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IV 対象微生物による消毒薬の選択

IV 章 参考文献

5.ウイルス 151、152)

1)血中ウイルス 155、156)

血液中に存在するウイルスは、輸血、穿刺、性行為などにより、血液を介して伝播することが多い。また母子感染もある。医療従事者は特に針刺しに対する注意が必要である。血中ウイルスとして、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヒトT型細胞白血病ウイルスI型などがある。


(1)B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus:HBV)157)

HBVはヘパドナウイルス科のDNA型ウイルスで、エンベロープを有する。HBVはB型肝炎の原因ウイルスであり、母子感染、性行為、注射針の共用などにより伝播する。輸血による感染は 献血スクリーニングの発達により減少した。日本のHBs抗原陽性者は120〜140万人といわれ、そのうちHBe抗原陽性率は5.0〜7.5%と推定される。HBe抗原陽性血による針刺しの場合は30%以上の確率で感染伝播する。B型肝炎は2〜4週間の潜伏期間の後、不快感、発熱、黄疸などの急性肝炎症状を呈するが、その1%程度は劇症肝炎に発展して致命的となる。成人の3〜5%、6歳未満の幼児の30%、新生児の95%は持続性感染を起こし、この場合は慢性肝炎、肝硬変、肝癌へと進展することもある。

病院では針刺しや粘膜への血液曝露などにより伝播することが多い。重要な感染対策は、血液に対する標準予防策の徹底、針刺しの防止、適切な清掃・消毒、ワクチン接種、事後的免疫グロブリンの投与などである。

1970年代にWHOがHBV消毒に推奨した消毒薬はグルタラールやホルマリンなど強力な消毒薬のみであったが、その後チンパンジー感染実験により、80vol%エタノールが11℃2分間の接触で不活性化することが確認された10)。次亜塩素酸ナトリウム、ポビドンヨード、イソプロパノールによる不活性化も確認されている11)。さらに、第四級アンモニウム塩配合剤やフェノール配合剤による不活性化も確認されたが12)、日本で使用されている単剤では確認されていない。このように、従来HBVは消毒薬に対して抵抗性の強いウイルスであると考えられてきたが、現在ではあまり消毒薬抵抗性の強いものではないことが判明している。ただし、前述の配合剤は米国の環境用消毒薬入り洗浄剤であり、認可当局であるEPAはHBVに有効と表示することを認可しているが、CDCのガイドラインでは血液汚染がある場合には次亜塩素酸ナトリウムを第一に選択することを勧告している145、146)。また、これらの配合剤を環境に使用しても、HBVの不活性化に必要な10分間の接触を保つことは困難であり実際的でない5)。各消毒薬の抗微生物スペクトルと特性を総合して勘案すると、ノンクリティカル表面のHBV消毒には次亜塩素酸ナトリウムを選択することが最も確実であり、非消毒物の材質が金属である場合など次亜塩素酸ナトリウムを用いることが不適切な場合にはアルコールによる清拭を選択することが最も妥当である。

HBVに有効な消毒薬で、日本で使用できるものを表46に示す。

表46 HBVを不活性化させる条件(チンパンジー動物感染実験の結果)

消毒薬(消毒法)

濃度

温度

時間

グルタラール

1w/v%158)

24℃

2分

2w/v%11)

20℃

10分

0.1w/v%10)

24℃

5分

次亜塩素酸ナトリウム

500ppm11)

20℃

10分

エタノール

80vol%10)

11℃

2分

イソプロパノール

70vol%11)

20℃

10分

ポビドンヨード

有効ヨウ素80ppm11)

20℃

10分

加熱(煮沸)

(98℃に上昇するまでに4分)158)

98℃

2分

文献153)より引用・改変


環境に目に見える血液の汚染がある場合は、汚染を広げないよう念入りに血液を拭き取ったあと、1,000ppm(0.1%)の次亜塩素酸ナトリウム液または消毒用エタノールや70vol%イソプロパノールで清拭する。血液そのものを消毒する場合は10,000ppm(1%)次亜塩素酸ナトリウム液を使用するが、この濃度には強い刺激臭が伴い直接触れれば皮膚損傷も起こすので、5,000ppm(0.5%)が使用される場合もある153)。目に見えないが血液汚染を疑う場合は1,000ppm(0.1%)次亜塩素酸ナトリウム液やアルコールを用いる。

なお、過酢酸とフタラールのHBV不活性化に関するチンパンジー感染実験は行われていないが、その他の間接的知見から有効と推定されている51)


(2)C型肝炎ウイルス(Hepatitis C virus:HCV)159)

