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IV 対象微生物による消毒薬の選択

IV 章 参考文献

2.一般細菌

細菌は原核生物で核膜を有しない。細胞壁を有し、多くの場合無細胞培地において自己増殖することが可能である。また細菌はその形態から球菌、桿菌、螺旋菌などにも分類されるが、球菌状・桿菌状双方の形態をとるものもある。細菌はグラム染色法によりグラム陽性菌とグラム陰性菌に大別される。グラム陰性菌は細胞壁の外側に外膜を持つ。他の微生物と同様、科(family)、属(genus)、種(species)の順に分類されるが、同じ菌種であっても、菌株(strain)により病原性、抗菌薬感受性、消毒薬感受性が異なる場合がある。


1)グラム陽性菌 55)

グラム陽性菌の多くは、しばしばヒトや環境に常在し、健常人にとってはほとんど問題にならない弱毒菌であるが、それら弱毒菌も免疫不全患者や易感染患者においては重篤な感染症を引き起こす場合がある。病院感染で問題となるグラム陽性菌として黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、レンサ球菌、腸球菌などがあるが、これらの菌には抗菌薬に耐性を示す株が存在し、病院感染対策上の大きな問題となっている。


(1)ブドウ球菌(Genus Staphylococcus

1 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus56)

黄色ブドウ球菌はグラム陽性の球菌でヒトの皮膚、鼻腔、消化管などの常在菌であるが、病院では主に易感染患者において手術部位感染、血流感染、呼吸器感染、尿路感染を惹起し、最も重要な病院感染起因菌の一つである。抗菌薬耐性の観点から、メチシリンやオキサシリンに耐性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)とメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-sensitive Staphylococcus aureus:MSSA)に分けられる。日本においてはMRSAが黄色ブドウ球菌臨床分離株の約3分の2程度を占める57)

〈抗菌薬耐性について〉
黄色ブドウ球菌は抗菌薬に対する耐性が生じやすく、1940年代ペニシリンGの量産化後まもなくペニシリナーゼを産生してペニシリン耐性を示す株が拡散した。1960年代にはメチシリン、オキサシリンなどの合成ペニシリンや第1世代セフェム系薬が開発されたが、これらに耐性を持つメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)がすぐさま出現した。MRSAはほとんどのβ−ラクタム系薬に耐性である場合が多く、その他の抗菌薬に耐性を獲得することもあり、難治性感染症の原因となる。耐性遺伝子mecAを保有する黄色ブドウ球菌では、細胞壁を構成する蛋白のひとつであるペニシリン結合蛋白(penicillin-binding protein:PBP)がβ−ラクタム系薬と結合力の弱いPBP2’に変化するためβ−ラクタム系薬耐性を示す。

バンコマイシンはMRSAに有効な抗菌薬であるが、1996年には日本においてバンコマイシン低感受性MRSAが臨床分離された。これは米国の分類でvancomycin-intermediate Staphylococcus aureus(VISA)に相当した58、59)。また、2002年米国においてバンコマイシンに耐性を示すvancomycin-resistant Staphylococcus aureus(VRSA)が分離され、mecAのみならずバンコマイシン耐性遺伝子であるvanAを持つことが確認された。VanAはVREから伝達されたと推論されている60、61)

また、黄色ブドウ球菌の中には莢膜多糖を有する株があり、このような株はバイオフィルムを形成し、抗菌薬の到達が悪くなるため効果が低下することがある。

〈病原性について〉
黄色ブドウ球菌は、化膿症の原因となるほか、その他の病原毒素を産生する場合がある。MSSAとMRSAに病原性の明らかな差は報告されていない。黄色ブドウ球菌の病原性には表37のようなものがある。

表37 黄色ブドウ球菌の病原性

化膿症

莢膜、コアグラーゼ、α毒素、ロイコシジン等が関与していると考えられている。皮膚、粘膜、軟部組織、肺、骨髄などで化膿性感染症を起こす。

食中毒

エンテロトキシンを産生する株による。毒素はもっぱら食品中で産生され、耐熱性である。

熱傷様皮膚症候群

エクスフォリアティブ毒素(exfoliative toxin)を産生する株による。

毒素性ショック症候群

毒素性ショック症候群毒素1型(toxic shock syndrome toxin1:TSST-1)を産生する株による。


〈消毒薬に対する感受性〉
黄色ブドウ球菌において、薬剤排出蛋白をコードするqacAqacBsmr(=qacC〜Dまたはebrなど)、qacE〜Hなどの遺伝子が伝達性のプラスミド上に存在し、第四級アンモニウム塩、クロルヘキシジン、両性界面活性剤、色素系薬剤などの消毒薬を排出することにより消毒薬抵抗性を示す場合があると報告されている62〜64)。しかし、これらは消毒薬のMIC(最小発育阻止濃度)、つまりごく低濃度での感受性の変化であり、実用濃度における感受性には影響しないため、臨床的に問題はないとされている5、65)

ただし細菌における消毒薬抵抗性の変化を調査することには意義があり66、67)、また消毒薬の繁用が抗菌薬耐性菌を選択的に生存させるという仮説もある65)。したがってこの分野の研究は今後も発展が期待される。

