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IV 対象微生物による消毒薬の選択
2.一般細菌
2)グラム陰性菌93)
病院感染対策において問題となる主なグラム陰性菌は、緑膿菌などのブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌と大腸菌・セラチアなどの腸内細菌科細菌である。これらのグラム陰性菌は病院内の湿潤した環境に存在し、またヒトの皮膚や腸管内にも存在しているので、環境に由来する外因性感染と患者自身の常在菌による内因性感染の両方が病院内で問題となる。
ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌と腸内細菌科のセラチアは、感染源、伝播経路、抗菌薬耐性、消毒薬抵抗性において多くの類似点を持っており、病院のみならず家庭・職場などにおいても、入浴水・花瓶水などの溜水、浴槽・洗面台・洗面用具などの湿潤な室内環境・用具から頻繁に検出されるため、これらをまとめて親水性のグラム陰性菌(hydrophilic
gram-negative bacteria)と呼ぶこともある94)。なお、ここでの親水性は湿潤な場所を好んで生息するという意味であり、細菌学的性状を表すものではない。
親水性のグラム陰性菌には消毒薬に抵抗性を示す菌株がしばしば存在する。グラム陽性菌と異なり外膜を有するため薬剤感受性が低い場合がある。また、消毒薬抵抗性に関与する遺伝子qacE、qacEΔ1などが発見されている95)。Pseudomonas
spp.では、細胞壁構成脂質の量的変化からの細胞吸着量減少によると思われる抵抗性が報告されている96)。バイオフィルムを形成する菌株も消毒薬に対して抵抗性を示す97)。抵抗性の機構全体はまだ明らかにはなっていないが、親水性のグラム陰性菌は実用濃度の消毒薬中で生存することがあり、臨床上の注意が必要である。
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(1)ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌(non-fermenting gram-negative rod: NF-GNR)
ブドウ糖を嫌気的に発酵しないグラム陰性桿菌の総称である。Pseudomonas
spp.、Burkholderia spp.、Acinetobacter
spp.、Stenotrophomonas spp.、Chryseobacterium spp.、Achromobacter
spp.などがあり、土壌、環境中やヒトの皮膚、粘膜にも存在する。栄養要求性が低く、栄養分の乏しい湿潤環境でも増殖可能であるが、乾燥には弱く数時間で死滅する。病原性は弱いが日和見感染菌として病院感染上の問題となっている。
ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌の多くは本来的に様々なβ−ラクタマーゼを産生するため、もともと有効な抗菌薬の選択肢が少ない。またさらに様々な耐性機構を獲得または発揮して多剤耐性となる場合も多い98)。バイオフィルムを形成する菌株も多く、抗菌薬の浸透が悪くなり、治癒を遅らせることもある。
[1]緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)
99, 100)
緑膿菌は病院内での検出頻度が高く、特に流し場、吸入器、花瓶の水などの湿潤した環境からの検出が多い。緑膿菌は蒸留水中でも増殖可能といわれている。外因性の感染経路には医療従事者の手指や加湿器、ネブライザー、保育器などの湿潤器具、湿潤環境からの感染がある。一方健常人からの菌の検出は少ないが、抗菌薬や免疫抑制剤の投与を受けている入院患者には容易に菌が定着し、常在細菌叢中から検出されるようになる。
健常人にはほとんど病原性がないが、感染防御能低下患者においては感染症を引き起こす。肺炎・気管支炎などの呼吸器感染症は気管切開患者に、尿路感染症は尿道カテーテル留置患者に多く見られる。また、熱傷などの広範囲な創面での創感染も見られる。重篤な場合は敗血症になることもある。
また、緑膿菌は抗緑膿菌薬以外の抗菌薬に耐性を示し、菌交代症を起こして難治性となることがあるので、臨床的に大きな問題となっている。さらにイミペネムや第3世代セフェム系薬など抗緑膿菌薬に対する耐性を獲得する場合もある101)。消毒薬に対しても抵抗性を持つ株が存在し、消毒薬の汚染や汚染による感染の報告もある17)。
