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(2)ウイルス
[1]後天性免疫不全症候群(五類、全数把握)
◆病原体
ヒト免疫不全ウイルス(Human immunodeficiency virus 1、2: HIV)−レトロウイルス科、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
◆病院感染対策
標準予防策
◆消毒法
血中ウイルスを対象とする方法
IV-5-1)-(3) ヒト免疫不全ウイルスを参照
[2]ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く)(五類、全数把握)
◆病原体
B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus: HBV)−ヘパドナウイルス科、DNA型ウイルス、エンベロープを有する
C型肝炎ウイルス(Hepatitis C virus: HCV)−フラビウイルス科ヘパシウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
その他の肝炎ウイルス
◆病院感染対策
標準予防策
◆消毒法
血中ウイルスを対象とする方法
IV-5-1)-(1) B型肝炎ウイルス、IV-5-1)-(2) C型肝炎ウイルスを参照
[3]腎症候性出血熱、ハンタウイルス肺症候群(四類)213)
◆病原体
ハンタウイルス(Genus Hantavirus)−ブニヤウイルス科ハンタウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
◆病院感染対策
標準予防策
◆消毒法
血中ウイルスを対象とする方法
腎症候性出血熱は日本・中国を含む東アジア、ロシア、東欧、北欧で発生し古くから知られており、発熱、低血圧性ショック、腎疾患、出血傾向を症状とする。ハンタウイルス肺症候群は1993年以降北米、南米から報告されており、発熱、筋肉痛、肺浮腫、呼吸困難を症状とし死亡率が高い。ハンタウイルスはドブネズミなど野ネズミを自然宿主とするウイルスで、ネズミの尿、糞便を含む塵埃の吸入、またはネズミの咬創による唾液の侵入によりヒトへ感染する。ヒトからヒトの感染はないとされているが、急性期の血液や尿からウイルスが分離されるため、感染症例の血液、分泌物、排泄物に注意を払う。
[4]黄熱(四類)
◆病原体
黄熱ウイルス(Yellow fever virus)−フラビウイルス科、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
◆病院感染対策
標準予防策
◆消毒法
血中ウイルスを対象とする方法
サル(森林型)またはヒト(都市型)を自然宿主とし、ネッタイシマカをベクターとしてヒトへ伝播する。アフリカと南米で発生している。一過性の熱性疾患の場合もあるが、黄疸、腎不全、出血傾向をもたらして死因となることもある。通常の感染経路は蚊に刺されることであるが、感染症例の血液、体液に注意する。
[5]デング熱(四類)
◆病原体
デングウイルス(Dengue virus)−フラビウイルス科、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
◆病院感染対策
標準予防策
◆消毒法
血中ウイルスを対象とする方法
ヒトを自然宿主としネッタイシマカなど蚊をベクターとしてヒトへ伝播する。熱帯、亜熱帯地域に広く分布しする。不顕性感染の場合もあり、発症しても一過性の発熱、発疹など熱性疾患(デング熱)に留まることが多いが、出血傾向を伴うデング出血熱、ないしデングショック症候群をもたらして死因となることもある。通常の感染経路は蚊に刺されることであるが、感染症例の血液、体液に注意する。
[6]日本脳炎(四類)
◆病原体
日本脳炎ウイルス(Japanese encephalitis virus)−フラビウイルス科、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
◆病院感染対策
標準予防策
◆消毒法
血中ウイルスを対象とする方法
ブタ、ウマ、ウシを自然宿主としコガタアカイエカをベクターとしてヒトへ伝播する。ワクチン接種が普及した後の日本ではあまり見られないが、東アジア、南アジアで流行を続けている。多くが無症候に終わるが、突然の高熱、頭痛、嘔吐から脳炎を発症した場合にはしばしば死因となり、また後遺症として知能・運動障害をもたらすことが多い。通常の感染経路は蚊に刺されることであるが、感染症例の血液、体液に注意する。
[7]ウエストナイル熱(四類)214〜217)
◆病原体
ウエストナイルウイルス(West Nile virus)−フラビウイルス科、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
◆病院感染対策
標準予防策
◆消毒法
血中ウイルスを対象とする方法
