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Carlisle
医療関連感染情報季刊誌より
Vol.9 No.4 Winter 2005

研究室で罹患したSARS(Severe Acute Respiratory Syndrome)

Lim, P.L., Kurup, A., Gopalakrishna, G., et al.
Laboratory-acquired severe acute respiratory syndrome.
N. Engl. J. Med., 350:1740-1745, 2004.

 シンガポールにおけるSARSの発生は、2003年5月末に終息し、その後すぐに、CDC(Centers for Disease Control and Prevention)はトロント、香港、中国、台湾に対する旅行警戒区域指定を解除した。本論文は、世界的なSARS発生が終息した後に、シンガポールにおいて発生した最初のSARS症例についての報告である。

 患者は地方の大学で細菌学を学ぶ27歳の大学院生であった。彼は、SARS関連のコロナウイルスやデング熱ウイルス、クンジンウイルスに関する研究を行っている研究室において、生物学的安全性レベル3の強毒菌株であるウエストナイルウイルスを扱っていた。彼は、発熱、頭痛、多発性関節痛、持続性の空咳などの症状を呈したため、2003年9月に入院した。患者の胸部X線像は正常であった。最初、患者は一般病棟に入ったが、次の日からSARSウイルスへの感染を危惧され、隔離病棟に送られた。数日後、喀痰、便、血液サンプルのPCR(polymerase chain reaction)分析により、喀痰、便検体がSARSウイルス陽性であり、SARSを発症していることが認められた。この時点で、患者の胸部X線像は左中肺浸潤を示し、CTにおいても左下葉部への浸潤が確認された。しかし、患者は、SARSウイルスに曝露したことはなく、SARSの感染に結びつくような旅行歴はないと証言した。また、患者の家族や仕事関係者に対するインタビューにおいても、SARSウイルスに感染するような原因を確認することはできなかった。しかし、患者は7月末、8月にSARSウイルスを研究している機関に属する研究室に出入りし、そこでウエストナイルウイルスの培養を行っていた。

 その後の分析結果から、発症の3日前に患者が取り扱っていたウエストナイルウイルスのサンプルからSARSウイルスが検出された。さらにゲノム配列分析により、患者から分離された菌株はウエストナイルウイルスのサンプルに混入していたSARSウイルスと同じ連続鎖をもっていることが確認された。以上より、患者が研究室においてSARSに感染したものと考えられる。

 本症例より、生きているSARSウイルスを取り扱う研究室は感染源となり得ること、生物学的安全性の評価は重要であることが示された。さらに、本症例はSARSのアウトブレイクを予防するために、迅速かつ徹底的な対応をするには、継続的な警戒が必要であることを示している。この患者の症状は軽症で、胸部X線像も後から悪化したものである。しかし、鑑別の指標となる疑わしい徴候の存在や確実性の高い検査結果によって、SARSであると診断された。SARS診断の遅れは発生を拡大し、最終的には世界中に蔓延する恐れがあり、十分な注意が必要である。

(訳:杉浦里加、木津純子)

Carlisle Vol.9 No.4 p8-11 Winter 2005

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