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Y's Letter
感染対策情報レター
2021/03/12

新型コロナウイルス流行期間中における頻繁な手指衛生と手荒れについて


Y’s Letter Vol.4.No.22

Publised online:2021.03.09 Download
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はじめに

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)が世界中へと広がり、日本国内でも今なお猛威を振るっています。本感染症の対策として手指衛生が最も重要な対策の1つとして挙げられ、頻繁にアルコール製剤等の使用による手指衛生が実施されています。しかしながら頻繁に手指衛生を行うことによる手荒れが問題となります。
今回は新型コロナウイルス流行下における頻繁な手指衛生による手荒れの問題や手荒れ対策について述べます。

新型コロナウイルス流行下における頻繁な手指衛生による手荒れ

医療機関においては、新型コロナウイルス流行期間中は感染対策がさらに強化され、頻繁に手指衛生を行うことによる手荒れが問題となっています。
トルコの医療機関において新型コロナウイルスの流行前および流行期間中における医師・看護師の手湿疹の頻度を調査した結果、流行前が6.6%であったのに対して流行期間中では11.7%に増加し、手の乾燥や痒みなど、湿疹関連の症状については39.5%から79.3%に増加したと報告されています1)。また手湿疹のリスク因子として、女性、アトピー性疾患の既往歴、高頻度の手洗いが挙げられています(表1)1)
トルコにおける別の研究でも新型コロナウイルス流行期間における医療従事者の手湿疹の割合とリスク因子を検討しており、新型コロナウイルス感染症患者をケアする医療従事者において手湿疹を有していた割合は50.5%と報告されています2)。またこの研究では、手湿疹の有る群と無い群の背景を調査した結果、女性、高年齢、長い勤務年数、全身性の乾燥肌、過去1年間の手湿疹罹患歴、家庭での家事、および1日20回を超える手洗い回数については手湿疹を有する群で有意に高かったと報告されています2)。また多変量ロジスティック回帰分析では、過去1年以内の手湿疹既往歴(オッズ比:18.5、95%信頼区間:3.82-89.9)、および1日20回を超える手洗い回数(オッズ比:3.28、95%信頼区間:0.995-10.8)が手湿疹の独立したリスク因子であることが示されました(表1)2)
中国の研究では、新型コロナウイルスの診療に従事する医師・看護師を対象として、皮膚の状態やいくつかの感染対策の頻度等の調査を行った結果、74.5%の医療従事者において手指の皮膚障害が認められたと報告されています3)。この研究においては手指の皮膚障害のリスク因子として1日10回を超える高頻度の手指衛生が挙げられていました(表1)3)
またドイツの研究では、新型コロナウイルス流行期間に医療従事者の自己申告による手湿疹に関連した症状を調査した結果、手の乾燥が最も頻度が高く83.2%で認められ、次いで紅斑(38.6%)、痒み(28.9%)、灼熱感(21.1%)、落屑(18.4%)、ひび割れ(9.6%)、痛み(4.4%)であり(表1)、これらの症状を1つ以上有している医療従事者の割合は90.4%と報告されています4)。しかしながらこれらの症状を呈していたにも関わらず、手湿疹を発症したと積極的に認識していた割合は14.9%のみでした4)。なお、この研究では新型コロナウイルス流行前および流行期間中における手洗いと手指消毒の頻度についての調査も行っており、流行前に比べて流行期間中の方が手洗い・手指消毒共に頻度が有意に高かったとされています4)

表1. 新型コロナウイルス流行期間中における医療従事者の手湿疹等の皮膚疾患保有率とリスク因子
 手の皮膚疾患保有率   手の皮膚疾患のリスク因子 
 Celik V, et al. 1) 手湿疹
 流行前:6.6% 流行期間中:11.7%
湿疹関連症状
 流行前:39.5% 流行期間中:79.3%
女性、アトピー性疾患の既往歴、
高頻度の手洗い
 Erdem Y, et al. 2) 流行期間中の手湿疹:50.5% 過去1年以内の手湿疹既往歴、
1日20回を超える手洗い回数
 Lan J, et al. 3) 手指の皮膚障害:74.5% 1日10回を超える高頻度の手指衛生
 Guertler A, et al. 4)  流行期間中の手湿疹関連疾患
手の乾燥:83.2%、紅斑:38.6%、
痒み:28.9%、灼熱感:21.1%、
落屑:18.4%、ひび割れ:9.6%、
痛み:4.4%
リスク因子の評価なし

今回紹介した4つ研究の一部では手湿疹のリスク因子として保湿剤の使用増加が挙げられていましたが、手湿疹を有する方の多くが治療目的で保湿剤を使用していることが理由であると推察していました1)2)
このように新型コロナウイルスの流行により感染対策が強化されたことで、頻繁に手指衛生を行うことによる手湿疹を中心とした手荒れが問題になっています。手荒れを起こすと感染対策上様々な問題が生じますが、最近の報告では、手荒れを起こしている部位が新型コロナウイルスの伝播に関与する可能性も指摘されています。新型コロナウイルスの受容体であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体は皮膚の血管・毛細血管、表皮基底層、毛包に豊富に存在しており、また汗腺の1つであるエクリン腺にも存在します5)。またインテグリンと呼ばれるある種の接着分子が新型コロナウイルスの受容体であり、このインテグリンのいくつかのタイプは創傷の治癒の過程で発現します。手荒れが酷くなるとこれら受容体が露出し、新型コロナウイルスが接着しやすくなる可能性があります。これらの事から、頻繁に手指衛生を行っている施設においては手湿疹による皮膚びらんが生じ、直接接触による新型コロナウイルスの伝播を起こす可能性が理論的にあり、この可能性を排除すべきではないとの指摘があります6)。これはまだ仮説に過ぎませんが、手荒れを起こすと黄色ブドウ球菌などの微生物が定着しやすくなる事や7,8)、手指衛生のアドヒアランスが低下する9)などの問題点が指摘されていることから、手荒れ対策を講じることは感染対策の観点からも重要になります。