黄色ブドウ球菌の中には莢膜多糖を有する株があり、このような株はバイオフィルムを形成し、消毒薬の到達が悪くなるため効果が低下する68)。この場合消毒前の洗浄が重要となる。

〈病院感染対策および消毒〉
易感染患者では鼻腔、咽頭などに保菌する黄色ブドウ球菌により内因性感染することが多いが、それと同様に重要な感染経路として、医療従事者の手指や医療器材等を介した接触感染がある。標準予防策を基本とし、感染部位によって排菌状況を考慮し、必要に応じて接触予防策を追加する。広範な熱傷・褥瘡感染症例、呼吸器感染で気管切開がある症例など大量にMRSAを排菌する場合は個室隔離するが、その他の場合は適切なバリアプリコーションを行えばよい。なおVISAとVRSAの場合は、厳密な接触予防策を行う59)。ブドウ球菌は比較的乾燥に対して強く、乾燥環境表面で1週間生存し69)、ドライモップ上では数週間生きていたという報告もある70)

黄色ブドウ球菌はほとんどすべての消毒薬に対して感受性であり、MSSAとMRSAの感受性の差はほとんどないといわれている71、72)。また、VISAの消毒薬感受性もMRSAなどその他の黄色ブドウ球菌と大きな差はないとされている73、74)。一方、クロルヘキシジンは、黄色ブドウ球菌に対して極めて低いMICを示すことから優れた静菌作用を持つ45)。黄色ブドウ球菌の熱に対する感受性については、70℃の温水による15〜30秒間の処理で生存菌数が0.001%未満になったという報告がある75)

ブドウ球菌に有効な消毒薬は、クロルヘキシジングルコン酸塩、ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、両性界面活性剤、アルコール、次亜塩素酸ナトリウム、ポビドンヨード、グルタラールなどである。また80℃10分間の熱水消毒も有効である。ただし、クロルヘキシジンや両性界面活性剤では長時間の接触が必要との報告もあるため13)、またポビドンヨードも繁用されている10%水溶液では数分を要するとの報告もあるため74、76)、これら消毒薬においてはブドウ球菌に対する速効性を期待すべきではない。一方、アルコール、速乾性手指消毒薬には速効性が期待できる。なお、ブドウ球菌に対する持続効果の面ではクロルヘキシジンが優れている6〜8)

通常、床は清掃のみで消毒薬を使用する必要はないが、頻繁に接触する環境表面などノンクリティカル表面のブドウ球菌を消毒する場合は、ベンザルコニウム塩化物、両性界面活性剤などの低水準消毒薬を用いる。小範囲の場合にはアルコールも選択できる。

通常のノンクリティカル表面の消毒法、つまりブドウ球菌など一般細菌と酵母菌を主な対象とする場合の消毒法を表38に示す。

表38 一般細菌・酵母菌を対象とする通常の消毒法

ノンクリティカル表面
(接触予防策の場合)

熱水(80℃10分)
0.1〜0.2%ベンザルコニウム塩化物液
0.1〜0.2%ベンゼトニウム塩化物液
0.1〜0.2%アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩液
アルコール
200〜1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム液


2 コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(Coagulase-negative Staphylococci:CNS)77)

CNSはコアグラーゼ陰性でマンニットを分解しないブドウ球菌群で、ヒトの皮膚、粘膜、上気道に常在する。CNSには表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、Staphylococcus haemolyticusStaphylococcus saprophyticusなどが含まれるが、病院感染起因菌として代表的なものは表皮ブドウ球菌である。

病原性は黄色ブドウ球菌より弱いといわれているが、易感染患者の増加に伴い、体内挿入人工物や血管カテーテルに関連してCNS感染が増加している。血流感染、心内膜炎、髄膜炎、敗血症などを起こす。

〈抗菌薬耐性について〉
CNSにはMRSAと同様に抗菌薬に対して多剤耐性を示す株がある。メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus epidermidis:MRSE)も多く検出されており、臨床上問題となっている。日本においてはMRSEが表皮ブドウ球菌臨床分離株の約3分の2程度を占める57)。その耐性機構はMRSAと同様で、PBP2’の遺伝子であるmecAの保有が確認されている。また、バンコマイシンに対する低感受性株・耐性株も報告されている78〜80)。CNSは莢膜多糖体を産生し、カテーテル表面に付着しやすく、バイオフィルムを形成して抗菌薬による除菌が困難となる。

〈病院感染対策および消毒〉
CNSは皮膚常在菌であるので、カテーテル挿入部位の皮膚消毒やカテーテル挿入操作時の手指消毒・手袋着用が重要となる。挿入部位の消毒に用いる消毒薬として日本で繁用されてきたのは、10%ポビドンヨード液であるが、0.5%クロルヘキシジングルコン酸塩アルコール液を使用した場合のほうが菌陽性率が低いとの報告があり81)、70%イソプロパノール、10%ポビドンヨード液よりも2%クロルヘキシジン液のほうが感染率が低いとの報告がある82)。消毒薬に対する感受性は黄色ブドウ球菌と同様なので、消毒薬の選択は黄色ブドウ球菌に準ずる。

III-1-1)-(2) 血管カテーテル挿入部位の消毒 を参照】


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