トリを自然宿主とし蚊をベクターとしてヒトへ伝播する。アフリカ、中近東、西アジア、ヨーロッパで発生しているが、1999年より米国でも発生が見られるようになった。発症すると急性熱性疾患となり、多くの場合数日で解熱し自然治癒するが、高齢者などにおいて脳炎をもたらし死因となることがある。輸血による感染、子宮内母子感染、感染動物解剖中の穿刺事故感染が報告されており、臓器移植、母乳による伝播の疑いも報告されている。通常の感染経路は蚊に刺されることであるが、感染症例の血液、体液に注意する。
[8]狂犬病(四類)
◆病原体
狂犬病ウイルス(Rabies virus)−ラブドウイルス科リッサウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
◆病院感染対策
標準予防策、場合により接触予防策を追加
◆消毒法
エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
典型的には感染したイヌ、ネコの咬創によりヒトへ伝播するが、吸血コウモリ、キツネ、オオカミなど野生食肉動物が媒介動物で、狂犬病ウイルスはそれらの唾液に含まれる。症状は咬創周囲の知覚異常、疼痛、不安感、頭痛、反射性痙攣、嚥下困難、恐水症、昏睡、呼吸困難で致命的となる。現在日本には感染動物がほとんど存在しないと言われ、しかも飼い犬にはワクチン接種が義務付けられている。ただし、輸入動物による感染の可能性が存在する。感染症例には標準予防策を基本とするが、接触予防策の追加も考慮する218)。
[9]リッサウイルス感染症(四類)219)
◆病原体
狂犬病関連リッサウイルス(European bat lyssavirus 1、2、Australian bat lyssavirus、Lagos bat lyssavirus、Duvenhage virus、Mokola virusなど)−ラブドウイルス科
リッサウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
◆病院感染対策
標準予防策、場合により接触予防策を追加
◆消毒法
エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
European bat lyssavirus 1>、2はヨーロッパの食虫コウモリ、
Australian bat lyssavirusはオーストラリアのオオコウモリ(flying
foxes, fruit bats)など食果実コウモリと食虫コウモリ、 Lagos bat lyssavirusはアフリカの食果実コウモリ、Duvenhage virusはアフリカの食虫コウモリ、Mokola virusはアフリカのトガリネズミなどが媒介動物である。これら狂犬病関連リッサウイルスは狂犬病と類似の症状をもたらす。感染症例には標準予防策を基本とするが、接触予防策の追加も考慮する。
[10]ニパウイルス感染症(四類)220)
◆病原体
ニパウイルス(Nipahvirus)−パラミクソウイルス科、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
◆病院感染対策
標準予防策
◆消毒法
エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
1998年マレーシアで報告された。ニパウイルスはオオコウモリを自然宿主とし、ブタを経由してヒトに感染する。発熱、頭痛、眩暈、嘔吐を症状とし、脳炎に至って高い死亡率をもたらす。感染したブタの尿、唾液、咽頭・肺分泌物を吸い込んだブタに伝播し、また養豚作業者などに伝播することがある。ヒトからヒトへの伝播はごくまれと言われている。
[11]Bウイルス病(四類)
◆病原体
Bウイルス(Cercopithecine herpesvirus 1、あるいはB-virus)−ヘルペスウイルス科、DNA型ウイルス、エンベロープを有する
◆病院感染対策
標準予防策、場合により接触予防策を追加
◆消毒法
エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
Bウイルスはマカカ属などのサルを宿主とし、咬創によってヒトへ感染し、致命的な脳炎を起こす。サルの分泌液や培養細胞との接触による皮膚・粘膜からの伝播も成立する。感染症例には標準予防策を基本とするが、咬創部位、唾液、結膜からウイルスが検出されることもあるため、場合により接触予防策を追加する218)。
[12]サル痘(四類)221〜 223)
◆病原体
サル痘ウイルス(Monkeypox virus)−ポックスウイルス科オルトポックスウイルス属、DNA型ウイルス、エンベロープを有する
◆病院感染対策
標準予防策、接触予防策および飛沫予防策、場合により空気予防策を追加
◆消毒法
エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
サルなど霊長類に発生するが、1970年コンゴでヒトの感染例が発見され、1996〜7年に同じくコンゴでヒトの大規模な集団発生があった。2003年には米国でガーナからの輸入動物に由来するヒトの集団感染が発生した。発熱、頭痛、背痛、倦怠感などを生じ、天然痘と同様に丘疹や膿疱などを形成する。アフリカにおいて致死率は1〜10%と報告されており、天然痘よりは低い。ヒトからヒトへの伝播は天然痘よりも緩慢で、感染症例との接触や飛沫によって伝播すると思われるが、空気感染の可能性
