上(3%製剤では15分以上)となっているが、日本消化器内視鏡技師会消毒委員会のガイドラインでは10分と規定された69、70)。この10分という浸漬時間は世界消化器病学会のMinimal standards for disinfections of endoscopic instrumentationにおいても推奨されている71)。
米国においてもこのような薬事承認と学会見解の相違がみられ、FDAの承認した2.4%グルタラールの軟性内視鏡全般のための用法は25℃45分となっているが、APICのガイドラインにおいては2%グルタラールで20℃20分以上と推奨されている28、68)。APICは、FDAの審査基準においては高度の結核菌汚染があった場合の試験データに基づいて用法が設定されるため、現実に必要な時間よりも長い時間が設定されたとの見解をとっており、その論拠として手動による機械的な内視鏡洗浄が汚染微生物を約4log(すなわち99.99%)減少させることを確認した研究をあげ、前洗浄が確実にできていれば消毒時において高度な微生物汚染は存在しないという立場をとっている。
英国においては、内視鏡に2%グルタラールを用いる場合、通常は10分以上、結核による感染がわかっているか疑わしい場合については20分以上、芽胞については少なくとも3時間の浸漬が必要であると規定されている72)。
以上のことから、消化器内視鏡による結核伝播の可能性が低いことも合わせて考慮すると、2%グルタラールを軟性内視鏡に用いる場合の浸漬時間は消化器内視鏡で10分以上、気管支内視鏡で20分以上を基本とするのが妥当と思われる34)。なお、FDAは0.55%フタラールについて20℃12分で高水準消毒と承認しており66)、この条件は高度の結核菌汚染にも有効である。
グルタラールに対して比較的抵抗性を持つ結核菌やMycobacterium chelonaeなどの非定型抗酸菌が多数存在する場合にはかなり長い接触時間が必要であること、また、チャンネル内にバイオフィルムなどが形成された場合には時間が経過しても消毒薬が十分浸透せず消毒が不完全になってしまうことを勘案すると、内視鏡を消毒するにあたっては前洗浄でのブラッシングは非常に重要な操作である。また内視鏡再処理の最後に乾燥を目的としてアルコールリンスを行うが、グルタラールに低感受性を示す抗酸菌であってもアルコールに対しては感受性を示すと報告されているため69、73、74)、アルコールリンスを行うことは、この意味でも重要な操作である。
軟性内視鏡の主な消毒手順は表26のとおりである。なお、生体組織内に直接侵入する生検鉗子などの部品はなるべくディスポーザブル製品を用い、それができない場合には滅菌処理をした上で再利用する。
表26 軟性内視鏡洗浄手順
前洗浄 |
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消毒 |
消毒薬がチャンネル内にも行き渡るようにして必要時間浸漬する。 |
すすぎ・乾燥 |
チャンネル内を滅菌水ですすぐ。滅菌水を使うことができない場合には水道水ですすいだ後、アルコールでリンスする。これらの操作の後、チャンネル内を強制送気で乾燥させる。外面は流水を用いてすすぎ、水分などを拭き取る。 |
保管 |
内視鏡ホルダーなどを用い、乾燥状態を保って保管する。 |
2 呼吸器系装置
人工呼吸器、ネブライザー、吸入麻酔装置などの呼吸器系装置は、その回路を通過する空気や加湿水などの飛沫が呼吸器粘膜に触れるためセミクリティカル器具に分類され、患者間においては高水準消毒ないし滅菌を行うことが原則である75)。しかしながらその構造は複雑で高水準消毒や滅菌を行うことが困難な場合が多い。したがって呼吸器系装置においてはパスツーリゼーション(70℃を超える熱水による30分処理)や熱水消毒(80℃10分)が高水準消毒の代替として認められている75、76)。熱水や消毒薬を循環させることができない装置である場合には、蛇管ホースや加湿水タンクなどの部分を取り外して消毒を行うことになる。
湿熱に耐えない部分であってもグルタラールなどを使用すれば高水準消毒を達成できるが、残留薬の毒性を考慮するとかえって危険である場合が多い。また、ネブライザーなどの器具において実際に感染伝播の危険を生むのは緑膿菌などのグラム陰性菌である場合が多いので、揮発性があり残留の少ない低濃度の次亜塩素酸ナトリウム(100ppm、1時間)やアルコール系消毒薬を用いて中水準消毒を行うことが多い77)。
滅菌法、熱水消毒、パスツーリゼーション、高水準消毒薬やアルコール系消毒薬との十分な接触は結核菌など抗酸菌に有効であるが、次亜塩素酸ナトリウムは高濃度でなければ無効である。呼吸器系装置の消毒に低濃度の次亜塩素酸ナトリウムを用いている場合などには、結核の可能性によって消毒薬の濃度、接触時間、種類などを変更する 。
なおこれらの呼吸器系装置の加湿水中でグラム陰性菌が増殖することが多いので、加湿水には滅菌精製水を用い少なくとも24時間以内に交換する。
3 気管カテーテル・経鼻カテーテル
これら気道粘膜に接触するカテーテルにはディスポーザブル製品を用いる。ただし喀痰の吸引カテーテルなど頻繁に使用するものは、同一の患者に使用するかぎりにおいて、高水準消毒をすることなく再使用することができる。この場合カテーテルの微生物汚染を最小限に止めることを目的として消毒用エタノールで清拭したり滅菌済みの0.1%ベンザルコニウム塩化物液や0.05〜0.2%アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩液に浸漬することがあるが、少なくとも24時間以内にカテーテルと浸漬用薬液を交換する。なお0.1%ベンザルコニウム塩化物液に8〜12%のエタノールを添加して細菌汚染の可能性を低下させる場合もある。カテーテルの吸引洗浄用水は汚染が甚だしいため、頻回に新しいものと交換する。なお、消毒薬に浸漬した吸引カテーテルは毎回滅菌精製水で洗浄するか、もしくはアルコール綿で外側を消毒してから再使用する。この場合、アルコール残留による気道刺激に注意が必要である。
4 体温計
体温計はアルコール系消毒薬で清拭して中水準消毒する。ただし、口腔用と直腸用は区別し兼用しない。また、隔離の必要なMRSA患者などに使用する体温計はなるべく他の患者と共用しないのが望ましい。
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