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抗微生物スペクトル早見表適用部位早見表消毒薬使用濃度一覧

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IV 対象微生物による消毒薬の選択
5.ウイルス151, 152)

ウイルスは宿主生体内または細胞培地においてのみ自己複製することが可能であり、DNAかRNAのどちらかの核酸しかもたない。大きさは20〜250nmと微生物の中でも最も小さい部類であり、電子顕微鏡でしか見ることができない。

エンベロープと呼ばれる脂溶性の外膜を持つものと持たないものがあり、エンベロープの有無が消毒薬抵抗性に大きく関与する。エンベロープを有するウイルスはおおむね消毒薬感受性が良好であ り、エンベロープを有しないウイルスは消毒薬抵抗性が強い。ただし、エンベロープを有しないウイルスの中でも、親油性のアデノウイルス、ロタウイルスなどは比較的消毒薬抵抗性が弱い9)。大部分のウイルスに有効な消毒薬を表43に示す48, 153, 154)

表43 大部分のウイルスに有効な消毒薬(消毒法)
●煮沸(98℃以上)15〜20分間
●2w/v%グルタラール
●500〜5,000ppm(0.05〜0.5%)次亜塩素酸ナトリウム
●76.9〜81.4v/v%消毒用エタノール
●70v/v%イソプロパノール
●2.5%w/vポビドンヨード
●0.55w/v%フタラール
●0.3w/v%過酢酸
文献153)より引用

この他、3%過酸化水素水が単純ヘルペスウイルス、ライノウイルス、ポリオウイルスを不活性化したという報告がある30、31, 48)。ウイルスは種類、有機物の有無、ウイルス量などにより消毒薬に対する感受性に大きく差が生じるため、消毒薬の使用には注意が必要である。

ウイルスは高分子の粒子で完全抗原であるため、感染すると生体内に免疫が成立する。ただし、おおむね生涯免疫が成立する ウイルス(例:麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、風疹ウイルス、ポリオウイルス、日本脳炎ウイルス)と、免疫力が低下することや多様な抗原型が存在することによりしばしば再感染するウイルス(例:インフルエンザウイルス、RSウイルス、ライノウイルス、コロナウイルスなどのかぜ症候群ウイルス)がある。また、初感染後体内に潜伏し宿主の抵抗力が低下すると再活性化し回帰感染するウイルス(例:水痘・帯状疱疹ウイルス、単純ヘルペスウイルスなどのヘルペスウイルス)もある。 血中ウイルス感染の場合においても、一過性感染であることが多いウイルス(B型肝炎ウイルスなど)と持続感染となることが多いウイルス(C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルスなど)がある。

ウイルスの感染対策にはその感染経路を考慮して対策を立てることが重要であるが、ウイルスの主な感染経路は表44に示すとおりである。

表44 ウイルスの主な感染経路
接触感染 直接接触、手指・器具・環境経由の間接接触
飛沫感染 咳やくしゃみの飛沫(1m以内に落下)、エアロゾル*
空気感染 長時間空気中に浮遊する飛沫核の吸入
経口感染 食物、飲料水、手指・器具・環境経由の間接的経口摂取
経皮感染 針刺しなど刺創、外傷、昆虫の刺創、動物の咬創
母子感染 経胎盤、産道、母乳
輸血感染 輸血、血液製剤、移植医療
* 人工物により機械的に発生したエアロゾルは遠くまで浮遊することがあるため、空気感染に含められる場合もある。

以下、ウイルスの科、属、種を英語で表記する場合、国際ウイルス分類委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses: ICTV)の2002年表記法(http://phene.cpmc.columbia.edu/Ictv/index.htm)に従い学名はイタリックで表記する。その他の名称やセロタイプ名はノンイタリックで表記する。ただし文献書誌は原著の表記法にしたがう。

1)血中ウイルス155, 156)

血液中に存在するウイルスは、輸血、穿刺、性行為などにより、血液を介して伝播することが多い。また母子感染もある。医療従事者は特に 針刺しに対する注意が必要である。血中ウイルスとして、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヒトT型細胞白血病ウイルスI型などがある。

(1)B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus: HBV)157)