も否定されていない。したがって、感染症例には接触予防策および飛沫予防策を行い、場合により空気予防策を追加する。
[13]A型肝炎(四類)224, 225)
◆病原体
A型肝炎ウイルス(Hepatitis A virus: HAV)−ピコルナウイルス科ヘパトウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない
◆病院感染対策
標準予防策、失禁がある場合などは接触予防策を追加
◆消毒法
エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法
潜伏期間は平均30日程度で、食欲不振、悪心、嘔吐、不快感、発熱、頭痛、腹痛などの前駆症状の後、黄疸を発症し、疲労感が継続する。ほとんどの場合静養により数十日で自然治癒するが、劇症肝炎に発展することもある。成人において比較的重い症状を呈する確率が高い。主な感染経路は糞便−経口感染で、血液感染も成立する。主に魚介類、生野菜、井戸水、排水などを介して伝播するが、環境において長時間感染性を保つため、感染症例の糞便中に排泄されたHAVが病院内での直接・間接接触により伝播することがある。また輸血、注射針の共用によるウイルス血症もある。
少数ながら霊長類からヒトへの感染も報告されている。
[14]E型肝炎(四類)226)
◆病原体
E型肝炎ウイルス(Hepatitis E virus: HEV)−未分類のウイルス、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない
◆病院感染対策
標準予防策、失禁がある場合などは接触予防策を追加
◆消毒法
エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法
多くの場合不顕性感染である。潜伏期はおおむね30〜40日で、発症すると黄疸、倦怠感、肝腫大、食欲不振を呈する。慢性化しないが、劇症肝炎に発展することがあり、特に妊娠第三期の妊婦においては重篤化する確率が高い。10代〜30代に発症例が多くみられる。発展途上国において、飲料水汚染による大規模な集団感染が発生しているが、様々な動物からもHEV様ウイルスが検出されている。日本でもブタからHEVが検出されている。主な感染経路は飲料水を介した糞便−経口感染であるが、感染症例の糞便中に排泄されたHEVが病院内での直接・間接接触により伝播する可能性がある。ただしその頻度はHAVより低いといわれている。
[15]感染性胃腸炎(五類、定点把握)227〜229)
◆病原体
ノロウイルス(Genus Norovirus)−カリシウイルス科ノロウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない
ロタウイルス(Genus Rotavirus)−レオウイルス科ロタウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない(親油性)
アストロウイルス(Human astrovirus)−アストロウイルス科、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない
アデノウイルス40, 41型(Human Adenovirus 40、41) −アデノウイルス科、DNA型ウイルス、エンベロープを有しない(親油性)
その他のウイルス
細菌などによる感染性胃腸炎も五類、定点把握である
◆病院感染対策
標準予防策、失禁がある場合などは接触予防策を追加
◆消毒法
エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法
ノロウイルス(Genus Norovirus)は以前、ノーウォーク様ウイルス(Norwalk-like viruses)と呼ばれていたが、2002年国際ウイルス学会においてこのように命名された。なお、日本の食品衛生法においては形態的分類の観点から、他のウイルスと共に小型球形ウイルス(small, round- structured viruses: SRSV)と呼ばれている。ノロウイルスの代表種はNorwalk virusである。
ウイルスによる感染性胃腸炎は乳幼児に多いが、ノロウイルスによるものは成人にも多い。症状は嘔吐、発熱、下痢などであるが、ロタウイルスの場合は白色の水様便を特徴とし、脱水症状となることもある。感染経路は汚染された水、食品を摂取することによる経口感染と、感染症例の糞便に排泄されたウイルスの接触伝播による糞便-経口感染(2次感染)である。ノロウイルスは典型的には生カキによる食中毒の原因であるが、少量の伝播で感染が成立するため、施設内、病院内で2次感染としての集団感染も多発している。小児ではロタウイルス、アストロウイルス、アデノウイルスによる病院感染も多い。感染症例には標準予防策を基本とするが、失禁がある場合などは接触予防策を追加する。