HCVはフラビウイルス科ヘパシウイルス属のRNA型ウイルスで、エンベロープを有する。感染経路はほとんどが輸血によるものであったが、輸血による感染は献血スクリーニングの発達により減少した。日本のHCVキャリアは100〜200万人といわれる。C型肝炎は、7〜8週間前後の潜伏期間の後、黄疸、不快感、悪心など急性肝炎症状を呈することもあるが、無症候あるいは穏やかな症状のまま慢性感染に移行する場合が多い。このHCVキャリアにおいては、疲労感を伴う慢性肝炎を発症することが多く、肝硬変、肝癌へと進展することもある。

HCVはHBVより感染力は弱いといわれ、針刺しによる感染の発生率は2.0%程度などといわれているが、HBVに準じた注意が必要である。ワクチンはなく、B型肝炎の場合ほど明確な事後的予防措置はない。消毒薬抵抗性に関するデータはほとんどないが、消毒法はHBVと同様の方法で十分といわれる。


(3)ヒト免疫不全ウイルス(Human immunodeficiency virus 12、あるいはHuman immunodeficiency virus:HIV)

HIVはレトロウイルス科に属するRNA型ウイルスでエンベロープを有する。後天性免疫不全症候群(Acquired immunodeficiency syndrome:AIDS)の原因ウイルスである。HIVは感染者の血液、精液、腟分泌液、唾液、母乳に認められるが、唾液中のウイルス量は少ない。感染源として重要なのは血液、精液、腟分泌液で、輸血、母子感染、性行為、注射針の共用などにより伝播するが、通常の接触では伝播しない。感染力は弱く、針刺しによる感染率は0.3%程度といわれる。

感染が成立すると、カゼ様の急性症状を呈し、その後長い無症候期間を経てAIDSが発症し、さまざまな日和見感染症をもたらす。抗HIV薬療法の発達により、発症を遅らせることが可能となったが、完治をもたらす治療法はまだ無く、ワクチンも存在しない。日本におけるHIVキャリアはまだ少ないが年々増加している。

HIVはエンベロープを有し、消毒薬に対する抵抗性は弱く、第四級アンモニウム塩やクロルヘキシジンなどで効果が認められたという報告もあるため160、161)、米国EPAは様々な消毒薬についてHIVに有効と表示することを認可している。しかし、AIDSは治療法が確立されておらず予後不良の感染症であるため、低水準消毒薬を選択するべきではない162)。血液で汚染された環境表面の消毒はHBVの方法に準じて行う。WHOではHIVにも有効な処理方法として表47のような処理方法を推奨している163)。他に、過酢酸とフタラールもHIVを不活性化する50、51)

表47 WHOによるHIVに有効な処理方法

対象と目的

処理方法

処理条件

医療器具の
滅菌

高圧蒸気滅菌

120℃ 20分間

乾熱滅菌

170℃ 2時間

医療器具の
高水準消毒

煮沸消毒

100℃ 20分間

グルタラール

2w/v% 30分間

過酸化水素

6w/v% 30分間

環境表面の
低〜中水準消毒

次亜塩素酸ナトリウム
などの次亜塩素酸系 

清潔条件:500〜1,000ppm 10〜30分間
汚染条件:5,000ppm 10〜30分間   

生体消毒

エタノール

70vol%*

イソプロパノール

70vol%

ポビドンヨード

2.5〜10w/v%

文献163)より作成

* 消毒用エタノールは76.9〜81.4vol%だが同等と考えてよい。


(4)ヒトT型細胞白血病ウイルスI型(Human T-lymphotropic virus 1、あるいはHuman T-cell leukemia virus typeI:HTLV-I)164)

HTLV-Iはレトロウイルス科のRNA型ウイルスであり、エンベロープを有する。成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia:ATL)の原因ウイルスであり、白血病のほか神経炎、関節炎などを起こす。感染後ほとんど持続感染するが、ATLを発症するのはまれである。キャリアは日本に100万人存在するといわれ、九州地方に多く、また女性の方が多い。感染経路は輸血、性行為、母子感染である。血球成分から感染し血漿からの感染はしないことが判明しているため、大量の血液による曝露がなければ感染は成立しないといわれる。HTLV-Iの消毒薬感受性について特に報告はないが、HIVやHBVに準じて消毒を行う。

以上をまとめ、血中ウイルスを対象とするノンクリティカル表面の消毒法を表48に示す。

表48 血中ウイルスの消毒法

ノンクリティカル表面
(血液などで汚染された場合)

熱水(98℃6分、多くの場合は80℃での10分洗浄でも可)
1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム液(血液自体の消毒は5,000〜10,000ppm)
アルコール


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