HBVはヘパドナウイルス科のDNA型ウイルスで、エンベロープを有する。HBVはB型肝炎の原因ウイルスであり、母子感染、性行為、注射針の共用などにより伝播する。輸血による感染は 献血スクリーニングの発達により減少した。日本のHBs抗原陽性者は120〜140万人といわれ、そのうちHBe抗原陽性率は5.0〜7.5%と推定される。HBe抗原陽性血による針刺しの場合は30%以上の確率で感染伝播する。B型肝炎は2〜4週間の潜伏期間の後、不快感、発熱、黄疸などの急性肝炎症状を呈するが、その1%程度は劇症肝炎に発展して致命的となる。成人の3〜5%、6歳未満の幼児の30%、新生児の95%は持続性感染を起こし、この場合は慢性肝炎、肝硬変、肝癌へと進展することもある。

病院では針刺しや粘膜への血液曝露などにより伝播することが多い。重要な感染対策は、血液に対する標準予防策の徹底、針刺しの防止、適切な清掃・消毒、ワクチン接種、事後的免疫グロブリンの投与などである。

1970年代にWHOがHBV消毒に推奨した消毒薬はグルタラールやホルマリンなど強力な消毒薬のみであったが、その後チンパンジー感染実験により、80v/v%エタノールが11℃2分間の接触で不活性化することが確認された10)。次亜塩素酸ナトリウム、ポビドンヨード、イソプロパノールによる不活性化も確認されている11)。 さらに、第四級アンモニウム塩配合剤やフェノール配合剤による不活性化も確認されたが12)、 日本で使用されている単剤では確認されていない。このように、従来HBVは消毒薬に対して抵抗性の強いウイルスであると考えられてきたが、現在ではあまり消毒薬抵抗性の強いものではないことが判明している。

ただし、前述の配合剤は米国の環境用消毒薬入り洗浄剤であり、認可当局であるEPAはHBVに有効と表示することを認可しているが、CDCのガイドラインは血液汚染がある場合には次亜塩素酸ナトリウムを第一に選択することを勧告している145,146)。また、これらの配合剤を環境に使用しても、HBVの不活性化に必要な10分間の接触を保つことは困難であり実際的でない5)。各消毒薬の抗微生物スペクトルと特性を総合して勘案すると、ノンクリティカル表面のHBV消毒には次亜塩素酸ナトリウムを選択することが最も確実であり、非消毒物の材質が金属である場合など次亜塩素酸ナトリウムを用いることが不適切な場合にはアルコールによる清拭を選択することが最も妥当である。

HBVに有効な消毒薬で、日本で使用できるものを表45に示す。

表45 HBVを不活性化させる条件(チンパンジー動物感染実験の結果)
消毒薬(消毒法) 濃度 温度 時間
グルタラール 1w/v% 158) 24℃ 2分
2w/v% 11) 20℃ 10分
0.1w/v% 10) 24℃ 5分
次亜塩素酸ナトリウム 500ppm 11) 20℃ 10分
エタノール 80v/v% 10) 11℃ 2分
イソプロパノール 70v/v% 11) 20℃ 10分
ポビドンヨード 有効ヨウ素80ppm 11) 20℃ 10分
加熱(煮沸) (98℃に上昇するまでに4分) 158) 98℃ 2分
文献153)より引用・改変

環境に目に見える血液の汚染がある場合は、汚染を広げないよう念入りに血液を拭き取ったあと、1,000ppm(0.1%)の次亜塩素酸ナトリウム液または消毒用エタノールや70v/vイソプロパノールで清拭する。血液そのものを消毒する場合は10,000ppm(1%)次亜塩素酸ナトリウム液を使用するが、この濃度には強い刺激臭が伴い直接触れれば皮膚損傷も起こすので、5,000ppm(0.5%)が使用される場合もある153)。目に見えないが血液汚染を疑う場合は1,000ppm(0.1%)次亜塩素酸ナトリウム液やアルコールを用いる。

なお、過酢酸とフタラールのHBV不活性化に関するチンパンジー感染実験は行われていないが、その他の間接的知見から有効と推定されている51)

(2)C型肝炎ウイルス(Hepatitis C virus: HCV)159)

HCVはフラビウイルス科ヘパシウイルス属のRNA型ウイルスで、エンベロープを有する。感染経路はほとんどが輸血によるものであったが、輸血による感染は献血スクリーニングの発達により減少した。日本のHCVキャリアは100〜200万人といわれる。C型肝炎は、7〜8週間前後の潜伏期間の後、黄疸、不快感、悪心など急性肝炎症状を呈することもあるが、無症候あるいは穏やかな症状のまま慢性感染に移行する場合が多い。このHCVキャリアにおいては、疲労感を伴う慢性肝炎を発症することが多く、肝硬変、肝癌へと進展することもある。