[16]インフルエンザ(高病原性鳥インフルエンザを除く)(五類、定点把握)230)
◆病原体
インフルエンザウイルス(Genus Influenzavirus A、B、C)−オルトミクソウイルス科、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
◆病院感染対策
標準予防策および飛沫予防策
◆消毒法
エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
世界的に流行を続けている呼吸器系感染症であり、北半球では1〜2月を中心とする冬に流行する。インフルエンザウイルスは感染性が強く、多くの健常人が感染し、発熱、頭痛、腰痛、筋痛、上気道炎、全身倦怠感などのかぜ症候群症状を起こす。通常は1週間程度で自然緩解するが、高齢者では肺炎などの重篤な合併症を起こす場合が多く、しばしば死因となる。小児ではインフルエンザ脳炎・脳症を起こす可能性がある。主な感染経路は飛沫による経気道感染で、病院内でもインフルエンザ集団感染が多発している。感染症例には飛沫予防策を行うが、接触感染の可能性もあり、空気感染の可能性も否定されていない。医療従事者のワクチン接種が最も重要な予防策であると思われる。
インフルエンザウイルスはA型、B型、C型の3属に分類され、A型はさらに抗原性の種類により、鳥インフルエンザウイルスも含めて、15種類のH抗原、9種類のN抗原に分類される。通常ヒトに感染しうるA型はH1〜3かつN1〜2であり、B型、C型も
ヒトに感染する。
日本を含め世界的に流行しているのは、A(H1N1)型(ソ連かぜ)、A(H3N2)型(香港かぜ)、B型の3種類である。過去にはA(H2N2)型ウイルスの大流行があり、近年はA(H1N2)型による感染もみられる。
[17]高病原性鳥インフルエンザ(四類)231,
232)
◆病原体
高病原性鳥インフルエンザウイルス(highly pathogenic avian
influenza virus、Genus Influenzavirus Aの一部)−オルトミクソウイルス科、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
◆病院感染対策
標準予防策および飛沫予防策、場合により接触予防策を追加
◆消毒法
エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
基本的には鳥の(エビアン:avian)インフルエンザウイルスA型のうち、病原性の高いものによるトリの感染症であり、通常ヒトには感染しないが、まれにヒトにも感染する。
鳥インフルエンザウイルスが、ブタなどを介した遺伝子交雑によりヒトへの感染性を高めて大流行をもたらす可能性が危惧されている。1996年英国で、ヒトの結膜炎症例からA(H7N7)型が検出された。2003年オランダ周辺で家禽にA(H7N7)型感染が流行し、養禽従事者とその家庭で結膜炎が集団発生した。
その際ヒトからヒトへの伝播も発生し、またインフルエンザ様症状から重症肺炎になった死亡例も報告された。1997年香港で呼吸器不全によって死亡した3歳の幼児からA(H5N1)型が検出され、さらに死亡者6人を含む18人にA(H5N1)型ウイルス感染が確認された。1999年には同じ香港でA(H9N2)型のエビアンインフルエンザウイルスが2人の小児に感染した。
鳥インフルエンザウイルスの感染症例には、通常のインフルエンザと同様、飛沫予防策を行い、結膜炎症状がある場合などには接触予防策を追加する。
[18]RSウイルス感染症(五類、定点把握)
◆病原体
RSウイルス(Human Respiratory syncytial virus)−パラミクソウイルス科、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
◆病院感染対策
標準予防策および接触予防策
◆消毒法
エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
主に冬季に流行し、成人において通常軽度の上気道感染などかぜ症候群症状をもたらすが、小児や高齢者では重症となる傾向があり、細気管支炎、肺炎、気管気管支炎をもたらすことがある。RSウイルスは感染症例の鼻汁に含まれ、それが直接間接に眼や鼻に触れることで頻繁に接触感染する。小児
などにおける病院感染が問題となっている。接触予防策の有効性が報告されている233)。
感染症予防法の対象外であるが、がぜ症候群の原因となるウイルスで、RSウイルスと同様の感染対策が必要なものとして以下のウイルスがある。
パラインフルエンザウイルス(Human
Parainfluenza virus 1、2、3、4)−パラミクソウイルス科、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
ライノウイルス(Genus Rhinovirus)−ピコルナウイルス科ライノウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない
コロナウイルス(Genus Coronavirus)−コロナウイルス科、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
アデノウイルス3、4、7、11型(Human Adenovirus 3、4、7、11)など
−アデノウイルス科、DNA型ウイルス、エンベロープを有しない
[19]水痘(五類、定点把握)234, 235)
◆病原体
水痘−帯状疱疹ウイルス(Human herpesvirus 3、あるいはVaricella-zoster virus)−ヘルペスウイルス科、DNA型ウイルス、エンベロープを有する
◆病院感染対策
標準予防策、接触予防策および空気予防策
◆消毒法
エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
主に小児の時に初感染して水痘(水ぼうそう)を発症し、治癒後神経節に潜伏感染する。その後加齢や免疫力低下などの要因により回帰感染して帯状疱疹を発症する。免疫低下が著しい場合、ウイルス血症、肺炎にいたることもある。ウイルスは気道分泌物や水疱内容物に含まれ、感染性が強く、発症者から他のヒトへ接触伝播し、また病院内における空気感染も報告されている。水痘症例には接触予防策を行い、さらに空気予防策またはそれに準じた対策を行う。少なくとも白血病患者、移植患者、HIV感染者、妊婦、新生児が発症患者と同室しないよう注意を払う。帯状疱疹症例には標準予防策を基本とする。
多くの人に小児期の感染歴があるが、感染歴やワクチン接種歴(任意接種)のない医療従事者は
、自ら水痘に罹患することのみならず自らが感染源となることを避けるため、原則として感染症例を担当しないようにする。
[20]麻しん(五類、定点把握)234, 236)
◆病原体
麻しんウイルス(Measles virus、またはRubeola virus)−パラミクソウイルス科、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
◆病院感染対策
標準予防策および空気予防策
◆消毒法
エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
小児に多いが、成人でも発病することがある。麻しんウイルスは経気道感染し、咽喉頭で増殖して発熱、結膜炎、上気道炎を起こし(カタル期)、さらに発疹をもたらして麻しん(はしか)を起こす。通常は自然治癒するが、乳幼児において肺炎や脳炎を合併することがある。また成人や移植患者が麻しんに罹患した場合には重症化する傾向がある。麻しんウイルスはカタル期において涙液、唾液中に大量に排出され、これらの飛沫が気道粘膜へ接触して伝播すると思われるが、空気感染もしばしばみられる。感染性が強く、かつ発症率も高く、病院感染も多く報告されている。感染症例には空気予防策またはそれに準じた対策を行う。少なくとも移植患者、新生児が感染症例と同室しないよう注意を払う。
多くの人がワクチン接種(制度的接種)や小児期の感染により免疫を獲得しているが、免疫のない医療従事者は
、自ら麻しんに罹患することのみならず自らが感染源となることを避けるため、原則として感染症例を担当しないようにする。
[21]流行性耳下腺炎(五類、定点把握)234, 237)
◆病原体
ムンプスウイルス(Mumps virus)−パラミクソウイルス科、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
◆病院感染対策
標準予防策および飛沫予防策
◆消毒法
エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
4〜5歳の小児に多いが、成人でも発病することがある。ムンプスウイルスは経気道感染し、鼻腔・上気道で増殖してリンパ節に移行し、耳下腺腫脹を特徴とする流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)を起こす。10%程度の頻度で無菌性髄膜炎となるが、そのほとんどは自然治癒により軽快する。ただし流産、早産、不妊、難聴、脳炎に至ることもある。ムンプスウイルスは潜伏期から唾液に含まれ、飛沫により伝播する。ウイルスの排出は耳下腺腫脹9日前から腫脹後9日までである。病院感染も多く報告されている。感染症例には飛沫予防策を行い、妊婦と近接しないよう注意を払う。
多くの人が小児期の感染またはワクチン接種(現在は任意接種だが、一時期は制度的接種)により免疫を獲得しているが、免疫のない医療従事者は
、水痘や麻疹と同様の理由により、原則として感染症例を担当しないようにする。
[22]先天性風しん症候群(五類、全数把握)、風しん(五類、定点把握)234, 238)
◆病原体
風疹ウイルス(Rubella virus)−トガウイルス科、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
◆病院感染対策
標準予防策および飛沫予防策、場合により接触予防策を追加
◆消毒法
エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