手荒れ対策について10)

手荒れを防止するためには手荒れの原因となる因子の排除やその因子から手指を防御することが必要になり、いくつかの手荒れ対策が提案されています(表2)。教育については手指消毒、流水と石けんによる手洗い、手の乾燥など手指衛生の手順や保湿剤の頻繁な使用などの教育を施設内で実施することが重要になります。
手指衛生については保湿剤を含むアルコール製剤が石けんと流水を用いた手洗いよりも皮膚の乾燥や刺激が有意に少ないことがいくつもの研究にて証明されています11-15)。そのため、手が見た目に汚れていなければ、保湿剤を含むアルコール製剤を手指衛生の第一選択とします。保湿剤を含まないアルコール製剤を繰り返し使用すると、アルコールの脱脂作用により手荒れを誘発しやすくなります。また、手指衛生に使用する製品に関してはどの製品であってもアレルギー等の潜在的なリスクがあり得ます。そのような事から施設内で使用している製品にアレルギーを示す方のために、個人使用の代替品を提供する体制を整備することが必要です16)
手が見た目に汚れている場合は石けんと流水による手洗いを行います。その際に、冬場など手が冷たいときにはぬるま湯を使用します。洗浄剤による皮膚刺激は水の温度に依存していることが示されており17)、温度が高いほど洗浄剤の皮膚浸透性が高まることで手の脂分が洗い流されやすくなります18,19)。そのようなことから熱いお湯で手を洗うことで手荒れを誘発しやすくなると考えられます。また手が濡れた状態では、角質層の天然保湿因子の喪失・希釈や皮膚バリア機能の低下などを起こし、手荒れを誘発しやすくなります20,21)
また、ある報告によると、濡れた手は乾燥した手よりも接触による微生物伝播を起こしやすくなると評価されています22,23)。そのような事から手洗い後には直ぐに手を乾燥させる必要があり、その際にはエアドライヤーよりもペーパータオルを使用する方が衛生面から良いとされています24)

表2. 手荒れ対策(参考文献10の内容の一部要約)
1.教育(手指衛生の適切な手順、手の乾燥や接触性皮膚炎予防のための頻回な保湿剤の使用などについ
ての教育)
2.手が目に見えて汚れていないときは速乾性手指消毒薬を使用する。
3.手が目に見えて汚れている場合は、石けんと流水で手を洗う。
4.冬場など手が冷たい時に流水と石けんで手を洗う場合、熱いお湯ではなく、ぬるま湯を使用する。
5.長時間、手を濡れた状態にしない。
6.ハンドクリーム等を使用する。
7.手荒れの原因となる化学物質との接触を避ける。
8.必要に応じて皮膚科医など専門家の診察を受け、抗炎症外用薬の使用を考慮する。

水に触れる業務を行う場合には使用者の肌に合う素材の手袋を使用することも手荒れ防止に効果的な方法です25)。手袋の素材によっては接触性皮膚炎を起こす可能性があるので注意が必要です。皮膚の保湿・保護を目的としてハンドクリーム等を使用することも基本的な手荒れ対策となります。業務中や家庭において手洗い後にハンドクリームを使用することが薦められます。しかしながら新型コロナウイルス流行期間中における手洗い後のハンドクリームの使用について調査した結果、22.1%しか使用されていなかった報告があることから26)、適切なハンドケアについての教育が重要になります。環境や器具表面に使用する消毒薬などの手荒れを引き起こす危険性がある化学物質を直接手で触れないように注意することへの配慮も必要です。既に手荒れが生じている場合には必要に応じて、皮膚科医など専門家の診察の下で抗炎症作用を有する外用薬を使用することも考慮します。早期に適切な治療を適時に行うことで、症状の重症化やその後の合併症の増加を防ぐことができます。

おわりに

新型コロナウイルス流行の終息がまだ見えない中で、医療機関のみならず市井においても手洗いや手指消毒をする機会が増え、それに伴い、手荒れのリスクが高まっていると考えられます。手洗い、手指消毒、およびハンドケアなどに使用する製剤は個人に合った適切なものを使用する等、手荒れを起こさせないための対策を行うことが重要です。しかしながらこれらの対策を行っても手荒れを誘発する可能性があります。その際には出来るだけ早期に皮膚科医など専門家の診察をうけ、適切な治療を行うことが肝要となります。

<参考文献>

  1. Celik V, Ozkars MY:An overlooked risk for healthcare workers amid COVID-19: Occupational hand eczema. North Clin Istanb 2020;7:527-533.[Full Text]
  2. Erdem Y, Altunay IK, Aksu Çerman A, et al.:The risk of hand eczema in healthcare workers during the COVID-19 pandemic: Do we need specific attention or prevention strategies? Contact Dermatitis 2020;83:422-423.[Full Text]
  3. Lan J, Song Z, Miao X, et al.:Skin damage among health care workers managing coronavirus disease-2019. J Am Acad Dermatol 2020;82:1215-1216.[Full Text]
  4. Guertler A, Moellhoff N, Schenck TL, et al.:Onset of occupational hand eczema among healthcare workers during the SARS-CoV-2 pandemic: Comparing a single surgical site with a COVID-19 intensive care unit. Contact Dermatitis 2020;83:108-114.[Full Text]
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