HCVはHBVより感染力は弱いといわれ、針刺しによる感染の発生率は2.0%程度などといわれているが、HBVに準じた注意が必要である。ワクチンはなく、B型肝炎の場合ほど明確な事後的予防措置はない。消毒薬抵抗性に関するデータはほとんどないが、消毒法はHBVと同様の方法で十分といわれる。


(3)ヒト免疫不全ウイルス(Human immunodeficiency virus 12、あるいはHuman immunodeficiency virus: HIV)

HIVはレトロウイルス科に属するRNA型ウイルスでエンベロープを有する。後天性免疫不全症候群(Acquired immunodeficiency syndrome: AIDS)の原因ウイルスである。HIVは感染者の血液、精液、腟分泌液、唾液、母乳に認められるが、唾液中のウイルス量は少ない。感染源として重要なのは血液、精液、腟分泌液で、輸血、母子感染、性行為、注射針の共用などにより伝播するが、通常の接触では伝播しない。感染力は弱く、針刺しによる感染率は0.3%程度といわれる。

感染が成立すると、カゼ様の急性症状を呈し、その後長い無症候期間を経てAIDSが発症し、さまざまな日和見感染症をもたらす。抗HIV薬療法の発達により、発症を遅らせることが可能となったが、完治をもたらす治療法はまだ無く、ワクチンも存在しない。日本におけるHIVキャリアーはまだ少ないが年々増加している。

HIVはエンベロープを有し、消毒薬に対する抵抗性は弱く、第四級アンモニウム塩やクロルヘキシジンなどで効果が認められたという報告もあるため160, 161)、米国EPAは様々な消毒薬についてHIVに有効と表示することを認可している。しかし、AIDSは治療法が確立されておらず予後不良の感染症であるため、低水準消毒薬 を選択するべきではない162)。血液で汚染された環境表面の消毒はHBVの方法に準じて行う。WHOではHIVにも有効な処理方法として表46のような処理方法を推奨している163)

表46 WHOによるHIVに有効な処理方法
対象と目的 処理方法処理条件
医療器具の
滅菌
高圧蒸気滅菌 120℃ 20分間
乾熱滅菌 170℃ 2時間
医療器具の
高水準消毒
煮沸消毒100℃ 20分間
グルタラール 2w/v% 30分間
過酸化水素 6w/v% 30分間
環境表面の
低〜中水準消毒
次亜塩素酸ナトリウムなどの
次亜塩素酸系
清潔条件:
500-1,000ppm 10〜30分間
汚染条件:
5,000ppm 10〜30分間
生体消毒 エタノール70v/v%*
イソプロパノール 70v/v%
ポビドンヨード 2.5-10w/v%
文献163)より作成
* 消毒用エタノールは76.9〜81.4v/v%だが同等と考えてよい。

上記のほか、過酢酸とフタラールもHIVを不活性化する50,51)

(4)ヒトT型細胞白血病ウイルスI型(Human T-lymphotropic virus 1、あるいはHuman T-cell leukemia virus type I:HTLV-I)164)

HTLV-Iはレトロウイルス科のRNA型ウイルスであり、エンベロープを有する。成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia: ATL)の原因ウイルスであり、白血病のほか神経炎、関節炎などを起こす。感染後ほとんど持続感染するが、ATLを発症するのはまれである。キャリアは日本に100万人存在するといわれ、九州地方に多く、また女性の方が多い。感染経路は輸血、性行為、母子感染である。血球成分から感染し血漿からの感染は
しないことが判明しているため、大量の血液による曝露がなければ感染は成立しないといわれる。HTLV-Iの消毒薬感受性について特に報告はないが、HIVやHBVに準じて消毒を行う。


以上をまとめ、血中ウイルス
を対象とするノンクリティカル表面の消毒法を表47に示す。

表47 血中ウイルスの消毒法
ノンクリティカル表面
(血液などで汚染された場合)
熱水(98℃6分、多くの場合は80℃での10分洗浄でも可)
1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム液(血液自体の消毒は5,000〜10,000ppm)
アルコール

 


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