風疹は数年毎に流行し、学童から思春期に多い。風疹ウイルスは経気道感染し、上気道で増殖した後リンパ節に移行し、発熱や発疹などを伴う風疹(三日はしか)を起こす。通常は症状が軽く自然治癒するが、妊婦が感染すると胎盤で増殖して胎児に感染し、白内障、心疾患、難聴、発育不全などの先天性風疹症候群をもたらす場合がある。風疹ウイルスは、潜伏期から口腔、咽頭、気道分泌物に含まれ、飛沫により伝播する。病院感染も報告されている。感染症例には飛沫予防策を行うが、先天性風疹症候群の症例は生後1年ほどの期間、尿にもウイルスを排出するので接触予防策を追加する。感染症例が妊婦と近接しないよう注意を払う。多くの人がワクチン接種(制度的接種だが、接種率の低い年代がある)または小児期の感染により免疫を獲得しているが、免疫のない医療従事者は
、水痘や麻疹と同様の理由により、原則として感染症例を担当しないようにする。
[23]ヘルパンギーナ(五類、定点把握)
◆病原体
コクサッキーウイルスA3、A4、A5、A6、A8、A10型(Human coxsackievirus A3、A4、A5、A6、A8、A10)など−ピコルナウイルス科エンテロウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない
◆病院感染対策
標準予防策
◆消毒法
エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法
夏に流行し小児に多い。発熱と口蓋、口峡から扁頭、咽頭部にかけて疱疹がみられる。糞便と水疱液からウイルスが分離される。
[24]手足口病(五類、定点把握)
◆病原体
コクサッキーウイルスA16、A10型(Human coxsackievirus A16、A10) 、およびエンテロウイルス71型(Human enterovirus 71) など−ピコルナウイルス科エンテロウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない
◆病院感染対策
標準予防策
◆消毒法
エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法
夏に流行し小児に多い。発熱、口内炎と口周、手掌、足底に発疹、水疱、丘疹がみられる。糞便と水疱液からウイルスが分離される。
[25]伝染性紅斑(五類、定点把握)
◆病原体
ヒトパルボウイルスB19型(B19 virus、あるいはHuman parvovirus B19)−パルボウイルス科、DNA型ウイルス、エンベロープを有しない
◆病院感染対策
標準予防策および飛沫予防策
◆消毒法
エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法
学童に多く、発熱、発疹と共に両頬にびまん性の紅斑が見られるため、リンゴ病とも呼ばれる。ヒトパルボウイルスは鼻汁中や咽頭に存在し、飛沫または接触により鼻に伝播すると思われ、感染症例には飛沫予防策が必要だが、通常発疹のある段階ではウイルス排出が終了している。パルボウイルスはエンベロープを有しないウイルスの中でも特に消毒薬抵抗性が強いウイルスである。消毒が必要な場合には2%グルタラール、2,000〜5,000ppm次亜塩素酸ナトリウムの選択が必要で、アルコール、ポビドンヨードでは効果が不十分と思われる9)。
[26]突発性発しん(五類、定点把握)
◆病原体
ヒトヘルぺスウイルス6、7型(Human herpesvirus 6、7) −ヘルペスウイルス科、DNA型ウイルス、エンベロープを有する
◆病院感染対策
標準予防策
◆消毒法
エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
乳幼児に多く、6型は突発性発疹、7型はそれと類似した熱性発疹症疾患を起こす。主に既感染の健常成人の唾液を介して伝播すると思われ、6型よりも7型の方が遅く感染し、6型抗体陽性の幼児でも7型に感染する。1歳を過ぎると抗体保有率はほぼ100%である。
[27]性器ヘルペスウイルス感染症(五類、定点把握)
◆病原体
単純ヘルペスウイルス 1、2型(Human herpesvirus 1、2、あるいはHerpes simplex virus 1、2)−ヘルペスウイルス科、DNA型ウイルス、エンベロープを有する
◆病院感染対策
標準予防策
◆消毒法
エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
高頻度にみられる性感染症であり、初感染では性器、肛門周囲、臀部に複数の水疱を形成し潰瘍化するが2〜4週間で治癒する。ただし生涯持続感染し,回帰感染により口唇ヘルペス、角膜ヘルペス、性器ヘルペスを再発する。単純ヘルペスウイルスは発症者の水疱やびらんに多数含まれるが、1型は唾液・分泌物にも含まれ、多くのヒトが乳幼児期に初感染し無症候性感染者になる。一方、2型は外陰部、口、肛門の性的接触により感染し、また発症中は産道母子感染する。いずれの場合も、無症候性のウイルス排出がある。母体からの移行抗体の無い新生児が初感染した場合には脳炎となることがあり、移植患者が初感染または回帰感染した場合には肺炎となることがある。新生児における病院感染も報告されている239)。感染症例には標準予防策を基本とし、びらんが激しい場合、発症者である母体から生まれた新生児の場合などには接触予防策を追加する。