[2]Burkholderia cepacia 102)
以前はGenus Pseudomonasに分類されていた。自然環境に常在する細菌であるが、病院環境からは、緑膿菌と同様湿潤した環境から検出される。呼吸器感染や血流感染などを起因することがあり、嚢胞性繊維症患者において重大な肺疾患をもたらし死因となることがある。嚢胞性繊維症患者間ではセパシアが直接伝播すると示唆した報告があるが、一般患者において病室隔離の必要はない。セパシアに汚染された消毒薬、吸入剤、輸液によるの感染例の報告があり102)、軟膏、点眼薬、石けん、水道水、透析液などからの検出報告もある103)。
[3]アシネトバクター(Genus Acinetobacter)
104)
代表的な菌種はAcinetobacter baumanniiである。自然界に広く分布し、病院内環境からの検出も多い。健常人の皮膚の25%から分離されたという報告もあり、医療従事者の皮膚から分離されるグラム陰性菌の中では最も分離頻度の高い菌種である
。他のブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌より乾燥に強い。したがって、
ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌としての感染対策と同時にブドウ球菌に準じた感染対策が必要となる。感染防御能低下患者では呼吸器感染症、尿路感染症、創傷感染症などを引き起こす。口腔内で一過性に分離されることもあり、気管内挿管、気管切開患者では定着しやすく、しばしば肺炎、気管支炎を起こすことがある。
[4]Stenotrophomonas maltophilia
105)
以前はGenus PseudomonasまたはGenus Xanthomonasに分類されていた。湿潤環境に広く存在しヒトの糞便から検出されることもある。感染防御能低下患者において呼吸器感染、血流感染、手術部位感染、および転移性蜂巣織炎などを起因し、肺炎、敗血症、心内膜炎などに進展して死因となることもある。血管血圧測定機器、呼吸器系装置、透析機器、コンタクトレンズ、精製水、消毒薬、浴槽などの汚染を介して病院感染を起因した例が報告されている106)。
[5]クリセオバクテリウム(GenusChryseobacterium)
以前はGenus Flavobacteriumに分類されていた。自然環境に常在する細菌であるが、病院環境からは緑膿菌と同様湿潤した環境から検出される。Chryseobacterium spp.の中でChryseobacterium meningosepticumは病原性が強く、新生児、重症患者、免疫不全患者において血流感染、呼吸器感染、髄膜炎、敗血症などを引き起こす。グルコン酸クロルヘキシジン液がChryseobacterium meningosepticumに汚染されていたという報告がある16)。主として汚染された水、消毒薬、加湿器、人工呼吸器を介しての感染である107)。
[6]Achromobacter xylosoxidans 108)
以前Genus Alcaligenesに分類された時期もある。病院の水道水、湿潤環境にも広く存在し、汚染された薬剤・処置に用いる水などを介して、感染防御能低下患者において血流感染、呼吸器感染、尿路感染などを起因し、髄膜炎、心内膜炎、腹膜炎、肺炎をもたらす。低水準消毒薬に強い抵抗性を示す場合がある。
病院感染対策および消毒
感染防御能低下患者は、内因性感染を含めてブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌やセラチアに感染しやすいので、適切な検査診断や抗菌薬投与法が重要となる。外因性感染では医療従事者の手指、医療器材等を介したものや人工呼吸器、ネブライザー、加湿器など湿潤器具を介したものが重要となる。輸液(ヘパリンロックなどを含む)自身やそれに関連するバイアル栓、ルート、手指、挿入部位の汚染には特に注意が必要である。保菌者、感染症例には標準予防策を基本とする。多剤耐性の場合には排菌状況により接触予防策を追加することもある。また、ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌とセラチアには消毒薬に抵抗性を示す株が存在し、消毒薬の汚染が報告されているため(表38)、消毒薬の管理には十分な注意が必要となる。
