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感染症対策速報
2003/05/06
最新情報3:重症急性呼吸器症候群(SARS)
2003.05.06
重症急性呼吸器症候群(SARS) に関する4月27日~5月5日の主な情報は以下のとおりです。
- The Lancetの4月29日電子版に、小児においてSARS重症例が少ないとの報告が掲載されました1)。
- WHOの4月30日インターネット公開資料に、SARSの臨床経過とウイルス検出頻度に関する資料が掲載されました2)。それによると発症後21日目においても、鼻咽頭吸引液、便、尿からSARS virusが検出される場合が多く、したがって気道分泌物のみならず便、尿に対する接触予防策も重要であると考えられます。この正式報告はThe Lancetに掲載される予定とのことです。
- Scienceの5月1日電子版にの5月1日電子版に、SARS virusのゲノム解読に関する報告が掲載されました3)4)。
- MMWRの5月2日号に、試験室におけるSARS判定が完了した60例(疑い例41例、可能性例19例)のうち、陽性は6例(すべて可能性例)であり、54例は陰性であったとの報告が掲載されました5)。したがって、既に報告されている疑い例、可能性例の多くがSARSではない場合もあると考えられます。
- The Lancetの5月3日号に、SARS患者をケアした医療従事者のケースコントロール研究が掲載されました6)。この報告においては、マスクの使用が医療従事者へのSARS伝播を顕著に減少させ、サージカルマスクでもN95マスクでも有効であるが紙マスクは無効であり、SARSはもっぱら飛沫により伝播すると思われ、エアロゾル化のない場合には飛沫予防策と接触予防策を行うことで適切であり、通常は空気感染しないと思われることが示されています。したがって、まず気道分泌物や便、尿のエアロゾル化を防止することが重要であると考えられますが、空気感染の可能性が全面否定されたわけではなく、また治療法の確立していない死因となり得る感染症であるため、SARS症例を受け入れる医療機関において空気予防策を行うことは現時点で適切と思われます。ただし一般の人が市井においてN95マスクを使用する必要はないとされています7)。
- WHOは5月4日、SARS virusの生存性と熱・消毒薬などへの感受性に関するデータを公表しました8)。それによると、(1)室温で便中およびプラスチック表面において少なくとも2日間、尿中において少なくとも1日間生存、(2)pHの高い下痢患者の便においてより安定(4日間まで)、通常便では3~6時間のみ安定な場合もある、(3)4℃またはマイナス80℃で21日間ほとんど減少しない、(4)室温2日間で10分の1に減少するが、既存のヒトコロナウイルスより安定と思われる、(5)56℃の熱15分で10,000分の1に減少、(6)アセトン、10%ホルムアルデヒドおよびパラホルムアルデヒド、10%Clorox(5,250ppm次亜塩素酸ナトリウムと思われる)、75%エタノール(消毒用エタノールとほとんど同一)、2%フェノールで5分で消毒可能、とのことです。SARS virusはエンベロープを有するウイルスであり、比較的良好な消毒薬感受性があるものと推測されます。上記のデータは試験室(検査室)条件例であり、1,000ppm次亜塩素酸ナトリウム、70v/v%イソプロパノール、80℃10分熱水など、より実務的な消毒方法を選択することは妥当と思われます。また、セミクリティカル器具については通常どおり2%グルタラール、0.3%過酢酸、0.55%フタラールなどの高水準消毒薬を適用すればよいと思われます。なお、環境表面においてB型肝炎ウイルスは1週間、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌やバンコマイシン耐性腸球菌は1~2週間生存すると言われています。
<行政情報・統計>
- WHOは4月28日、20日間新規患者が発生していないことを受け、ベトナムを伝播地域の指定から解除しました9)。
- 外務省は4月29日、ベトナムに関する危険情報を解除しました。また、中国全土について「十分注意して下さい」との危険情報を発出し、北京市の在留邦人に帰国の可能性も含め検討することを勧告しました10)。
- WHOは4月29日、4月30日よりトロントへの渡航延期勧告を解除すると発表しました。ただし伝播地域としての指定には変更ありません11)。
- 外務省は5月1日、トロントに関する危険情報を「十分注意して下さい」に引き下げました10)。
- WHOは5月1日、SARS症例定義に試験室試験による判定基準を加えました12)。また伝播地域の指定から米国と英国を解除し、中国の天津とモンゴルのウランバートルを加えました13)。
- 外務省は5月2日、ウランバートル市に関して「十分注意して下さい」との危険情報を発出しました10)。
-
WHOは5月2日、伝播地域をAffected areasからAreas with recent local transmissionに再定義し、伝播の程度により以下のように低、中、高、不明に分類しました14)。
高: 北京、広東、香港、山西
中: トロント、台湾、シンガポール
低: ウランバートル
不明: 内モンゴル、天津 -
外務省は5月5日現在、以下の危険情報を出しています10)。
「渡航の是非を検討して下さい(不要不急の渡航については延期をおすすめします)」 - 香港、広東省、北京市、山西省
「十分注意して下さい」 - 中国全土、台湾、マカオ、シンガポール、トロント、ウランバートル市 - 5月5日にWHOが報告したSARS症例累積数(可能性例)は27カ国からの6583例で、461例が死亡、2764例が既に回復と報告されています15)。これから可能性例における症例致命率は7.0%と計算されます。厚生労働省の5月2日17時の公表では、日本の疑い例・可能性例はこれまでに全例が否定されています16)。
*2月14日~4月26日までの情報については、下記リンクをご覧下さい。
http://www.yoshida-pharm.com/information/dispatch/dispatch22.html
2003.05.06 Yoshida Pharmaceutical Co.,Ltd.
<参考>
http://image.thelancet.com/extras/03let4127web.pdf
http://www.who.int/csr/sars/prospectivestudy/en/index.html
http://www.sciencemag.org/cgi/rapidpdf/1085952v1.pdf
http://www.sciencemag.org/cgi/rapidpdf/1085953v1.pdf
http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/wk/mm5217.pdf
http://pdf.thelancet.com/pdfdownload?uid=llan.361.9368.original_research.25515.1&x=x.pdf
http://www.who.int/csr/sars/survival_2003_05_04/en/index.html
http://www.mhlw.go.jp/topics/2003/03/tp0318-1b19.html
http://www.who.int/csr/sarsarchive/2003_04_28/en/
http://www.pubanzen.mofa.go.jp/
http://www.who.int/csr/sarsarchive/2003_04_29/en/
http://www.who.int/csr/sars/casedefinition/en/
http://www.who.int/csr/don/2003_05_01/en/
http://www.who.int/csr/sarsareas/2003_05_02/en/
http://www.who.int/csr/sarscountry/2003_05_05/en/
http://www.mhlw.go.jp/topics/2003/03/tp0318-1c.html