[28]尖圭コンジローマ(五類、定点把握)
◆病原体
ヒトパピローマウイルス6、11型(Human papillomavirus 6、11)−パピローマウイルス科、DNA型ウイルス、エンベロープを有しない(親油性)
◆病院感染対策
標準予防策
◆消毒法
エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法
20歳代前半の発生が多い。主に性行為感染症として性器の微細な傷から進入し、性器、肛門周辺に褐色で乳頭状あるいは鶏冠状の腫瘍を形成する。産道母子感染もある。また子宮癌との関連も指摘されている。
[29]咽頭結膜炎(五類、定点把握)
◆病原体
アデノウイルス3、4、7、11型(Human Adenovirus 3、4、7、11) など−アデノウイルス科、DNA型ウイルス、エンベロープを有しない(親油性)
◆病院感染対策
標準予防策、接触予防策および飛沫予防策
◆消毒法
エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法
小児に多く、症状は発熱、咽頭炎、結膜炎である。学校ではプールによる感染が多く、プール熱とも呼ばれる。接触感染および飛沫感染であり、器具、点眼薬、手指の汚染に注意が必要である。タオルの共有によることもある。
[30]流行性角結膜炎(五類、定点把握)240)
◆病原体
アデノウイルス8、11、19、37型(Human Adenovirus 8、11、19、37)など−アデノウイルス科、DNA型ウイルス、エンベロープを有しない(親油性)
◆病院感染対策
標準予防策および接触予防策
◆消毒法
エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法
片眼発症後2〜3日で両眼に発症する。結膜炎症状のある間は、感染性がある。病院感染が多く発生しており、ときに病棟閉鎖を余儀なくされることさえある。感染経路は接触感染であり、患者の眼、顔、手指の触れた器具、用具、点眼薬やそれらに触れた医療従事者の手指を介して広く伝播する。タオルの共用による感染、プールでの感染もある。アデノウイルスはエンベロープを有しないが親油性であるので、アルコールにも速効性が期待できる。
[31]急性出血性結膜炎(五類、定点把握)
◆病原体
エンテロウイルス70型(Human enterovirus 70)
、コクサッキーウイルスA24型(Human Coxsackievirus A24) 変異株−ピコルナウイルス科エンテロウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない
◆病院感染対策
標準予防策および接触予防策
◆消毒法
エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法
日本では九州、沖縄を中心に流行が見られる。結膜炎症状のある間は、感染性がある。感染経路は接触感染であり、患者の眼、顔、手指の触れた器具、用具、点眼薬やそれらに触れた医療従事者の手指を介して伝播する。エンテロウイルス属はエンベロープを有さず、親油性ではないため、アルコールの速効性はあまり期待できないが、アルコールにより丹念に清拭し物理的に拭き取ることで対応できる。厳密な消毒が必要な場合には500〜1,000ppm(特別な場合には5,000ppm)の次亜塩素酸ナトリウムを用いる。
[32]急性脳炎(ウエストナイル脳炎、日本脳炎を除く)(五類、全数把握)
◆病原体
単純ヘルペスウイルス、麻しんウイルス、ムンプスウイルス、インフルエンザウイルス(以上エンベロープを有する)、エンテロウイルス71型(エンベロープを有しない)、その他のウイルス
細菌、真菌、マイコプラズマ、原虫による急性脳炎も五類、全数把握である。
◆病院感染対策
標準予防策、微生物の種類により感染経路別予防策を追加
◆消毒法
微生物の種類により選択
急性脳炎の多くがウイルスによるものである。小児に多く発生する。発熱、頭痛、嘔吐、痙攣、意識障害、神経症状などが見られ、致命的であることも多い。
[33]無菌性髄膜炎(五類、定点把握)
◆病原体
ムンプスウイルス(エンベロープを有する)、コクサッキーウイルス、エコーウイルス(Human Echoviruses、エンテロウイルス属)(エンベロープを有しない)、その他のウイルス
◆病院感染対策
標準予防策、微生物の種類により感染経路別予防策を追加
◆消毒法
微生物の種類により選択
もっぱらウイルスによる髄膜炎である。幼児、学童期の小児に多く、特に男子に多い。症状は発熱、頭痛、嘔吐が主で1週間以内で症状は治まり、予後はおおむね良好である。
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