表38 消毒薬に生息した菌とその際の消毒薬濃度
| 消毒薬 |
生息菌 | 濃度(%) |
| 第四級アンモニウム塩 |
Pseudomonas spp. |
0.1、0.15、0.5 |
| Pseudomonas aeruginosa |
0.1 |
| Burkholderia cepacia |
0.05、0.13 |
| Serratia marcescens |
0.78 |
| クロルヘキシジン |
Pseudomonas spp. |
0.02、0.05、0.1 |
| Burkholderia cepacia |
0.2 |
| Serratia marcescens |
2 |
| Chryseobacterium meningosepticum |
0.1 |
| ポビドンヨード |
Burkholderia cepacia | 10 |
| フェノール類 |
Pseudomonas aeruginosa | 1 |
文献2)より転載・改変
消毒薬を選択する場合、基本的には低水準消毒薬でも有効であるが、抵抗性を示す場合があるので、なるべくアルコールや200〜1,000ppm(0.02〜0.1%)次亜塩素酸ナトリウム液を選択する。80℃10分間の熱水消毒も有効である。環境は通常の清掃を行い、よく乾燥させるのが基本であるが、浴槽など広範囲を消毒する必要がある場合には0.1〜0.2%両性界面活性剤や0.1〜0.2%塩化ベンザルコニウム液を用い、できれば熱水ですすぐ。
湿潤したノンクリティカル表面の消毒法、つまり低水準消毒薬に抵抗性を示す親水性のグラム陰性菌を念頭においた消毒法を表39に示す。
表39 低水準消毒薬に抵抗性を示す親水性のグラム陰性菌の消毒法
湿潤した
ノンクリティカル表面
(消毒が必要な場合) |
熱水(80℃10分)
アルコール
200-1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム液 |
[7]レジオネラ(Genus Legionella)109)
1976年米国フィラデルフィアのホテルで在郷軍人会が開催された際、原因不明の重症肺炎集団発生があり、在郷軍人病と呼ばれた。その後、この肺炎の原因菌が分離され、Legionella pneumophilaと命名された。遺伝子的にはCoxiella
burnetiiに(IV-8-5)-(4)リケッチア、コクシエラ参照)に近いグラム陰性菌であるが、便宜上この節で述べる。
レジオネラは湿潤土壌、河川、湖など水系の自然界に広く存在し、藻類、アメーバなどの細胞内に寄生して生息する。ヒトへの感染は水飛沫に含まれるレジオネラを吸入(inhale)するか吸引(aspirate)することにより発生する。レジオネラには多くの菌種があり、それらのほとんどが肺炎の原因菌となる。感染症の症状としては、肺炎症状を起こすレジオネラ肺炎とインフルエンザ様症状のポンティアック熱がある。
空調、クーリングタワー由来の水飛沫、給水給湯、加湿器、ネブライザーなどの汚染による感染例が病院感染を含めて報告されている。また、近年では循環式浴槽や、温泉の誤嚥による感染も報告されている。 このようにレジオネラ感染は環境の感染源から空気、水、飛沫を媒介物として伝播するが、ヒトからヒトへの感染はない。したがって感染症例については通常の標準予防策を行うことで十分であり、感染症例を感染源とみなした空気予防策や飛沫予防策の必要はない110, 111)。
ただし一般媒介物に対する感染予防策として、クーリングタワーの飛沫が病室内に入らないような空調設備を考慮する必要があり、クーリングタワーは定期的に清掃、消毒を行うことが望ましい112)。また、CDCの2003年肺炎ガイドラインは、病院内の給水をなるべくを51℃以上あるいは20℃未満に保つこと、および病院内の温給水がレジオネラの感染源となった場合には、配管全体において71〜77℃となる熱水を5分以上または残留塩素濃度が2ppm以上となる温水を一晩流して浄化することを推奨している113)。加湿器やネブライザーなどのレジオネラ消毒には、通常用いる次亜塩素酸ナトリウム、アルコール、熱水、高水準消毒薬で有効である114)。
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